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ペットが亡くなったので「喪中はがき」を出したら、「やり過ぎ」「理解に苦しむ」?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:ideyuu1244/イメージマート)

11月の下旬から喪中はがき(年賀欠礼状)が届きます。それは身内に不幸があり、年始のあいさつを出さないということです。

いまやペットは、家族の一員と言われていますが、ペットの喪中はがきが届いたらどうしたらいいのかということが話題になっています。今日は、愛犬や愛猫が亡くなったときの飼い主の心情を考えていきましょう。

ペットの猫が死んだので「喪中はがき」を出したら、非常識?

それでは、話題になったOTEKOMACHIにより記事を読んでみましょう。

「喪中のため新年のごあいさつを失礼させていただきます」

昨年11月、30年来の親友A子から、続柄のない喪中はがきを受け取ったという「さあや」さん。両親どちらかの逝去かと思い込み、A子に電話をすると、死んだのは飼っていた猫でした。独身のA子にとって、その猫は「子どもであり、パートナーであり、同士でもある、かけがえのない存在」と聞いていました。

どれほど溺愛していたとしても、死んだペットを喪中の対象とする考えに抵抗感のあった「さあや」さんは、「もうちょっと社会性身につけたほうがいいよ」と言って電話を切りました。それっきり謝罪も連絡もないA子との関係を案じ、読売新聞の掲示板サイト「発言小町」で「皆様ならどう対応しますか?」と意見を求めました。

つまり喪中はがきを出したA子さんは、だれが亡くなったという続柄を書かずに、さあやさんに出しました。受け取ってさあやさんは、人間だと思い慌てて連絡すると猫だったので、ペットのことでわざわざ喪中はがきを出すのは非常識と思ったというものでした。

なぜ、A子さんはさあやさんに猫の喪中のはがきを出したのか?

筆者は、ペットの喪中はがきを受け取った人の中で、さあやさんのように非常識と思う人がいることがショックでした。A子さんを知っているわけではありませんが、A子さんの心情を推測してみましょう。いくつかの理由があるので、その辺りから考えてみました。

□犬や猫の寿命が延びたから

写真:CavanImages/イメージマート

一般社団法人ペットフード協会の「令和2年 全国犬猫飼育実績調査」によりますと、猫全体の平均寿命は15.45歳。犬全体は14.48歳です。

つまり、人間だとすると生まれ子が中学3年生まで、育てることです。A子さんの猫が何歳で亡くなったかわかりませんが、統計では15歳過ぎまで生きていたことです。子どもがいないA子さんにとっては、中学3年まで育てあげた子が、亡くなったことになるのです。

□室内飼いになったから

写真:アフロ

いまの猫は、室内飼いの子が多いです。

A子さんの猫が室内飼いだったとすれば、仕事から帰ってきたA子さんに毎日、出迎えてすりすりとして、温もりを与えてくれていました。A子さんがただいまと抱き上げると猫の体温から温もりを感じていたのかもしれません。

仕事で疲れたA子さんにとっては、ずいぶんと癒やしになったことでしょう。

□コロナ禍だったから

写真:アフロ

いまの時期、コロナ禍で人と会うことを制限されていました。そして密になることを避けて距離をおく時代になっています。

そうなるとどうしても孤独感を味わってしまうことも多くなります。そんななか、猫はA子さんにとって心の拠りどころだったのでしょう。

□年賀状を出し合う仲なので

A子さんもだれかれではなく、愛猫が亡くなったことを知らせているわけでないと思います。喪中はがきを出すということは、年賀状を毎年、やり取りしている相手ということです。

たいへん親しい人だけというわけではありませんが、年賀状を出し合う仲なので、愛猫の死を伝えて年賀状を出す気分にならないことを伝えたかったのでしょう。

写真:PantherMedia/イメージマート

ペットを飼っていない人には、愛犬や愛猫を亡くした喪失感や悲しみは、わかりにくいかもしれません。しかし、それは家族が亡くなったのと同じぐらい深い人もいるのです。

がんの治療をしていると、飼い主は寝る時間を惜しんでペットのお世話をされている方がいらっしゃいます。

ある飼い主は「自分より大切なものがあることは幸せだし自分のために食事の用意とかができなくても、この子のためならできる」と言われていました。

ペットを育てたからといって大きくなって飼い主に料理を作ったり掃除をしたりなどはしてくれませんが、猫や犬が傍にいてくれるだけで十分に幸せなのです。そんな飼い主がいることを理解してほしいです。

ペットを飼っていない人は、ペットの喪中はがきを出すことを非常識と思わず、

飼い主の悲しみのサインだなと理解して温かく受け止めてもらうとありがたいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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