スペインに敗れ、U-20女子W杯準優勝。困難な大会で快進撃を見せたヤングなでしこの戦いを振り返る
コスタリカで行われたU-20女子W杯決勝で、U-20に日本女子代表はスペインに1-3で敗れ、準優勝となった。
2018年の前回大会(フランス)と同じ決勝カード。池田太監督とペドロ・ロペス監督による4年越しの再戦。2014年のU-17W杯(コスタリカ)決勝の会場で、同じ対戦国ーー。世代を超えて切磋琢磨してきたライバルとのファイナルは、3万人の大観衆を集める注目の一戦となった。
だが、試合では前半25分までに許した3失点が、最後まで重くのしかかった。
キックオフ前の雨でピッチは滑りやすくなっていたが、スペインは素早く、かつ正確にボールを動かしてスペースを有効に使い、失うと日本陣内で圧力をかけて奪い返した。「自分たちのやりたいサッカーを相手にやられてしまった」と複数の日本選手が振り返ったように、スペインのペースだった。
そして、最も警戒していた2トップに仕事をさせてしまった。前半12分に今大会得点王のFWインマ・ガバーロに背後を取られて先制されると、その10分後には、陸上の400m走と400mハードルで18歳以下のスペイン記録を保持しているFWサルマ・パラルエロに同じ形から抜け出され、2-0。
単純なスピードだけではなく、受け手の動き出しの速さとタイミング、トラップからシュートに至る技術も秀逸だった。
最終ラインのDF杉澤海星とDF長江伊吹は、それぞれの視点から立ち上がりをこう振り返っている。
「前半は、こんなにボールを持たれてしまうんだという印象で、一人ひとりの技術も高いし、ボールの動かし方も巧みだったので、なかなか奪いどころが見つけられませんでした」(杉澤)
「想定とは違って、4枚が張ってプレスをかけてきたので焦ってしまった部分がありました。そこでもっと冷静に判断できれば良かったと思います」(長江)
さらに、25分にはエリア内でDF石川璃音の手にボールが当たってハンドを取られ、パラルエロが決めて3-0。
反撃のきっかけが欲しい日本は、池田太監督が3バックから4バックに変更。この変更が一つの契機となり、一気に流れを押し返す。ただ、「ゲームに入り切る前に失点が続いてしまったところは勝敗を分けた一つのポイントだった」(池田監督)というように、3点差は、試合巧者のスペインにゲームコントロールの余裕を与えるのに十分だった。
それでも後半、示し合わせたフリーキックで相手の裏をかき、途中交代のMF天野紗が決めて2点差に追い上げると、会場の空気がにわかに変わった。その後は日本がスペイン陣内でボールを回す時間が続き、次第に大きくなる会場の「ジャパン!」コール。ラスト15分で逆境を覆したフランス戦のようなドラマをもう一度見せてほしい、という期待も込められているように感じた。だが、ペドロ監督は終盤、ガバーロとパラルエロのダブルエースを下げ、守備的な戦いにシフト。最後まで、その牙城を崩すことはできなかった。
スペインは、悲願の大会初優勝。女子サッカーの歴史に新たな一ページが刻まれた。
【決勝進出の陰に】
大会2連覇はならず、準優勝という結果になったが、今大会でヤングなでしこたちが見せた6試合は、まさに快進撃だった。
まず、日本はコロナ禍で対外試合ができないというハンデを負っていた(他チームは対外試合を行なっている国が多かった)。アジア予選もなくなり、チームとして一体感を高める場や、コミュニケーションを取る機会も限られていた。
それでも、オランダ、ガーナ、アメリカという強豪揃いのグループステージを勝ち抜き、ノックアウトステージではフランス、ブラジル、そしてスペインというタイプの違う優勝候補と対戦。内容も伴った勝利で僅差の試合を勝ち上がった。ブラジル戦の前に、池田監督はこう話していた。
「今回のチームはパンデミックの影響で国際試合を経験できなかったので、国内キャンプでトレーニングを重ねました。選手たちの理解力や実行力、技術の高さはこのチームの特徴だと思いますし、W杯に入ってからは1試合1試合勝利して成長しながら大きくなっていっている印象です」
チーム力を高めた一つのポイントは、大会に入る前の直前キャンプだ。7月下旬から8月上旬にかけて韓国(◯1-0)、カナダ(◯2-1)と対戦し、女子の海外選手のリーチや間合いを肌で感じた。最終ラインのラインコントロールに関しては、その段階ではまだバラバラだったが、現地入りしてから共有ごとを積み重ね、試合の中で揃えていったという。
「初戦のオランダ戦ではそこまで揃ってはいなかったのですが、試合を重ねる中で共通理解が高まってきて、フランス戦やブラジル戦では何も言わなくても揃うようになってきていました」(長江)
対戦国の力量を見極めた綿密な対策も、チームを支えた大きなポイントだった。池田監督をはじめとするスタッフは15名体制で臨み、相手の強みと狙いどころを徹底分析し、それをピッチに立つ選手たちがしっかりと表現していた。
「試合に向けた練習で、『これをやったら相手の苦手なところをついていける』ようなメニューがあって、試合では誰が出てもそれをできるように練習しています」(石川璃音/大会中)
また、日本が対外試合をできなかったことは、相手に「研究材料を与えない」という点ではプラスに働いた。池田監督は、その状況を利用して3バックをオプションとして導入。取り入れたのは、大会直前の6月の国内キャンプだった。
「今まで4バックでやることが多かった中で、国際試合経験が少ない分、我々の情報も少ないと考えていましたので、一つ違った形を引き出しとして持って大会に入っていこうというと。6月のキャンプあたりで、この形も一つ武器になるなという手応えがありました」(池田監督)
大会が始まると、日本はほとんどの試合で3バックをベースにして戦った。試合状況によっては5バックにもなるが、守備固めではなく、あくまで「ボールを奪いにいくためのシステム」であることを強調。右サイドバックの杉澤と、左サイドバックのDF小山史乃観のポジション取りのうまさや90分間上下動を繰り返せる運動量も、その大胆な変化を可能にした理由だろう。特に決勝トーナメントに入ってからは、両サイドバックの攻撃参加が決定機に結びつく場面も多かった。
攻撃に関しては、「この世代はタレントが揃っている」という言葉をよく耳にしてきた。U-17代表の頃から頭角を現していた浜野や天野、MF藤野あおばやFW土方麻椰、MF大山愛笑といった飛び級の若手世代と、山本やFW島田芽依、MF吉田莉胡ら、WEリーグで活躍している選手たちが融合。技術の高い選手たちが集結していた。グループステージではシュート本数に対する決定率が低く、決定力も課題に上がったが、ペナルティエリアに進入する「崩しの質」は、スペインと並んで今大会屈指だったのではないだろうか。
南米予選から無失点できていたブラジルから流れの中で2点を奪ったことや、今大会1失点しかしていなかったスペインの堅守をセットプレーで破ったことなどは、自信になる。
17歳から20歳まで4学年が共存し、平均年齢は18.8歳という若いチームだったが、年下の選手たちが伸び伸びとプレーできる環境を作った年上世代の功績も大きい。20歳のDF田畑晴菜は、その雰囲気をこう伝えた。
「下の子たちがどんどん意見を言って要求もしてくれていて、年齢差を感じないし、雰囲気よくコミュニケーションを取れています。自分が年下だった時は先輩に緊張してしまったり、話しづらさも感じていました。だからこそ、みんなが話しやすいような雰囲気を意識しています」
主将の長江は最年長の代だが、フォアザチームを徹底し、コミュニケーション力が非常に高いキャプテンだった。2年前のチームでキャプテンを務めていたDF高橋はななど、前回大会で世界一を知る選手の背中を見てきたことも心の支えになっていたようだ。大会中も、よくメッセージをやり取りして励まされていたという。
長江は、今大会のターニングポイントとして、決勝トーナメント前の選手ミーティングを挙げていた。
「フランス戦の前々日ぐらいに、選手だけで本音をぶつけ合うミーティングをやりました。21人全員が本音をぶつけ合うことで、みんなの気持ちも共有できたし、もっとこのチームで頂点を目指したいなと思えました」
濃密な1カ月間を一緒に過ごす中で互いを深く知り、それがサッカーにも好影響を与えた。短期間の大会でまとまりやすいのが日本人選手の強みとも言われるが、まさにその強みを持ったチームだった。
表彰式では、得点王に贈られるゴールデンブーツを通算8得点のガバーロが受賞。通算4得点を決めた浜野まいかがシルバーブーツを、同3得点の山本柚月がブロンズブーツを受賞した。また、大会優秀選手に贈られるゴールデンボールは浜野が受賞。名前が発表された時、満場一致の温かい拍手に包まれた。
練習でも試合でも笑顔が印象的な浜野だが、根は相当な負けず嫌いだ。
「人と同じ成長スピードでは突き放せないと思っているので。1日であっても、人の2倍ぐらいは練習をしないと気が済まないです」
そう話していた。大会を通じて攻守のハードワークでチームを助け、重要なゴールをいくつも挙げた。山本とのコンビネーションもよく、世界の舞台でその才能を輝かせた。
約1年3カ月にわたって活動を続けてきたチームは、これで解散となる。これからはそれぞれが所属チームに戻り、次に目指すのはなでしこジャパンのユニフォームだ。
「(決勝で負けた)この悔しさを忘れず、『絶対に、また世界の舞台に戻ってくる』という思いで取り組んでいきたいと思います」(浜野)
WEリーグ、なでしこリーグ、そして海外で、今大会で活躍した新星たちのプレーに、引き続き目を向けていきたいと思う。
*表記のない写真は筆者撮影
(取材協力:ひかりのくに)