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ウルトラマンのスペシウム光線。一撃で怪獣を倒すけど、いったいどんな原理なのか!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

スペシウム光線。

あまりにも有名なウルトラマンの必殺技である。

腕を十字に組むと、立てた右手から青白い光線が発射され、怪獣を一撃で倒す。

1966年の『ウルトラマン』で描かれたこのワザは画期的だった。

ピストルなどの道具を使わず、構えただけで腕から光線が出る!

しかも怪獣に当たったら、どかーんと爆発する!

そのインパクトはあまりに大きく、後発のヒーローたちも何の説明もなく腕や額や目からどんどん光線を出すようになった。

しかし、考えてみると謎めいた光線である。

なぜ生物の手から光が放たれるのか?

なぜ怪獣が爆発するのか?

実に不可解な現象ではないか。はたして「スペシウム光線」とは何なのだろうか?

映画『シン・ウルトラマン』においては、外星人ザラブによって「スペシウムは原子番号133の超重元素」と説明されていた。

元素を飛ばすのであれば、厳密には「光線」ではない(劇中でも「光波熱戦」などと呼ばれていた)。

そこでここでは、最初の『ウルトラマン』をイメージしながら、「光線」という呼び名を重視して考えてみたい。

◆スペシウム光線はマイクロ波?

ウルトラマンは、手から光線を発射する。

実にこのヒトらしいウルトラな行為に思えるが、自然界に目を向けると、ホタルやチョウチンアンコウなど、体から光を放つ生物は意外にいる。

彼らは、体内のエネルギーを光に変える仕組みを持っているのだ。

ウルトラマンの体にも、同じような仕組みが備わっているとすれば、体から光を出すこと自体は不思議ではない。

だが、自然界の発光生物たちが出す光は、異性を誘引したり、エサをおびき寄せたりするためのものだ。

ウルトラマンが女子にモテたくてスペシウム光線を発射しているとは思えないし、明らかに攻撃手段として用いているから、これは珍しい例といえるだろう。

ウルトラマンが「光」を発射しているとして、注目したいのは、当たった怪獣が爆発することだ。

光のなかにも、物質を破壊できるものはある。

光の波の山と山、谷と谷を揃えて発振する「レーザー」だ。

目に見える可視光線レーザーは、出力が高ければ、生物の体を焼き焦がす。

目に見えない赤外線レーザーは、金属や岩石さえも切断し、さまざまな工業加工に使われている。

ただし、レーザーの効果は、狭い面積にエネルギーを集中させて、溶かしたり焼き切ったりすること。

爆発させちゃったら、とても加工には使えないし、そもそも強いレーザーを当てても、普通は爆発など起こらないのだ。

筆者が注目したいのはマイクロ波である。

マイクロ波は電波の一種で、電子レンジもこれを出している。

食べものの大半は水分を含んでおり、マイクロ波は水に吸収されて熱に変わる。

だから、電子レンジは食べ物を加熱できるのだ。

だが、電子レンジで生卵を加熱すると爆発する。

電子レンジ以外でも、サンマを焼くと、皮が膨らんで破裂するし、ポップコーンもある種のトウモロコシに熱を加えて、破裂させたものだ。

これらの現象に共通点するのは、硬い殻や皮のなかで、水分が熱を受けて水蒸気になれば、限界を超えた瞬間に、殻や皮を破って、一気に急膨張することだ。

怪獣の体は、厚い皮膚に覆われている。

すると、体のなかでスペシウム光線が水分を蒸発させれば、水蒸気の圧力で爆発することもあるのでは……?

 

◆科学特捜隊の人々がキケン!

スペシウム光線にマイクロ波が含まれるとしたら、それはどれほどの威力なのだろうか?

『週刊ウルトラマン オフィシャルデータファイル』(デアゴスティーニ)の第9号によれば、スペシウム光線は「50万度の高熱を発する」という。

50万度!

これはすごい。ありとあらゆる物質が蒸発したうえに、電子が弾き飛ばされてプラズマになる温度だ。

ということは、怪獣の体は、スペシウム光線を浴びた部分だけが、ジュワッと消滅!

あ。消滅させてはいかん。

スペシウム光線には、怪獣の体を消滅させるのではなく、爆発させてもらいたい。

しかしこの問題も、スペシウム光線がマイクロ波だとしたら、解決できる。

マイクロ波は水に吸収され、金属で反射される以外、たいていの物質を通り抜けるからだ。

おそらくスペシウム光線は、怪獣の皮膚を通り抜けて、体内で水分を蒸発させたうえに、50万度に加熱するのだろう。

水をこんな高温にすると、体積は230万倍にまで増大する。

これは、怪獣も爆発するのではないだろうか。

身長40mのウルトラマンの手の大きさから計算すると、スペシウム光線が怪獣の体内に1m入り込んだだけで900Lの水が蒸発する。

「たった900L? 浴槽3~4杯分では?」などと油断してはいけませんぞ。

900Lの水が50万度に加熱され、球状に230万倍に膨張した場合、直径は160mにもなる!

身長50mとか100mとかの怪獣だったら、バラバラに爆発するだろう。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

スゴイ威力ですな~、などと喜んでもいられない。

50万度に加熱された物質からは、強力な紫外線が出る。

怪獣の近くにいる科学特捜隊の隊員たちは、めちゃくちゃ日焼けしてしまう。

また、前述したように、マイクロ波は金属で反射される。

怪獣のなかには、スペシウム光線がまったく効かない連中もいたが、彼らの皮膚には金属が含まれていたのかもしれない。

そのような怪獣たちに当たったスペシウム光線は、ハネ返されて周囲に広がる。

隊員たちは電子レンジに入れられたように、ホカホカ煮え上がるかも……。

スペシウム光線はすごい光線なのだ。

ウルトラマンが腕を十字に組んだら、科学特捜隊の人々はとっとと避難いたしましょう。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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