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新番組『仮面ライダーガヴ』で、ショウマが見せた「変身しないほうが強いかも」の衝撃シーンを科学検証!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/きっか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメのできごとを、空想科学の視点から楽しく考察しています。

『仮面ライダーガヴ』が始まりました!

お菓子の力でパワーアップするという斬新なライダーだが、9月1日に放送された第1話で注目したいエピソードがあった。

それは、物語の序盤で、まだ変身する前。
主人公のショウマが、突っ込んでくる車から、少年を守ったシーンだ。

車の運転手は、助手席の男と話していて、道を横断している少年に気づかない。
ショウマが道に駆け出し、背後から少年を抱えると、その背中に車が激突!
が、ショウマは微動だにしない。
逆に、車は前面が大きく凹んで、その場に止まり、乗っていた2人が、フロントガラスを割って飛び出した。
ショウマは、すっ飛んでいく2人の襟首を背後からつかんで、彼らも助けたのだった……という場面である。

衝突した車は「日産・キャラバン」のE25というバンのようで、車重は1650~1900kg。

乗っていた男性2人の体重を合計150kg、作業着の印象から管工事などに従事している人たちと考え、ある程度の荷が積まれていたとするなら、キャラバンの総重量は2tほどだろう。

これが時速40kmで衝突し、車体前面の凹んだ深さを30cmとすると、ショウマが耐えた衝撃は42t。

そして、フロントガラスを割って飛び出してきた乗員2人の襟首を空中でキャッチした力を計算すると、このときショウマの発揮した腕の力は、左右ほぼ1tずつ。

公式サイトによると、仮面ライダーガヴ ポッピングミフォームのパンチ力は1.0tなのだが、まだ変身もしていないのに、ライダーと同じチカラを出すとはスゴイ。

これから1年間の『仮面ライダーガヴ』がモーレツに楽しみになる、魅惑のエピソードといえよう。

◆仮面ライダーイクサの場合

ところで、このシーンを見ながら、筆者は過去に検証したある人を思い出していた。

それは、平成仮面ライダーシリーズの第9作『仮面ライダーキバ』で、主人公・紅渡=仮面ライダーキバと張り合ってきた、名護啓介=仮面ライダーイクサである。

かつて、彼の行為を『空想科学読本7』で検証したことがあり、簡単に紹介すると、それはこんな内容だった。

名護は鉄壁の自信家で、「俺のすることに間違いはない」と公言、キバより自分が強いと信じて疑わなかった。

だがあるとき、名護が仮面ライダーイクサに変身し、キバに戦いを挑んだところ、最終的にライダーキックの蹴り合いになって、完敗してしまう。

注目の事件が起こったのは、その直後。

キバに敗れて、茫然自失の名護が、フラフラと車道に出ると、そこへ乗用車が突っ込んできたのだ。

運転手は名護を発見しても、まったくスピードを緩めない。
名護も車が迫るのを知りながら、逃げようともしない。
危ない!

だが、衝突の寸前、名護は右足を上げ、ボンネットの最前部を蹴る!
車はその場でガツンと停止した。

キバには負けたが車ごときには負けん、という名護のプライドが垣間見える行為だが、モーレツに危険である。

名護の足が触れてから車が止まるまでに動いた距離は、せいぜい10cmほどだった。
車の重量が1tで、時速60kmで走っていた場合、これを距離10cmで止めるには、物体の重量の140倍の力が必要だ。
すなわち、名護のキック力は140t!

『徳間テレビえほん 仮面ライダーキバ キバvsイクサ つよいのはどっちだ!!』によれば、イクサのキック力は3tで、キバは8t。

この数値どおり、イクサはキックの打ち合いでキバに負けたわけだが、名護はキック力140tなのだから、イクサに変身しなければ、キバに勝てたはず!

しかし140tの力で車を蹴ると、140tの反作用が返ってくる。

外見から、名護の体重は70kgほどと思われるが、これほどの力を受けて、彼はなぜ吹っ飛ばされなかったのだろう?

考えられるのは、画面では突っ立っているように見えたけれど、実は猛烈なスピードで前進していた場合である。

車と同じ勢い(質量×速度)で衝突すれば、跳ね返りが起こらない場合、両者はピタリと止まる。

1tは70kgのほぼ15倍だから、名護は時速60kmの15倍でぶつかったとみられる。すなわち時速900km!

キバは100mを3秒で走るという。めちゃくちゃ速いが、時速900kmの名護は、100mを0.4秒なのだ。
変身さえしなければ、やっぱり勝っていた!

――と、こんな内容の考察であった。

◆運転手たちの運命は?

走ってくる車を生身で止めるのは『仮面ライダー』の伝統か、という気もしてくるが、『ガヴ』と『キバ』では少々違う部分がある。

それは、車の運転手たちの運命。

『キバ』の場合、名護に突っ込んできた運転手は、実は連続強盗犯だった。
名護もそれに気づいて車を止めたわけだが、急に止められた衝撃でも、この運転手はフロントガラスを割って飛び出すことはなかった。

連続強盗犯なのに、交通ルールを守って、きちんとシートベルトをしている感心な悪人だった、というべきか。

一方、『ガヴ』の2人は思い切りフロントガラスを割って前方に飛び出しており、このことからシートベルトをしていなかった可能性がある。

この2人、ショウマが空中で止めなかったら、どうなっていたか?
エアクッションやフロントガラスとの衝突で減速し、時速30kmで飛び出したとしても、地上1.7mからこの速度で水平に飛び出したら、前方4.9mまで吹っ飛んで、時速36kmで地面に叩きつけられるところだった。

でも、前方に投げ出されたところを、後方からショウマに襟首をつかんで止められたのだから、首がキューッと締まったはずで、その力も1t。
地面に叩きつけられるのと、どっちがマシなんだろう?

だったら、やっぱりシートベルトをしていた『キバ』の悪人運転手のほうがいいかというと、そんなことはない。

シートベルトが利き始めてから体が50cm進んで止まった場合、胸を圧迫する力は体重の28倍。
運転手の体重が70kgなら、およそ2tだ。

うーん。いちばんシアワセなのは、いったいどの状況なのか。
ハッキリしているのは、すごいチカラで車を急に止めると大変、ということである。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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