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2日で26万人、2023年夏のコミケが終了も新たな難局が

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:イメージマート)

2023年夏のコミックマーケット開催が終わり2日で26万人の来場者があった事が発表。コロナ禍以降、低調な展示会業界でこれ程の来場者を集めるコンテンツはそれ程なく、同人市場の「強さ」を再認させるニュースでありますが、一方同イベントの準備会から次回以降の難局も示されています。

実は、東京ビッグサイトは今冬以降、大規模な改修工事が順次始まる予定となっており、今回コミケで使用された会場の一部が使えない状況が2026年まで続きます。この工事は、多くの小規模開催の展示会にはあまり影響はないのですが、その来場者数故に全館開催が求められるコミックマーケットにとっては、これから先数年に亘る開催にあたって非常に大きな制約となるもの。同イベントの準備会は「頭をひねりながら、物理的な制約に挑戦してゆく」と表明しています。

一方、この問題に際して、一部からは「東京がダメなら大阪(or名古屋)で開催すれば良いじゃない」というマリー・アントワネット的な意見も散見されますが、実態としてはこれもそれほど簡単なお話ではありません。同人愛好家の方々は2019年から始まった東京五輪の開催に伴う同様の「会場問題」を思い出して頂ければ幸い。東京五輪での使用に向けて、当時もビッグサイトの利用に制限がかかり会場問題が噴出しましたが、コミケを含む多くの展示会は「東京圏以外での開催は不可能」としてビッグサイトの「代替え施設」の建設を求めました。結果的に、仮設の代替え施設がお台場に作られ、不便ながらも多くの展示会が東京での開催となりました。今回の新たな会場問題に関しても、基本的に構造は同じで東京圏以外での代替え開催は「難しい」のが実情です。

また、一連の会場問題に関連して、皆さんに改めて考えて欲しいのは、地方都市が展示会の誘致を期待して、多額の公金投入をしながら次々と建設してきた大規模展示場施設は、現実のお話として「利用されることは(ほぼ)ない」という事実。特にコロナ禍前までの展示会業界では「施設の供給こそが展示会の需要を作るのだ」という理論を、声高に主張する業界のオピニオンリーダーなども存在していました。彼らが全国行脚をしながら各自治体に「公金投入して大規模施設を作る意義」などを説いて回り、彼の主張を論拠として自治体が展示施設整備を予算化するという現象がありました。

【参考】首都圏イベント会場問題における日本展示会協会の無責任さ

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/63045fecece5edbabf172bebf2858ec1d9ef9929

しかし、これら人物は東京五輪開催に伴う施設問題が発生した時点から、それまでの論を完全に放棄し、展示場業者を代表し「展示会が地方に移転することは困難であり、東京圏内でビッグサイトの代替え施設を建設すべき」とする旗を振りまくった。彼が以前旗を振っていた「施設の供給こそが展示会の需要を作るのだ」との論を信じて、公金投入で施設開発をした各自治体にとっては青天の霹靂。完全なる宗旨替えであり、当時、私自身も業界関係者として彼を超絶批判しました。

私自身ははるか昔から同じことを言い続けていますが、地方都市に大きな展示施設を開発すれば、そこにイベントが「付いてくる」なんて事は基本的にありません。大規模な展示会を開催するには、瞬間最大風速的にウン十万人の来訪者を受け入れられるだけの公共交通施設、宿泊施設、飲食施設、アフターMICE施設など様々な都市インフラが求められます。また、それらイベントの実施を可能とするには、それだけのスタッフを集められる労働者供給も必要となるわけで、大きな施設さえあれば大規模イベントが誘致できるなんてのは幻想以外のなにものでもない。

残念ながらコロナ禍前までの我が国ではそういう幻想を真実と思い込み(思い込まされ)、全国津々浦々に大規模展示施設が公金で建設される状況が見られましたが、東京五輪の開催時、そして今回再び起こる会場問題を経て、そろそろそういう風潮は止めましょう。公金をいくらブッ込んで会場だけ整備したところで、都市が供給する総合的なインフラ(いわゆる都市力)を上回る規模の展示会を誘致できることは基本的にない。今後はそれを教訓として、展示会施設の開発や、展示会誘致そのもののあり方を見直してゆくことが必要です。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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