ネイマールをめぐる愛憎劇。一過性の熱なのか、あるいは永遠の繋がりか。
2017年夏に、2億2200万ユーロ(約266億円)と引き換えにパリ・サンジェルマンに移籍したネイマールだが、この夏にバルセロナに復帰する可能性が取り沙汰されている。
ネイマールは2019-20シーズン開幕に向け、7月8日にパリ・サンジェルマンのプレシーズンに合流する予定だった。しかしながら、その日に彼は姿を現さず、クラブ側から「然るべき措置を行う」と公式声明が出される事態に発展している。
■破壊された市場
ネイマールのパリ・サンジェルマン移籍が意味するところは大きかった。
オイルマネーをバックに成り上がろうとする新興勢力のパリ・サンジェルマンが、バルセロナという歴史あるクラブから主力選手を引き抜いた。市場は破壊され、メガクラブでさえ、その「攻撃」の対象になるというのが証明された。黄金の泉の如く湧き出る資金と、それに伴うエコノミックなパワーを前に成す術はなかった。
現在のパリ・サンジェルマンのプロジェクトが本格始動したのは2011年だ。カタール投資庁の子会社であるカタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI) がクラブ株式をすべて買い取り、同年年10月にナセル・アル・ケライフィ会長が就任。カタールがバックにつく「国家クラブ」となった。
その際、バルセロナのサンドロ・ロセイ前会長は彼らの資金力を前にしては太刀打ちできないと警鐘を鳴らしていた。そして、前会長の「予言」は現実になる。
2014年にカタール航空とスポンサー契約を結び、年間3200万ユーロ(約38億円)の投資を受け、QSIの恩恵を授かったバルセロナだが、パリ・サンジェルマンとの関係は徐々に悪化していく。チアゴ・シウバ、マルキーニョス、アンヘル・ディ・マリアと狙っていた選手を次々と奪われ、マルコ・ヴェッラッティ獲得に失敗し、極めつけがネイマールの移籍だった。
■交渉の行方
ネイマールはパリ・サンジェルマンで受け取る年俸3600万ユーロ(約43億円)を、2200万ユーロ(約26億円)まで下げる覚悟があるといわれている。UEFAにより、選手とスタッフの総年俸額上限は70%に設定されている。2018-19シーズン終了時に、バルセロナのそれはすでに60%を超えていたとされる。
さらに、ネイマールはボーナスの受け取りを放棄する考えだ。2016年10月にバルセロナとネイマールが2021年まで契約を延長した際に、ある時期までに2600万ユーロ(約31億円)のボーナスが支払われることが条項に含まれ、その支払期限は2017年7月31日だったとされる。当時、その支払いを拒否したバルセロナに対して、ネイマール側は訴訟を起こすと表明した。バルセロナは一時的な応急処置としてその2600万ユーロを公証人に預けた。
だがパリ・サンジェルマンとの交渉は簡単にはいかないだろう。
パリ・サンジェルマンは移籍金3億ユーロ(約363億円)前後を要求するとみられている。一方、バルセロナとしては、ネイマールの移籍金を下げたいというのが本音である。フィリップ・コウチーニョを譲渡する形でオペレーションに含め、移籍金を引き下げる目論見だ。
そして、無視できないのがアントワーヌ・グリーズマンの存在だ。バルセロナは、かねてからグリーズマンに関心を寄せてきた。アトレティコ・マドリーとの契約上、この夏にグリーズマンの契約解除金は1億2000万ユーロ(約145億円)に引き下げられた。
スペインプロリーグ機構(LFP)に契約解除金を収めれば移籍は成立する。だが、バルセロナが1億2000万ユーロを出し渋っており、移籍問題がこじれている。
それでもグリーズマンの獲得は、ネイマールの再獲得より、ずっと容易だ。フランスでは、契約解除金が存在しない。ネイマールの「価格」を決めるのはパリ・サンジェルマンであり、加えてこのクラブが資金難に喘ぐ可能性はなく、絶対優位の下で交渉を進められるのだ。
■一過性と永遠
バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は先日、ネイマール獲得の可能性を否定した。それにもかかわらず、彼をめぐる報道と憶測は絶えず流れ続けている。
ネイマールという存在が、バルセロナというクラブを貫通してしまったーー。
ネイマールがいない世界を、バルセロナは生きてきた。2シーズン連続でチャンピオンズリーグにおいて逆転負けを喫するという屈辱を味わい、その喪失感は肥大化した。
「世紀の移籍」から、2年が経過した。
まるで、好評を博する映画のシリーズものを見ているように、エピソードは繰り返されようとしている。これが一過性の熱なのか、あるいは永遠の繋がりになるのか。答えは、もうすぐ明らかになる。