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なぜロドリはバロンドールを獲得できたのか?スペイン人選手として64年ぶり快挙の舞台裏。

森田泰史スポーツライター
バロンドールを獲得したロドリ(写真:ロイター/アフロ)

60年以上の時を超えて、快挙が成し遂げられた。

今季、ひざを痛め、シーズン絶望の負傷をしたロドリ・エルナンデスだが、2024年のバロンドール授賞式では笑顔を弾けさせた。2位のヴィニシウス・ジュニオール、3位のジュード・ベリンガムを抑えて受賞を果たしたからだ。

2024年のバロンドール授賞式
2024年のバロンドール授賞式写真:ロイター/アフロ

ロドリは、 1960年にバロンドールを受賞したルイス・スアレス以来となる、スペイン人選手としての同賞受賞を果たした。

64年ぶり、スペイン人選手として史上2人目の快挙だった。

■スペイン人選手と中盤

ロドリは昨季、マンチェスター・シティのプレミアリーグ優勝に大きく貢献。また、この夏に行われたEURO2024では、 優勝を飾ったスペイン代表の主力選手として活躍した。

一方、2022−23シーズン、シティはプレミアリーグ、FAカップ、チャンピオンズリーグで優勝してトリプレーテ(3冠)を達成していた。ロドリはチャンピオンズリーグ決勝のインテル戦で決勝ゴールを記録。だが2023年のバロンドールでの受賞は叶わなかった。

スペインの人々には「やはり」という思いがあったかも知れない。思い起こされたのは、2010年のバロンドールだ。

スペイン代表は2010年の南アフリカ・ワールドカップで優勝を果たした。その決勝のオランダ戦で、決勝ゴールを沈めたのがアンドレス・イニエスタだった。しかしながら最終候補にイニエスタ、シャビ・エルナンデス、リオネル・メッシが残った2010年のバロンドールで、栄誉を授かったのはメッシであった。

2010年のバロンドールというのは、FIFA年間最優秀選手とバロンドールが「統合」されていた時期のものだ。当時の呼称はFIFAバロンドール。そういう意味で、選考が難しい時期ではあった。

2010年のFIFAバロンドールを獲得したメッシ
2010年のFIFAバロンドールを獲得したメッシ写真:ロイター/アフロ

1960年に世界一の称号を授かったルイス・スアレスもまた、中盤の選手だった。

スペインは歴史的に優秀な中盤の選手を多く輩出してきた。ロドリ、ファビアン・ルイス、ペドリ・ゴンサレス、ガビ、イニエスタ、シャビ、セルヒオ・ブスケッツ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガス、シャビ・アロンソ…。挙げ始めたら、キリがない。

■ゴールの評価

フットボールの世界は、「ゴール」が高く評価される。

長く続いたメッシとクリスティアーノ・ロナウドの時代。2008年から2023年まで、基本的にバロンドールはメッシとC・ロナウドが「独占」していた。その間、この2人に割って入ったのはルカ・モドリッチとカリム・ベンゼマのみである。

メッシークリスティアーノ時代において、この2選手が数多のタイトルを獲得し、ゴールを量産していたのは確かだ。ゴールを奪っていたから賞を獲れたのか、賞を獲れたのはゴールを奪っていたからなのか、それは定かではない。いずれにせよ、彼らがバロンドールの「寡占状態」をつくり出していたのは明らかだった。

長くトップを争ったメッシとC・ロナウド
長くトップを争ったメッシとC・ロナウド写真:なかしまだいすけ/アフロ

2010年の南アフリカW杯でスペインがジュール・リメ杯を獲得した時、ロドリは12歳だった。当時、アトレティコ・マドリーのカンテラでプレーしていたロドリだが、その後、ビジャレアルへの移籍を経て、トップデビューを飾る。

2018年夏にアトレティコが移籍金2000万ユーロ(約32億円)で再獲得したが、1シーズン、ディエゴ・シメオネ監督の下でプレーして、2019年夏に契約解除金7000万ユーロ(約112億円)を支払ったシティがロドリを確保した。

「ほかのチームには、ロドリのような選手がいない。フィジカルベースが高く、あらゆる局面で存在する。多くのプレーをうまくやってくれる。欠けたところのない選手だ。シティにとって、大きな補強だった」

「ロドリは、あのポジションで、世界一の選手だ。すべてをうまくやる。正しいメンタリティを持ち、試合を読む能力に長けている。常に準備ができている。トップ・オブ・トップの選手だ」

これはジョゼップ・グアルディオラ監督の言葉だ。

競り合うロドリとモドリッチ
競り合うロドリとモドリッチ写真:ロイター/アフロ

この度のバロンドールにおいては、ヴィニシウスの「落選」が話題を呼んだ。これに激怒したレアル・マドリーが、授賞式への参加を拒んだためだ。

フロレンティーノ・ペレス会長の気持ちは分からないでもない。ただ、2024年のバロンドールに関しては、ロドリが受賞に値したという気がしている。

そして、それはスペインの、中盤の選手たちの「勝利」だった。

フットボールの歴史、また未来を視た時、この事実は必ず意味を持ってくるはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『WSK』『サッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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