イスラーム過激派の食卓:トルキスタン・イスラーム党は今日もたらふく喰う
2022年7月12日、国連安保理でシリア国外(=トルコ)からシャーム解放機構(旧称ヌスラ戦線。シリアにおけるアル=カーイダ)が占拠する地域で暮らす避難民を支援する物資を搬入する事業の6カ月継続が議決された。この事業、実は毎回事業の実施・継続に関する決議の有効期限切れを前に、その存続が外交上の争点となるものだ。焦点は、国連の加盟国であり現在も代表権を持っているシリア政府の意向を全く問わずに事業が実施されていること、本当に避難民に援助物資を届けるためだけなら別にこだわる必要がない「トルコからの物資の搬入」が事業に必須であるかのように認識されていることである。毎回のようにこの事業に関する決議案に拒否権を行使するロシアも、この事業を積極的に支持しない中国も、この点を問題点として指摘し続けている。図1で赤い星印をつけたバーブ・ハワーという地点にトルコとシリアとを結ぶ国境通過地点があり、現在国連がシリア国外から物資を搬入して行う避難民支援事業では、この通過地点だけが利用可能である。
ただし、安保理で決議が採択されず、バーブ・ハワーを経由した物資の搬入ができなくなると、シャーム解放機構の占拠地で暮らす人々の暮らしが直ちに立ち行かなくなるわけではない。何故なら、安保理決議の有無や国連、シリア政府の意志とは無関係に、バーブ・ハワーの通過地点は開放されており、それを通じてシャーム解放機構の占拠地はトルコの経済圏にがっちり組み込まれた占領地化植民地の様になっているからだ。つまり、バーブ・ハワー通過地点からは、「国連の支援事業以外」の物資は何の不自由もなく搬入され続ける。国連の支援事業がなくなって困るのは、「シリア紛争の長期化/悪の独裁政権による被害者」の姿を世界にさらす役回りを押し付けられ、生活水準を向上させることが許されない一般の避難民だけだ。
このような嘆かわしい状況を何よりもはっきりと示すのが、イドリブ県を占拠するイスラーム過激派の暮らしぶりだ。問題の決議案が採択された時期は、ちょうどイスラーム教徒にとっては年に一度のマッカ巡礼が終わった後の犠牲祭を楽しむ時期だった。これに合わせて、シリアのラタキア県、イドリブ県、ハマ県にまたがる地域を占拠している「トルキスタン・イスラーム党」が、前線の拠点での戦闘員らの暮らしぶりについての画像を公開した。写真1と写真2は別の場所で撮影されたものとの字幕が付されているのだが、いずれにせよ「トルキスタン・イスラーム党」の面々は旬の食材であるスイカや、ナッツ、串焼肉をのんびりと楽しんでおり、トルコから物資を搬入する国連の事業が途絶したとたんに何百万人もの生活が立ち行かなくなる、といった趣旨の報道や懸念とはまるで無縁の様子だ。
要するに、本稿で取り上げた「トルキスタン・イスラーム党」に限らず、シリアで活動するイスラーム過激派諸派は、自らの活動に必要な資源をいくらでも調達し、それを活動の現場に誰憚ることなく搬入する体制を構築しているということだ。繰り返すが、国連による支援事業が継続できなくなってもバーブ・ハワー通過地点そのものが閉鎖されるわけではないし、イスラーム過激派諸派は同通過地点以外にも様々な兵站経路を確立している可能性が高い。「独裁者に虐げられるシリアの同胞を助ける」ためと称してシリアにやってきたイスラーム過激派諸派は、今やシリアの同胞たちの暮らしぶりなど気にかける必要のない特権的存在として、今日ものんびりシリアでの暮らしを楽しんでいる。