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落合博満は春季キャンプで何をしてきたか【落合博満の視点vol.23】

横尾弘一野球ジャーナリスト
巨人へ移籍した1994年の春季キャンプで、落合博満の練習ぶりは大いに注目された。

 プロ12球団の春季キャンプが、2月1日から一斉にスタートした。新型コロナウイルスの勢いは懸念されるところだが、アマチュア球界でも感染防止対策を講じてキャンプを実施するチームがあるようだ。では、来るべきシーズンに向け、心身を鍛えて準備を整える期間は何に取り組み、どう過ごせば力をつけることができるのか。

 中日でゼネラル・マネージャーを務めていた時、落合博満はこんな話をしたことがある。

「最近のドラフトで指名する選手を検討する際に重視されるのは、チームでどんな役割を任せられるか。つまり、単なる潜在能力よりも野球頭のいい選手だ。ただ、昔のように肩や走力など飛び抜けた能力を持っている選手に、野球の技術を叩き込むのも面白いだろう。プロで一流になるカギは、長所をどこまで磨き上げられるか。中でもバントの正確性や長打力は練習で伸ばすことができるが、肩や足は持って生まれた部分が大きいからね」

 落合は、自分のセールスポイントを徹底して鍛え上げ、他の選手より頭ひとつ抜け出すためには練習を重ねるしかないと断言する。だから、練習のスタートラインは「今の自分にとって最も必要なものは何か」を考えることであり、従って何時から何時までと時間やメニューを与えられてこなすものではない。

「野球はチームスポーツなので、守備の連係など全員で取り組む練習も不可欠なのは当然だ。私が言いたいのは、そうやって監督やコーチから指示されたメニューをすべてこなしたあとの、30分から1時間の独自の取り組みが、真の練習と言えるものだということ。目新しいこと、変わったことをする必要はない。自分が課題を持って取り組めば、すべて身につくのだから」

 現役時代の落合は、12~1月のシーズンオフの間に、終わったシーズンを省み、翌春のキャンプからペナントレース開幕までの予定を立てていた。具体的には、2~3月の2か月間を大きく3つのブロックに分け、それぞれに取り組むテーマを設定し、それを丁寧に消化していった。

打撃フォームを固めるには緩いボールを打つのが最適

「第1ブロックは下地作りで、ランニングや体力強化を2週間ほど。2度目の三冠王を手にした1985年(落合は32歳)は1か月間、一度もバットを振らず、下地作りに専念したこともある。第2ブロックは、1週間ほど頭のトレーニング。前年の自分を思い出し、その年の自分の理想像を思い描きながら、頭の中で打撃フォームを作り上げる。そして、第3ブロックでは素振り、打撃マシンや打撃投手を相手にした打ち込みで、頭の中で作り上げたフォームを体に染み込ませていた」

 特に第3ブロックでは、落合の緩いボールを打ち込む姿がメディアを通じて流されることが多かった。

「試合で相手投手が投げ込んでくる“生きたボール”を打つよりも、表現はよくないけれど打撃投手が緩く投げてくれる“死んだボール”を、イキのいい打球にするのは難しい。完璧な打ち方をしないと飛距離も出ないんだ。だからこそ、自分の打撃フォームを固めるには、緩いボールを打ち込むのが一番の方法だと考えている」

 この3つの段階を経て、落合はオープン戦に入っていったのだ。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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