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「Twitterのデータエンジニアが解雇された」との報道は誤報か

山口健太ITジャーナリスト
エンジニアの解雇を伝えるCNBCの記事(画面は訂正後のもの、筆者撮影)

イーロン・マスク氏による買収が完了したことで話題のTwitterですが、そのマスク氏によって「データエンジニアが解雇された」と、CNBCなどの大手メディアが報じました。しかしこれはいたずらによるもので、誤報だったようです。

大手メディアが「釣られる」事態に

10月28日の午前10時過ぎ(米国太平洋時間)、サンフランシスコのTwitter本社からイーロン・マスク氏に解雇されたデータエンジニアと称する人物が出てきたことを、CNBCBloombergなどの大手メディアが報じました。

この2人は私物を入れたとみられる段ボール箱を持っており、いかにも解雇された風を装っているものの、インタビューに対する受け答えを聞く限りでは本物とはいいがたい印象です。

数時間後、各メディアは記事を訂正し、これらの人物がTwitterの社員であることは確認できなかったとしています(日本時間で10月29日23時現在、Bloombergの日本語版まだ訂正されていません→10月30日に訂正されました)。

本来であれば真偽を検証すべき立場にあるメディアとして、いたずらに引っかかったのは大失態といえます。マスク氏自身はむしろ楽しんでいるようです。

Twitterについては多くの情報が錯綜しており、注意が必要です。先日話題になった「人員の75%を削減する」計画についても、マスク氏は従業員との対話の中で否定したと報じられています。

一方で、マスク氏が人員削減をしないと明言したわけではありません。マスク氏がCEOを務めるテスラの技術者の協力を得て、Twitterの技術者を評価する取り組みが始まっているとBloombergは報じています。

Twitterの社内では、面談のため最近30〜60日以内に書いたソースコードを印刷するよう指示があり、騒ぎになっているとの情報が出回っています(その後、印刷ではなく画面に表示するよう指示が変更されたとのツイートも)。

GAFA決算で明らかになったように、オンライン広告市場には逆風が拭いており、多くのテック企業がコスト削減を迫られています。Twitterと同業のSnapは、人員の20%を削減することを発表しています。

追記:

その後、Twitterは全従業員の約半数を解雇しました。

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamaguchikenta/20221105-00322714

Twitterの今後を決めるのは「広告主」?

今回の買収劇は、あたかも大金持ちが会社を乗っ取り、横暴に振る舞うようなイメージを抱いている人が多いように見受けられます。

たしかにマスク氏は大富豪であり、Twitterを買収して会社のオーナーになったことは事実ですが、だからといって何でもできるというわけではありません。

まず、440億ドル(約6.5兆円)という買収金額を調達するにあたって、マスク氏は保有するテスラ株などを担保に、巨額の融資を受けています。

そのため、もしTwitterの経営に失敗すればテスラ株の売却を迫られる可能性があります。これはテスラの株主にとって許容できない事態です。

Twitterの売上は、2022年6月末の時点で広告収入が91%を占めています。Twitterの広告は、商品やサービスの認知度を高めるための「ブランド広告」が中心とされています。

広告主は、どのようなツイートと一緒に広告が表示されるか神経質になっています。ゼネラルモーターズ(GM)がTwitterでの広告を一時停止したと報じられているように、マスク氏の方針次第では広告出稿をやめる企業が出てくる可能性があります。

買収にあたってマスク氏が出した声明は、Twitterの「ユーザー向け」ではなく、「広告主向け」でした。有料サブスクを強化していくとしても、売上の柱になるには時間を要することから、当面は広告主の存在がTwitterの生命線になることがうかがえます。

Twitterのユーザーとして、マスク氏のやり方が気に入らないなら他のSNSに移動するという選択肢はもちろんありますが、広告主を巻き込むことによって、Twitterをより優れたプラットフォームにするようマスク氏に働きかけるチャンスでもあるわけです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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