Yahoo!ニュース

韓国政府「自宅隔離違反防止に電子リストバンド導入検討」...人権侵害との指摘も

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
6日午後、WHOのテドロス事務局長と電話会談を行う文在寅大統領。青瓦台提供。

新型コロナウイルス(COVID-19)拡散防止を進めたい韓国政府が、前代未聞の強い措置を取る可能性を明かした。全国で自宅隔離中の市民の離脱を防ぐために電子リストバンドの導入を図るというものだ。

●政府公式会見で言及

現在、大多数の国民たちは自宅隔離をきちんと守ってくれています。しかし一部で離脱が発生しています。自宅隔離は何よりも感染症拡散を防ぐために最も有効な手段の一つです。

(中略)しかしこれを守らない場合、予防するための多様な手段を政府の次元で考えていくしかないのも現実です。その中の一つの方法として政府が導入を悩んでいるのが、電子リストバンドです。

7日午前、韓国政府の新型コロナ対策を指揮する「中央災難安全対策本部」の定例会見で、ユン・テホ中央事故収拾本部防疫総括班長は「自宅隔離違反者の対策は何か」という記者の質問にこう答えた。

こうした韓国政府の姿勢は、自宅隔離者への監視を強めることで新型コロナウイルス拡散防止に拍車をかけようとするものだ。

一方で、性犯罪者や殺人犯などの前科を持つ人物の再犯防止用に着用が義務付けられる電子アンクレット(足首に装着するベルト)を連想させ、自宅隔離者を犯罪者扱いするという批判も予想される。

なお、韓国では2008年に電子アンクレットが導入されている。

当初は、性犯罪者のみ着用の対象とされたがその後、未成年者誘拐犯、殺人犯、常習強盗犯などに対象が拡大された。24時間着用が義務づけられ、再犯防止に効果があると謳われている。2018年から導入されている最新の物は、4G通信が可能で高精度のGPSも搭載している。

今回、導入が議論されている電子ブレスレットの機能は「携帯電話から20メートル離れる場合、政府の中央モニタリング団にリアルタイムで警報が鳴り、政府関係者が現場を訪問する」(中央日報)というものだ。

性犯罪の前科者などに着用が義務づけられている電子アンクレット。韓国警察日報より引用。
性犯罪の前科者などに着用が義務づけられている電子アンクレット。韓国警察日報より引用。

●自宅隔離違反者75人が刑事処分の対象に

韓国では現在、自宅隔離を命じられている人々が4万6,566人(6日午後6時時点、中央災難安全対策本部発表)に上る。このうち3万6,424人は海外から韓国に入国した人々だ。

韓国政府は4月1日から、すべての海外からの入国者に対し、二週間の隔離を義務化している。また、4月5日からは感染病予防法に基づき、自宅隔離違反時の処罰条項が強化された。違反時には1年以下の懲役または1000万ウォン(約89万円)以下の罰金が課せられる。

前出の『中央日報』の記事では、「政府は電子リストバンド着用に同意しない者の入国を拒否する方案も検討している」と伝える。

ユン班長はこう続ける。

自宅隔離者は(スマートフォンに)アプリを設置します。そして自宅隔離する場所を離れる場合には警告音が鳴り、これを通じて離脱を防ぐ装置はあります。しかし携帯電話を置いて出かけるとか位置情報を切るなどの問題が発生する場合、それに従う様々な対策が必要になります。

これに対し、様々な方法を考えることができます。特に、携帯電話を置いていく場合には通話を通じ確認することもできますし、自宅を不意に訪問して自宅隔離生活を徹底しているのかを確認する方法もあり得ます。

また、様々な電子情報の助けを借りる電子リストバンドを通じ可能な方法が考えられます。こうした方法に対し総合的に検討し、最も実効性があり早く適用できる方法が何かを議論しています。

この日の「中央災難安全対策本部」の定例会見では、新型コロナウイルスと関連し「感染病予防法」や「検疫法」違反で75人(67件)が刑事処分の対象となり、うち6人が起訴される見通しだという事も明らかになった。

●人権侵害との批判も

韓国では現在、新型コロナウイルスと関連し関連法を改定し、強力な個人情報収集措置を取っている。

例えば、韓国の行政安全部が作成した「自宅隔離者安全保護アプリ」では、「検疫法」や「感染病予防および管理に関する法律(感染病予防法)」などを根拠に、位置情報をはじめ「敏感情報」と呼ばれる発熱、咳、呼吸混乱などの情報を収集している。

また、3月4日に改定された「感染病予防法」で第76条では、「感染病の予防および感染伝播の遮断」の名目で、診療記録や移動経路、出入国管理記録などを政府が収集し、関連機関と共有できるようになっている。

韓国の行政安全部が作成した「自宅隔離者安全保護アプリ」冒頭に表示される画面。個人情報および位置情報の提供を求めている。7日、筆者携帯電話をキャプチャ。
韓国の行政安全部が作成した「自宅隔離者安全保護アプリ」冒頭に表示される画面。個人情報および位置情報の提供を求めている。7日、筆者携帯電話をキャプチャ。

そうした中、今回の韓国政府の電子リストバンド導入には『YTN』など国内メディアからも「人権侵害では」という批判の声が上がっている。『中央日報』は「国の品格に合わない」という政府関係者の声も伝えている。

一方、人権弁護士出身の朴元淳(パク・ウォンスン)氏が市長を務めるソウル市関係者は7日、電子リストバンド導入について「政府の方針が決まればソウル市も共同で対応する」と会見で歓迎の意を明かしている。

導入は今日の時点では未知数だが、今後の自宅隔離者の動向や新型コロナウイルス拡散の速度によっては、導入の議論が進む可能性もある。政府が感染病拡散防止を名目に、どこまで個人の領域に入り込めるのか。世界中が頭を悩ます難題に、韓国もまた直面している。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

徐台教の最近の記事