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賛否両論のJRA賞、ウマ娘は馬事文化賞の受賞なくイクイノックスは満票ならず - JRA賞の賛否両論

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
2023年度JRA年度代表馬に選出されたイクイノックス(撮影:青山一俊)

イクイノックスもリバティアイランドも記者投票満票にならず 理由は?

 この度、2023年度JRA賞が発表されたが、今年もその結果に不満の声が聞かれた。今年、不満の声として多く目にしたのは以下のふたつ。

・年度代表馬に選出されたイクイノックスが満票ではないこと
・最優秀3歳牝馬に選出されたリバティアイランドが満票ではないこと

 イクイノックスは世界レーティング1位で国内外で圧巻の成績を残したし、リバティアイランドは三冠牝馬だ。にも拘わらず、違う馬に投票することへの不満を示した声があがったのだ。

 コロナ禍以前、筆者は約30年厩舎まわりをしていたが、このJRA賞に対しての不満は厩舎サイドからもよく聞いていた。今年もトレセン関係者への電話取材で同様の不満を耳にした。

 筆者個人としては、現状、JRA賞の投票者は約300名いる中、"大穴"狙いの票が出るのも自然なことだと考える。記者の中には、自分の取材ポリシーの中で選んだ"自信の1票"だと考える人も少なくないだろう。それはそれで、筆者個人としてはその信条は理解できる。

 しかし、1954年からJRA賞の前身である啓衆賞に始まり、形をかえながら1987年からJRA主催のJRA賞となったこの賞に寄せられる期待はひじょうに高く、とても大きな権威になっている。JRAの売上の根幹である馬券売上を支えるファンの関心は高いし、馬産においてはその馬の価値を左右するし、厩舎関係者にとっては自分たちの仕事の報いに当たるからだ。

 私見だが、各立場の意識の乖離が毎年必ずといっていいほど噴出する不満を表しているのだと察する。

 日刊スポーツの取材によれば、2024年度からは会友と呼ばれる記者OBの投票権を減らすそうだ。しかし、それでこの蓄積された"不満"が解決するとは到底思えない。

 まず、過去の投票結果をみると次回から除外予定の会友だけがいわゆる"大穴票"を入れているわけではない。

 そして、満票にならない経緯は必然だからだ。

 大谷翔平選手がMLB史上初となる2度目の満票MVPに輝いたが、これは全米野球記者協会所属の記者の中から選ばれた30名による投票結果だった。この30名の氏名や投票内容はすべて公表されている。多くの記者の中から選ばれた者が内容の公表を前提に投票するのだから、当然、その責任の重みはズシリと重いものだろう。

 "満票"という"箔"のある言葉はそのスポーツに関心のない多くの人々にとっても強い関心をもたらすキラーワードになる。そして、そういった"演出"をはかるのも一手ではないか、と考えるのは筆者だけだろうか。

 もちろん、満票にするために投票者自身が本意ではない投票をするのでは全く意味がない。本来、その投票者の好みやスタイルではないが、この馬こそが年度代表馬にふさわしいと考えて一票を投じるからこそ、"満票"に意味があるのだ。

 また、違う選考方法をとるのも一手だと感じている。欧州競馬の年度表彰である「カルティエ賞」は1991年にジュエリーブランドのカルティエをスポンサーとして創設されている。選出方法は欧州重賞競走のポイント、英競馬記者の投票、英競馬専門紙などの読者投票のポイント合計で決定されている。

 この賞の選定方法が完璧だとは言わないが、選定にファンが参加している点がひじょうに興味深い。

 2024年のJRA賞はどうなるか不明だが、筆者はこの賞が記者クラブだけに頼らず、競馬にまつわる複数の立場から選ばれる賞であって欲しいと切望する。

 それがJRA賞がより多くの方々に愛される賞になると筆者は考える。


■2023年 ジャパンカップ(GⅠ) | イクイノックス | JRA公式

馬事に貢献する「馬事文化賞」に「ウマ娘」関連コンテンツは選出されず

 また、「馬事文化賞」の選定にも物議を醸した。

 毎年、11月から2023年10月末までのあいだに出版や制作等された馬や馬事に関する文化作品について、その内容を個々に検討のうえ、2回にわたる選考委員会を経てこの賞は決定する。

 今年の受賞作は「エピタフ 幻の島、ユルリの光跡」という根室半島にある無人島に生息する馬たちの魅力に迫ったひじょうに高尚な印象の題材に受賞が決定した。

 これが競馬の売上の貢献に直接的に紐づいているとは筆者は感じられないが、選定されたのだから芸術的にひじょうに価値のある題材であろう。

 一方、中央競馬の直接的な売上や関連グッズの売上貢献、さらには競走を引退した馬たちへの支援活動に至るまで総合的な貢献があったと筆者は強く感じている「ウマ娘」関連作品の受賞は実現しなかった。

 これまで、この賞は多くの競馬人気もさることながら従事者への志願者増に多大な貢献をしたゲーム「ダービースタリオン」関連作品も累計900万部強と言われる漫画「みどりのマキバオー」と同作の関連作品も受賞しなかった。

 筆者の視点ではJRAの売上や人材確保、ウマ娘についてはファンの新規開拓に多大な貢献をした作品が"ファンの馬券売上"が命綱のJRAにおいて、この賞を受賞しないのは不思議で仕方ない。

 賞の選考基準は主催者が決めることだが、その価値がどれだけ膨らみを持たせるかは世間が決めること。筆者なら相乗効果により世間的価値を増幅させる選択を取るが、これはあくまで筆者の個人的嗜好である。

 2024年度のJRA賞がどのような変革を行うのか、冷静に見守りたい。


■ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のオープニング映像 / ぱかチューブっ!

▼JRA公式サイトより2023年度JRA賞が発表される

▼具体的な記者の投票内容はJRA公式サイトから見れる

▼日刊スポーツのコラムで来年度より記者OB(会友)の減員など選定記者の変更がある旨がわかる

▼多くの競馬関係者志願者を出した、ゲームの「ダービースタリオン」や漫画「みどりのマキバオー」は馬事文化賞には選出されなかった

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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