マイルCS ゴール手前から歓喜のガッツポーズ!過去にもあった勝利を確信した騎手達の嬉し過ぎた姿を紹介
ソウルラッシュの団野大成騎手、5完歩前からガッツポーズで過怠金5万円
17日、京都競馬場で行われたマイルCS(GⅠ)で3番人気のソウルラッシュが優勝した。ゴール手前50m付近から鞍上の団野大成騎手がガッツポーズを決めるほどの余裕のある勝ちっぷり。24歳の若手騎手が全身で喜びを表す姿は実に絵になったし、実にすがすがしい姿であった。
しかし、ゴールし勝利が確定するまで何が起こるかわからないのも競馬、である。JRAは団野騎手に対し「決勝線手前で5完歩ほど適切な騎乗姿勢をとらずに入線した」ことに対して騎手としての注意義務を怠ったとし、過怠金5万円を科した。これは主催者として当然の措置で、JRAは過去の同様のケースにも都度処分を科しており、目立ったのは2014年の高松宮記念でゴール前に両手を離して飛行機の両翼のポーズでゴールしたミルコ・デムーロ騎手に10万円の過怠金を科している。
■2024年 マイルCS(GⅠ) 優勝馬 ソウルラッシュ騎乗団野大成騎手のジョッキーカメラ映像 / JRA公式
■2024年 マイルCS(GⅠ) 優勝馬 ソウルラッシュ / JRA公式
このように勝利が確定する決定線(ゴール板位置)の前にもかかわらず、体勢的に勝利を確信した騎手がガッツポーズをした例はたまにある。実際にあったシーンを幾つか紹介しよう。
五十嵐冬樹騎手が道営の星・コスモバルクと異国で掴んだ夢
コスモバルクは道営所属ながら皐月賞の前哨戦である弥生賞を勝ち、一躍2004年クラシック候補に名乗りを上げた。しかし、JRA所属馬とは違うステップレースを消化せねばならないなど苦労も多く、地方所属のままJRAクラシック三冠を皆勤したが勝利には至らなかった。この間、同じ道営の五十嵐冬樹騎手とコンビを組んできたが、その後は様々な意向で他の騎手が手綱を取ることが多かった。
だが、4歳秋から再び五十嵐冬樹騎手が鞍上に。翌5歳春、異国の地でシンガポール航空国際C(GⅠ)に挑み、直線での叩き合いで優位に立った。そしてゴール目前、1年6か月ぶりの勝利をほぼ手中に入れたと感じさせたその時、鞍上は右手を大きくかかげてガッツポーズ!史上初の海外GⅠ・芝のレースでのGIという悲願の大きさを感じさせる力強さがあった。
■2006年 シンガポール航空国際C(GⅠ) 優勝馬 コスモバルク
22歳の横山典騎手、1週前の悔しさを同じ18番枠で雪辱
1990年菊花賞、メジロライアンに騎乗した横山典弘騎手は悔しさを受け止めていた。道悪の弥生賞で鮮やかな差し切り勝ちを決めたメジロライアンはその年のクラシック最右翼と言われ、横山典騎手は取材に対して「ライアンが一番強い」と言い続けた。しかし、皐月賞3着、日本ダービー2着。クラシック最終戦の菊花賞は同じメジロ軍団のメジロマックイーンが制し、ライアンは3着に敗れクラシックは無冠に終わった。
その1週間後のエリザベス女王杯、横山典騎手は菊花賞のメジロライアンと同じ8枠18番に入ったキョウエイタップの鞍上にいた。直前の秋2走を凡走からオッズは8番人気と奮わなかったが、鞍上はこの馬の差し脚を信じ、直線に賭けた。
ゴール手前150m、内から鮮やかに抜け出し後続を引き離すとゴール前から横山典騎手は右手を大きく突き出し、ガッツポーズ。1週前の悔しさと自身の初GⅠ制覇の喜びが力強く伝わった瞬間だった。
■1990年 エリザベス女王杯(GⅠ) 優勝馬 キョウエイタップ
吉田豊騎手とメジロドーベル、エアグルーブを負かしエリザベス女王杯優勝
1998年のエリザベス女王杯(GⅠ)、メジロドーベルとエアグルーヴの対戦はこれが4戦目だった。メジロドーベルと1つ年上のエアグルーヴはともにオークス馬だ。しかし、なかなか牡馬には勝てなかったメジロドーベルに比べると、エアグルーヴは天皇賞(秋)を制し、ジャパンC(GⅠ)は2着に健闘した活躍が認められ、26年ぶりに牝馬ながら年度代表馬(1997年)に選ばれており牡馬と互角に渡り歩いていた。
初顔合わせの1997年有馬記念(GⅠ)はエアグルーヴは3着でメジロドーベルは8着。続く1998年大阪杯(GⅡ)はエアグルーヴが優勝しメジロドーベルは2着。サイレンススズカが勝った宝塚記念(GⅠ)でもエアグルーヴが3着でメジロドーベルが5着で、エアグルーヴには先着できずにいた。
そして4度目の対決、メジロドーベル陣営はこのエリザベス女王杯に最大目標として挑んだ。が、レース前半はかかってしまい吉田豊騎手は全身で折り合いを欠く彼女を御す姿もみられたが、グッと乗り切って馬群の内側で抜け出すタイミングを狙っていた。対し、外目から差す態勢のエアグルーヴ。
最後の直線、メジロドーベルはラチ沿いの最内に潜り込み、抜け出した。鋭い末脚。外からエアグルーヴも追い出すが、先に抜け出したメジロドーベルに上がり33秒5の脚を使われたのでは届かない。接戦ながらも、態勢は決したゴール直前、吉田豊騎手はゴール手前ながらも左手を高くかかげた。メジロドーベル4つ目のGⅠ制覇。吉田豊騎手は時に23歳であった。
■1998年 エリザベス女王杯(GⅠ) 優勝馬 メジロドーベル
振り返ると、ゴール前ながら全身で喜びを表現した騎手たちは20代前半の若手騎手が多い。スポーツとして見ている分には実に気持ちいい姿だが、馬券の対象であると考えると安全にゴールまで我慢して欲しい、という気持ちにもなる。
こういった諫められながらも溢れる喜びを抑えきれないガッツポーズ。団野騎手はこのことを一生言われると思うが、それほど本人にも周囲にも心に刺さるということだ。個人的には今回のソウルラッシュについては、生産者さんがSNSでこの御法を肯定していたし、肝心の馬主さんが咎めないならば "スポーツとしては" これで良かったのではないか、と感じている。