iPhone狙うスパイウエア、今度は米外交官ら標的 イスラエル政府も対策
複数の米国務省職員が所有する米アップル製スマホ「iPhone」がハッキング攻撃を受けていたことが分かったと、ロイター通信や米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。
米政府関係者への攻撃は初
イスラエルのNSOグループが開発・販売しているスパイウエア「Pegasus(ペガサス)」を使った攻撃とみられており、被害に遭ったのはアフリカ東部ウガンダで勤務する米国務省職員など。
一部は米国籍の外交官で、現地人の大使館職員も含まれると関係者は話している。ロイターは少なくとも9人が標的になったと報じている。ウォール・ストリート・ジャーナルはアップルがこれらの攻撃を検知し、標的となった11人に通知したと報じている。
いずれにしてもNSOグループの技術を使って米政府関係者のモバイル端末に不正侵入した事例が確認されたのは初めてとみられている。
NSOグループのスパイウエアは、ジャーナリストや人権活動家、反体制派、政府関係者、大使館職員、ビジネス・学術関係者などを標的に悪用されてきたと指摘されている。2018年にトルコで殺害された、ワシントン・ポスト紙コラムニストのサウジアラビア人記者、ジャマル・カショギ氏の周辺人物も標的になったとみられている。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、フランスの人権派弁護士や活動家、インドのジャーナリスト、ルワンダ人活動家のiPhoneからもNSOのスパイウエアが見つかったと報告している。
各国メディアの調査報道チームは21年7月、NSOグループが外国政府などに販売したスパイウエアによって、ジャーナリストや政治家などが標的になったと報じていた。
また、米商務省は21年11月、NSOグループを輸出管理規則(EAR)に基づくエンティティー・リスト(EL)に追加。同社への米国製品や技術の輸出などを「原則不許可(presumption of denial)」とした。
アップルとメタがNSO提訴
アップルは21年11月、NSOグループを提訴したと明らかにした。米カリフォルニア州北部地区の連邦地裁に提出した訴状でアップルは、「ペガサスによって、iPhone利用者の電子メールやテキストメッセージ、ウェブブラウザー閲覧履歴などの情報を収集できてしまう。端末のカメラやマイクへのアクセスも可能にしている」と指摘。
アップルのソフトウエアやサービス、端末の使用を恒久的に禁じる命令を出すよう裁判所に求めている。
米フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)は19年に、傘下の対話アプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」の利用者1400人がNSOグループからマルウエア(悪意のあるプログラム)を送り付けられたとして、カリフォルニア州の連邦地裁に提訴した。
これに対し、NSOグループは「当社の技術は人命を救うために使われてきた。人権を尊重する法治国家の法執行機関や情報機関に提供し、テロリストや犯罪者の追跡・検挙を手助けしてきた」と反論。「当社のソフトウエアを悪用する外国政府との契約も打ち切った」と説明している。
ウォール・ストリート・ジャーナルやCNBCによると、NSOグループは中東やメキシコ、インドなどの政府機関などにスパイウエアを販売したと指摘されている。
イスラエル政府、サイバー技術の輸出規制強化
こうした批判はイスラエル政府にも向けられており、政府も対策に乗り出している。
ロイターによると、イスラエル国防省は21年11月、サイバー技術の輸出規制を強化した。NSOグループなどの技術の輸出許可対象国リストからメキシコやモロッコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などを除外した。
このリストには従来102カ国が記載されていたが、37カ国に減らした。これにより、米国やカナダ、オーストラリア、欧州諸国、日本、韓国などの人権保護を重視する民主主義国のみが残ったという。
エルサレム・ポストによると、イスラエル国防省は21年12月6日、輸出規制強化の一環として、サイバー技術を購入する外国政府に対し、宣誓書への署名を求める措置を取ると発表した。
「技術をテロ行為や重大な犯罪の阻止のためだけに使う」と誓わせるもので、「政治的発言や政府批判は重大な犯罪としない」との文言も明記するという。
- (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2021年12月8日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)