アマゾンがワクチン接種でバイデン大統領に直訴 「当社の社員はエッセンシャルワーカー」
先ごろ、米アマゾン・ドット・コムがバイデン米大統領に書簡を送り、政府のワクチン接種政策に協力を申し出たと米CNBCなどが報じた。
「速やかなワクチン接種を」
ワールドワイド・コンシューマー事業のデーブ・クラークCEO(最高経営責任者)は書簡で、アマゾンが米国で80万人以上の従業員を抱える、米ウォルマートに次ぐ米第2位の雇用主であり、「従業員の大半は人々の生活に必要なモノやサービスを提供するエッセンシャルワーカーだ」と説明した。
同氏は、アマゾンの物流倉庫で働く従業員や、傘下クラウドサービス事業「アマゾン・ウェブ・サービス」のデータセンターで働く従業員、そして傘下食品スーパー「ホールフーズ・マーケット」で働く従業員を挙げた。
在宅勤務ができないこれらの人は「できるだけ早く適切な時期にワクチン接種を受けるべきだ」とし、そのための支援を行う用意があると述べた。
同社は物流施設で接種を実施することで医療機関などと合意しており、ワクチンが入手可能になった段階で迅速に対応できるとしている。
クラーク氏は「当社の規模によって、Covid-19との闘いに直ちに有意義な影響を与えることができる」とも述べ、「当社の業務やIT(情報技術)、広報などの能力や専門性を活用し、新政権のワクチン接種政策を支援する準備ができている」と強調した。
アマゾン幹部、米疾病対策センターにも書簡
CNBCやロイターによると、クラーク氏は昨年12月にも米政府に同様の要請をしていた。
米国では20年12月11日に食品医薬品局(FDA)がワクチンの緊急使用許可(EUA)を出し、同14日から医療従事者や長期介護施設入居者の先行接種が始まった。
これを受け、クラーク氏は米疾病対策センター(CDC)の諮問委員会に書簡を送付。「物流施設や食品スーパー、データセンターなどで働く従業員は米国人の生活維持に不可欠なエッセンシャルワーカーだ」とし、速やかな接種の必要性を訴えていた。バイデン新政権が発足した今、同氏は大統領への直訴という形であらためて政府に陳情した。
ウーバーやドアダッシュも陳情
アマゾンでは20年初め、感染症対策が不十分だとして物流施設の一部従業員が抗議活動を始めた。20年3月にはニューヨーク・スタテン島の施設でストライキを実施。職場環境の透明性の欠如や安全対策の不十分さ、リスクに対する賃金の低さを訴え、施設の一時閉鎖を要求した。
こうした事態を受け、同社は安全対策を強化。サーモグラフィーカメラを導入するなどし検温を実施するとともに、施設内での消毒・洗浄の頻度を高め、マスクも支給した。
対人距離確保のためのAI(人工知能)カメラシステムやウエアラブル機器も導入し、データをコンタクトトレーシング(接触追跡)に活用する取り組みも始めた。
また、衛生検査技師を雇って研究チームを作ったほか、科学研究員やソフトウエア技術者、調達の専門職などで構成するチームも作った。
だが、それでも感染症対策と経済活動の両立は難しいと指摘されている。アマゾンは20年10月、米国の従業員で陽性が確認されたり推定されたりした人が約2万人になったと明らかにした。
CNBCによると、配車サービス大手の米ウーバーテクノロジーズや料理宅配サービス大手の米ドアダッシュのほか、小売り、航空、飲食、食品加工などのさまざまな企業が社員への速やかなワクチン接種を求めて陳情活動を行っている。
事業活動正常化への期待
米疾病対策センター(CDC)によると、米国では21年3月4日までに人口の16.3%に当たる5404万人が少なくとも1回目のワクチン接種を受けた。2回目の接種を受けた人は同8.4%の2780万人。
米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、バイデン大統領は21年3月2日、同5月末までに米国の成人全員分のワクチンを確保できるとの見通しを示した。
これまで7月末としていた目標を前倒しできるという。大統領は「大きな前進だ」と述べている。こうした中、米国では事業活動の早期正常化への期待感が高まっているという。
- (このコラムは「JBpress」2021年1月22日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)