「最終東京行」新幹線への1分接続では乗り換えできない! 利用低迷で「廃線危機」の道南いさりび鉄道
2024年9月26日から 10月8日にかけてJR東日本が発売する会員限定の「大人の休日倶楽部パス」の利用期間となっていることから、この期間はJR東日本とJR北海道のエリアにはこのパスを利用しての多くの来訪者がある。
筆者は先日、この「大人の休日倶楽部パス」を使用して来道した知人を函館で案内することとなった。函館から東京への戻りは、北海道新幹線の新函館北斗駅から東京行の最終となる「はやぶさ48号」に乗車するという。この「はやぶさ48号」は、新函館北斗駅から東北新幹線の二戸駅までは各駅停車となることから、知人は「道南いさりび鉄道に乗ってみたいので木古内駅から新幹線に乗車できないか」と話し、さっそく列車の時刻を調べてみることにした。「大人の休日倶楽部パス」では、道南いさりび鉄道には乗車できないが「980円くらいだったら追加の運賃を払ってもよい」という。「はやぶさ48号」は、新函館北斗駅を18時40分に発車し、木古内駅には18時53分に停車。東京駅には、23時4分に到着する。
新函館北斗駅で新幹線に乗り継ぐ場合は、函館駅を17時28分か18時6分に発車する「はこだてライナー」に乗れば、新函館北斗駅にはそれぞれ17時50分と18時30分に到着することができ、余裕をもって新幹線に乗り継ぐことができる。しかし、函館駅を17時44分に発車する木古内行に乗車した場合、木古内駅到着は東京行「はやぶさ48号」発車の1分前の18時52分となる。道南いさりび鉄道の木古内駅ホームから北海道新幹線の木古内駅ホームまでは相応の距離があり、知人は「これを1分間で乗り換えることは不可能」と判断し、結局、函館駅を17時28分に発車する「はこだてライナー」で新函館北斗駅に向かうことになった。
2016年の北海道新幹線の新青森―新函館北斗間の開業にともなってJR北海道から経営分離された江差線の木古内―五稜郭間を引き継ぐために北海道が筆頭株主を務める第三セクター鉄道として設立された道南いさりび鉄道は、2023年9月に突如として存廃問題が浮上したことは、記事(「利用低迷に老朽化」で廃線危機の道南いさりび鉄道 経営改善の手立ては本当にないのか!?)でも詳しく触れいている。その後、2024年度になり4月に、道と沿線自治体との書面開催により行われた協議会資料で「2026年度以降、当面は鉄道運行を維持することを念頭に置く」と記されており結論は先送りにされた模様だ。しかし、鉄道に冷たい北海道庁がいつまた道南いさりび鉄道の存廃議論を持ち出すのか、不安に思っている読者の方もいることだろう。
道南いさりび鉄道は、北海道と本州方面を結ぶ貨物列車の幹線ルートを形成している路線であることから安易な鉄道廃止は北海道の物流危機に直結しかねないが、旅客の面では、特に上磯―五稜郭間については密集した市街地エリアの中を走っているにも関わらず、線路脇に立地している大型ショッピングセンターに駅の設置がなく列車が素通りしていることや、木古内駅での新幹線との接続が全く考慮されていないダイヤであることから、潜在顧客の取りこぼしがあることを前述の記事の中で筆者は指摘している。
ネット上では「そもそも新幹線接続の需要がないからダイヤ改善は不必要だ」という意見もあるようだが、今回の知人のケースのように「せっかくだから道南いさりび鉄道に乗ってみよう」と思ったものの、木古内駅での「最終東京行」新幹線の1分接続という、事実上乗り換えが不可能なダイヤから道南いさりび鉄道の乗車をあきらめ、結果として980円の機会損失が生じている。「大人の休日倶楽部パス」での来道者に限っても、このような潜在顧客を取りこぼしているケースは少なからずあるだろう。
道南いさりび鉄道の利用促進・収支改善は、列車の接続改善など、このような小さい取り組みの積み重ねが重要であるが、こうした取り組みを放棄し、利用者減少と施設の老朽化を理由に道南いさりび鉄道の存廃協議を始めようとした北海道庁の政策姿勢はやはり愚行以外のなにものでもない。
(了)