「利用低迷に老朽化」で廃線危機の道南いさりび鉄道 経営改善の手立ては本当にないのか!?
2023年9月に突然、存廃問題が浮上した道南いさりび鉄道
2023年9月、北海道と沿線自治体で構成する道南いさりび鉄道沿線地域協議会では、道南いさりび鉄道の2026年以降の存廃について2023年度中に存廃協議を行うという驚きのニュースが流れた。道南いさりび鉄道は、2016年に北海道新幹線の新函館北斗―新青森間が開業した際に、JR北海道から経営分離された江差線の五稜郭―木古内間を第三セクター鉄道として引き継いだ路線で、北海道も64.7%を出資する。この路線は、北海道と本州方面を結ぶ貨物列車の幹線ルートにもなっており、多くの貨物列車が走行する路線でもある。なお、旅客列車はすべて函館駅から発車している。
にもかかわらず、新型コロナウイルスの影響による利用低迷や施設の老朽化などにより今後の設備投資がかさむことなどが理由として挙げられていた。しかし、事業を継続していくうえでは、継続的な設備投資を行い施設の更新を行っていくことは当たり前の考えかたであるが、道南いさりび鉄道の筆頭株主を務める北海道庁にはそうした常識的な発想もないらしい。しかし、その後、2024年4月になり、道と沿線自治体との書面開催により行われた協議会資料で「2026年度以降、当面は鉄道運行を維持することを念頭に置く」と発表され、しばらくは列車の運行が続けられるようだ。筆者は9月上旬、そんな道南いさりび鉄道を訪問した。
朝の列車には旅番組のロケが同乗
函館駅の改札口を抜け、道南いさりび鉄道の列車が発着しているホームに向かうと、ちょうど、木古内方面からキハ40形首都圏色1両編成の列車がホームへと入線してきた。列車が到着すると車内からは旅番組のロケと思われる一団が下車。ホーム上で首都圏色のキハ40形を背景に撮影を始めた。筆者の方からは、テレビカメラを向けられていたタレントさんの姿を直接見ることができなかったが、ホーム上にいた乗客からは「六角精児さんだ!」という歓声が聞こえた。
筆者は、この日の道南いさりび鉄道の乗車には「青春18きっぷ北海道新幹線オプション」を使用しており五稜郭駅での入鋏印がほしかったことから、いったん、はこだてライナーで五稜郭駅に向かい、その後、函館駅からやってくる木古内行に乗車することにした。
沿線には市街地密集
筆者は函館駅駅を10時34分に発車する木古内行に五稜郭駅から乗車したが、五稜郭駅の到着時には車内はそれなりに混雑しており、筆者は1人分だけ空いていた4人掛けボックス席にどうにか座ることができた。
道南いさりび鉄道は、五稜郭―上磯間は市街地が密集したエリアを走り、1日2000名程度の利用者がいるが、列車本数は1時間に1本程度と決して多いとはいえず、七重浜―久根別間の線路沿いの大型ショッピングセンターは素通りし、五稜郭駅裏には市立函館病院や大型ショッピングセンターが立地しているにも関わらず、裏口改札が設置されないなど、利便性向上に向けての取り組みはほぼ行われていないことから十分に伸びしろのある路線といえる。なお、上磯駅の一つ手前の清川口駅は、北斗市役所に隣接している。
トラピスト修道院への観光利用も
筆者が乗車した列車については、上磯駅を過ぎればほぼ乗客はいなくなるだろうと予想していたが、そうした予想は見事に裏切られ、車内にはいくつかの観光客グループが残りにぎやかに談笑していたのが印象的だった。もしや筆者と同様に「青春18きっぷ北海道オプション券で木古内駅から奥津軽いまべつ駅に向かうのかな」とも思ったが、そんなことはなく観光客グループはトラピスト修道院の最寄り駅となる渡島当別駅で降りて行った。
道南いさりび鉄道は、函館―五稜郭―上磯間には18往復の本数がありおおむね1時間に1本程度が運行されているが、上磯―木古内間では1日9往復といっきに運行本数が減り、運転間隔も2~3時間に1本程度となる。さらに、木古内駅で北海道新幹線への接続を全く考慮していないダイヤとなっていることから、新幹線アクセス鉄道としての可能性を自らつぶす結果となっている。筆者が乗車した列車は11時37分に木古内駅に到着したが、木古内駅で接続する東京行のはやぶさ28号は13時1分の発車で待ち時間は1時間24分。
この1本前の函館駅を8時53分に発車する木古内行はさらにひどく木古内駅に到着する10時8分の20分前である9時48分に東京行のはやぶさ18号が木古内駅を発車してしまっている。はやぶさ18号の次は13時1分発のはやぶさ28号となるが、道南いさりび鉄道はこのように新幹線のアクセスを全く考慮せずに列車の運行を行っている実態がある。
鉄道の価値を再評価し利便性の向上を
道南いさりび鉄道は、函館―五稜郭―上磯間における都市鉄道としての可能性、トラピスト修道院最寄りの渡島当別駅への観光アクセス鉄道としての可能性、木古内駅での新幹線アクセス鉄道としての可能性を秘めた路線である。さらに、冒頭でも触れたような旅番組で取り上げてもらうことができれば地域プロモーションとしての効果も見込める。筆頭株主を務める北海道は、こうした伸びしろのある分野への取り組みを放置し、利用者減少と施設の老朽化を理由に道南いさりび鉄道の存廃協議を始めようとした政策姿勢は愚行以外のなにものでもない。
(了)