特別警報の周知がもっと必要
平成29年梅雨期の特別警報
平成29年の台風3号は、7月4日8時頃に長崎市付近に上陸し、そのまま東進して日本の東海上で温帯低気圧に変わっています。
台風3号が日本列島を通過したあとも、梅雨前線は日本付近に停滞し、太平洋高気圧の縁辺をまわる暖湿気流が西日本に流入したことから、7月5日の山陰地方では記録的な大雨となり、島根県浜田市波佐で2時45分に82.0ミリの1時間雨量を記録し、浜田市など島根県の浜田市など4市町に対して5時55分に「大雨特別警報(浸水害、土砂災害)」が発表となっています。
島根県の4市町に発表されていた大雨特別警報は、5日11時15分に解除となり、大雨警報(土砂災害)が発表となっていますので、5時間20分の特別警報でした。
しかし、九州北部では、梅雨前線がゆっくり南下し、前線に向かって暖かくて湿った空気が流入したため、5日の昼頃から夜遅くにかけて福岡県筑後地方から大分県西部にのびる線状降水帯が形成されて猛烈な雨が降り続き、福岡県では17時51分に「大雨特別警報(浸水害か土砂災害、あるいは両方)」が発表となっています(最終的には22市町村で大雨特別警報)。
また、大分県でも19時55分に大雨特別警報(浸水害、土砂災害)が15市町村に対して発表となっています。
九州北部の大雨の原因となった線状降水帯は、次々と発生した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出されるものですが、極端に強い雨の範囲は、福岡県朝倉市から東峰村を通って、大分県日田市までと非常に狭い範囲です(タイトル画像)。
平成26年8月26日に広島市北部で発生した土砂災害も線状降水帯によるもので、極端に強い雨の範囲は、非常に狭い範囲でした。
福岡県朝倉市朝倉では15時38分までの1時間にこれまでの極値を更新する129.5ミリを観測し、日降水量も極値を更新する516.0ミリとなっています(表1)。
1時間降水量が129.5ミリ、24時間降水量が545.5ミリと、アメダスが観測を始めた昭和51年以降の記録であった74.5ミリ、293.0ミリをともに大幅に更新しました。また、大分県日田でも24時間降水量が359.0ミリと、昭和51年以降の記録であった309.5ミリを更新しました。
範囲の狭い現象には特別警報を発表しない
命を守る行動をとるための特別警報は、平成25年8月30日から始まったもので、これまでの警報より強く警戒を迫るものです。
都市機能の麻痺や、多くの集落が孤立し、復旧に長時間を要する現象が対象で、表2のように、雨量や土壌雨量指数の基準に加え、範囲の条件がついています。
範囲の狭い現象には特別警報を発表しないということは意外と知られていません。
平成25年(2013年)7月28日は、太平洋高気圧の縁をまわるように下層に湿った暖気が中国地方に入り、上空には偏西風が大きく蛇行して寒気が流入したことが重なって激しい上昇気流が生じ、積乱雲が発達しています。
加えて、この状態が同じ場所で継続したことから、山口県と島根県では平年の一ヶ月の雨量が3時間で降りました。
このため、この雨は特別警報に相当するものとして、気象庁では予報課長が記者会見を行い、「命を守る行動をとって下さい」と、一ヶ月後から始まる特別警報なみの警戒を呼びかけました。
これは良かったと思いますが、特別警報開始からの一年間で、特別警報が5回も発表されたにもかかわらず、特別警報が発表していないのに大きな被害がでた事例が相次ぎ、批判されました。
しかし、これらは予報官が見逃しで特別警報を発表しなかったのではなく、特別警報を発表する基準に達しなかったから特別警報を発表しなかっただけです。
どのようなときに発表し、どのようなときに発表しないかということを理解している防災関係者、報道関係者はほとんどいませんでした。
特別警報の運用の適否を議論する以前の問題です。
ただ、特別警報導入から4年たった今年の特別警報をみて、特別警報に対する理解が進んでいるかどうかと思いました。
もっと、周知が必要ではないかと思いました。
平成25年10月16日
伊豆大島で前線と台風26号による局地的大雨(死者43名)
基準値を越えている範囲が狭いので特別警報は発表しない。
平成26年2月14日
関東甲信地方で南岸低気圧による大雪(死者25名)
基準値を越えたあと、警報級の雪が丸一日程度続かないので特別警報は発表しない。
平成26年8月20日
広島市北部で太平洋高気圧をまわるように暖湿気流が入り局地的大雨(死者74名)
基準値を越えている範囲が狭いので特別警報は発表しない
佐渡で50年に一度の大雨
平成29年7月24日の新潟県は、停滞する梅雨前線に暖かく湿った空気が流れ込んで前線の活動が活発となった影響で、23日午前0時の降り始めから24日18時までの総雨量は、村上市(高根)で222.0ミリ、佐渡市(相川)で219.0ミリを観測ています。このとき、新潟地方気象台は「佐渡市では50年に1度の記録的な大雨」として警戒を呼び掛けています。
このことは、佐渡市では特別警報の基準値を越えている場所があり、特別警報に準じた厳重な警戒が必要ですが、この大雨の範囲が狭いので特別警報は発表しないという意味で発表したと思います。
特別警報が発表時には避難完了
平成29年の九州北部豪雨では、「雨のピークからかなり遅れて大雨特別警報を発表したと」と感じた防災関係者や利用者が多かったと思いますし、そのような報道もありました。
福岡市朝倉で10分間雨量が20ミリ(1時間雨量換算で120ミリ)を越したのは14時20分からで、この頃には表面雨量指数や土壌雨量指数が大雨特別警報の基準を越した場所があったと思います。
しかし、基準を超えた範囲は狭く、朝倉市などで大雨特別警報が発表となったのは17時51分でした。
現状の大雨特別警報では、記録的な雨が降っても、大雨の範囲が狭いうちは特別警報の発表をしないことをもっと周知すべきと思います。
特別警報が発表されたときには、避難を完了している前提です。
特別警報が発表された時に避難をしていなかったときは、
「自治体が発表する避難勧告などの情報に注意して直ちに避難所へ避難する。外出するのが危険な場合には崩れてくる崖側とは反対側の部屋、あるいは2階の部屋など、同じ家の中でも、水害により安全な場所や、災害に巻き込まれても救助を受けやすい場所に移動して身の安全を確保する」です。