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知られざる数億ションの世界(5)地方都市のタワマン最上級住戸は誰が、なぜ買う?

櫻井幸雄住宅評論家
郊外や地方都市の超高層マンション最上階からは、極上の眺望も。埼玉県内で筆者撮影

 新築時の分譲価格が数億円、ときに10億円を超える高額住戸=数億ション、10億ションは、一般の住まいとは大きく異なる部分が多い。

 今回は、郊外や地方都市で増えている超高層マンションにおける最上階・高額住戸の話だ。

 超高層マンションは、本来は都心部に似合う住居形態といえる。ビルが建て込む東京や大阪の都心部は、まさに超高層マンションの適正地だろう。

 それでも、近年は郊外エリアや地方都市でも超高層マンションの数が増えるようになった。理由は、駅周辺の再開発で超高層マンションが誕生しやすいからだ。

 再開発では、それまでの建物をすべて取り壊し、新たな街がゼロからつくられる。その際、歩道付きで幅広の道路が新たにつくられ、公園や緑地帯も確保される。幅広道路や公園のスペースをつくり出すため、建物は高層化せざるを得ない。

 「土地の高度利用」を図るため、建設されるマンションは超高層になりがちなのである。

 郊外や地方都市の駅周辺再開発エリアに誕生する超高層マンションは、周囲に高層建築物が少ないため、「ひときわ眺望がよい」という長所が生まれやすい。

 その長所を十二分に満喫できるのが、最上階住戸。だから、郊外や地方都市において、超高層マンションの最上階は特別感が強まる。最上階のなかでもコーナーに位置し、専有面積が最も大きい住戸となると、特別のなかでも特別な存在。つまり、「ナンバーワン住戸」となり、価格も最上級となる。

 下層部の75平米・3LDKが5000万円程度のとき、最上階角住戸で150平米の住戸は2億円というような高額になりやすい。

 広さで比べれば、150平米は75平米の2倍。なので、5000万円の2倍で1億円となってもよさそうだ。

 しかし、プレミアム要素となる「最上階」や「角住戸」に加え、「最上階だけは天井が高い」ことや「設備仕様のレベルがケタ外れに高い」ことなどで、5000万円の4倍・2億円というような価格設定になってしまうわけだ。

 で、その売れ行きはどうかというと……ちょっと信じられないことが起きるのである。

最上階・最高額住戸から売れてゆく

 下層部の75平米3LDKが5000万円程度のとき、最上階角住戸で150平米の住戸は2億円……それだけ価格差を付けたら、いくらなんでも高すぎる。販売に苦労するのでは、と思いたくなる。

 ところが、実際には高額の最上階住戸から売れてゆく。それどころか、抽選による販売となるケースが多い。

 もし、最上階・最高額住戸に誰も興味を示さなかったら、販売の責任者は顔面蒼白。このマンションはまったく売れないのでは、と絶望的な気持ちになってしまう、と、それくらい「売れて、当然」となるのが、郊外や地方都市における超高層マンションの最上階・最高額住戸なのである。

 では、最上階・最高額住戸の購入者は、どういう人なのか。

 それは、地元の人で、名士とされる人、というのが、よくあるパターンだ。

他人に買われたら、悔しい

 以前、地方の大都市で話題になった超高層マンションがあった。一等地に建設され、地元の富裕層であれば買っておきたいと思う物件。そのため、販売前から、ナンバーワン住戸を買うのは誰か、が話題となった。

 Aさんだろう、いや、Bさんかもしれない。そのような話が夜の街で盛り上がると、候補に挙がった人は心中穏やかではいられない。

 競争心があおられるのか、「他の人に取られたくない」という気持ちが芽生えるのか。当然のように、高額のナンバーワン住戸を目指してしまう。

 いわば“勢い”で購入しがちなのだが、それでも、眺望のよい超高層マンション最上階住戸は買って損することがない。交通至便で、買物にも便利な場所であるため、郊外・地方都市の超高層マンションも都心超高層と同様に中古で値下がりしにくいのが普通。そのなかでも、ナンバーワン住戸は、中古になっても「欲しい」という人が絶えない。

 だから、値下がりしにくい。それどころか、値上がりし、儲かってしまうことが多いのだ。

 だからこそ、よけいに欲しくなってしまう。

 他人に購入されたナンバーワン住戸が中古で値上がりしていると聞くと悔しさが増す、と分かっているからだ。

 郊外・地方の超高層マンションで、最上階に位置するナンバーワン住戸は、競い合うように購入されるため、ナンバーワン住戸が複数つくられるケースもある。ナンバーワンが複数あったら、それは「一番」とはいえないだろう、といいたくなる。が、そこには憎い工夫が凝らされる。

 まず、最上階に最も広い住戸をつくる。本来のナンバーワン住戸だ。一方で、それに準じた広さの住戸をつくり、そちらは最上階とその下のフロアにまたがるメゾネット(2層住戸)にする、というような工夫を凝らす。

 どちらも捨てがたい、という住戸を2つつくり、競い合う2人が出現したときにも、共にマンションを買ってもらおうという戦略である。

 それくらい、郊外・地方都市で建設される超高層マンションのナンバーワン住戸は、人気があるわけだ。その街で、最初の超高層マンションとなれば、間違いなく人気は沸騰する。

 全国各地で、超高層マンションが次々につくられ、びっくりするくらい高額な住戸が登場している背景には、そんな事情もあるのだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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