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独自一報 首都圏郊外のゆったりした住宅地で増える「2戸建売」がニッチな人気

櫻井幸雄住宅評論家
古い戸建て住宅地で増える「2戸建売」1戸の敷地に2戸が新築される。筆者撮影

 首都圏郊外で昭和中期に開発された住宅地。1区画あたり200平米(約60坪)を超える広さの一戸建て住宅が並んでいる。このゆったりした広さの住宅地に近年増えだしたのが、土地面積100平米(約30坪)の建売住宅。200平米以上あった区画を半分に割り、100平米の建売住宅2戸を新規分譲する手法だ。

 ミニ開発?と思われがちだが、「ミニ開発」と呼ばれるのは、5戸から10戸程度を一度につくるもの。そうではなく、戸建て住宅1戸があったスペースに2戸の建売住宅をつくるだけなので、ミニ開発よりもさらに規模が小さい。「2戸建売」と呼ぶべき開発手法だ。

 「2戸建売」は、なぜ増えるのか。短所はないのか。

 全国で、今後増えて行くと考えられる「2戸建売」の知られざる実情をいち早く報告したい。

「2戸建売」は、ニッチな売れ筋商品

 まずお断りしておくが、「2戸建売」に違法性はない。建築基準法や消防法、地域の条例を遵守して建築される。だから、正規の手順で住宅ローンを組み、購入することができる。

 ただし、「ゆったりした広さの戸建て住宅」ではない。

 まず、長方形の敷地に2戸を並べて建設するため、道路側に1戸、その奥に1戸を建てる形式が多くなる。奥に位置する住戸はいわゆるシキエン(敷地延長の略語)状態になる。

 2戸とも土地面積が100平米(約30坪)程度で駐車場付きとなるため、庭のほとんどがコンクリートを打設した駐車スペースとなる。土の庭は最小限で、樹木は鉢植えで育てられる。

 土地面積200平米(約60坪)の戸建て住宅に挟まれると、「2戸建売」は窮屈な印象を受ける。ただし、価格は抑えられる。

 首都圏郊外で、駅から歩いて10分程度の場所ならば、新築で6000万円程度、築10年未満の中古で5000万円程度で購入できるケースが多い。

 現状、同条件の新築マンション3LDK(70平米程度)と大差ない価格設定だ。

 新築マンションと変わらない価格だが、駐車場使用料や管理費などが不要という利点があるし、大型犬を飼うこともできる。そのため、売れ行きはよい。飛ぶように売れる、とまではいかないが、さほど苦労しないで売り切ることができる。だから、中小の不動産業者にとっては大手の隙間をつく売れ筋、つまりニッチな人気商品となっている。

 さらに、「2戸建売」は「マイホームを売りたい」というシニアの助けになっているという側面もある。

 それは、敷地が広く、建物が古い中古戸建てを積極的に買い取ってくれるからだ。

今、大型戸建ては中古で買い手がつきにくい

 現在、建売住宅の主流は、土地面積・建物面積ともに100平米の、いわゆる「100平米戸建て」だ。

 しかし、今から60年近く前の昭和40年代、50年代、首都圏郊外で「200平米戸建て」が盛んにつくられた時代があった。土地面積が200平米で、建物の延べ床面積は120平米とか140平米という大型の戸建て住宅である。

 大型住宅が好まれたのは「都心を離れて郊外にゆくのだから、せめて広い家を」と売る側も買う側も考えたから。今、その「200平米戸建て」を中古で売ると、買い手探しに苦労する。

 理由はいくつかある。

 まず、郊外で大型の戸建て住宅を探している人が少ない。そして、建物が築30年を超えると、住宅ローンを組みにくいのも問題となる。古い家を壊して、新しい建物を造ろうとすると、総額が1億円を超えたりする。だったら、便利な都心部や郊外駅近のマンションのほうがよい、と考えられてしまう。

 「100平米戸建て」なら、価格も抑えられるので、新築も中古も買い手がつくが、「200平米戸建て」は売りにくいのだ。

 そこで、困っているのが、「200平米戸建て」の持ち主。昭和40年代、50年代にマイホームを購入した層で、現年齢は70代、80代が中心だ。子供たちは便利な場所のマンションを購入してしまい、2世帯同居も家を継ぐ気もない。それで、有料老人ホームに入ることを考え、その費用捻出のため、マイホームを売ろうとする人たちである。

 その「200平米戸建て」を積極的に買ってくれるのが、中小の不動産業者。古い家を取り壊し、「2戸建売」をつくろうと考えている人たちだ。つまり「古くて広い家を売りたい」という売却希望と「2戸建売の用地が欲しい」という不動産業者の購入希望がマッチするわけだ。

 ただし、古くて広い戸建てを高値で買ってくれるわけではない。

建売住宅を2戸分譲するため、土地の買値は4000万円に

 不動産業者は、200平米の中古戸建てを買い取った後、古い建物を壊して更地にする。そして、100平米の敷地2つに分け、建売住宅を2戸建てて分譲する。この事業を成立させるため、200平米の中古戸建ては現状4000万円程度で買い取られることが多い。

 その収支は以下のように計算される。

 まず、首都圏郊外で販売される新築建売住宅の価格は、前述したとおり駅徒歩10分、土地・建物100平米で6000万円程度というのが現在の相場だ。

 6000万円で建売住宅を売るには古い家の解体費と新しい家の建設費がかかり、販売管理費、会社の利益を見込む必要がある。

 以上の費用を1戸あたりで計算すると、ざっと次のようになる。

○解体費と建設費等で2800万円

○販売管理費・会社の利益等1200万円

 以上で4000万円となり、4000万円かけて1戸6000万円の建売住宅を販売するとなると、土地代として出せるのは1戸あたり2000万円。それの2戸分なので、4000万円。それが、200平米中古戸建てに対して支払うことができる対価となるわけだ。

 以上が、首都圏郊外に多く残る「古くて広い戸建て住宅」を売却しようとしたときの実情である。

 4000万円は、売り手のシニアにとって「期待したより安い」金額となるだろう。

 というのも、「100平米建売」ならば、1戸6000万円程度で売れることを知っているからだ。調べれば、築10年の100平米中古戸建てが5000万円で売れていることも分かる。

 にもかかわらず、築30年の200平米戸建てを売ろうとすると4000万円にしかならない……この現実に呆然とする人は多い。

 しかし、他に買い手がいないので、やむなく売却する。

 つまり、今、首都圏で「2戸建売」が増えている背景には、広くて古い戸建てが安く買い取られているという事実があるわけだ。

 とはいえ、首都圏では「2戸建売」の価格が上昇。6年前、7年前であれば4000万円台で買えた物件も6000万円前後まで上がっている。それに伴い、広くて古い戸建て住宅の買い取り価格も上昇傾向にある。6年前に比べれば、1000万円程度上がっており、その結果、今は4000万円になっているわけだ。

 シニアの老後を考えれば、もう少し上がってほしいところである。

 「2戸建売」が増えると、緑豊かでゆったりしていた住宅地の風情は消えてゆく。住人が増えることで住宅地内の車の通行量が増えるという問題も起きがちである。

 「2戸建売」が増えることで、残念な面も生じるのだが、一方で、「売る人」「買う人」にまあまあ喜ばれているのも事実だ。昭和期に開発された広い戸建て住宅地において、今後「2戸建売」は確実に増えてゆくと考えられる。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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