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ネットで分かることで十分?マンション購入で増える「あっさり購入」の残念な点と懸念

櫻井幸雄住宅評論家
モデルルームでは触れて、動かしたい……。昭島市の販売センターで筆者撮影

 新築分譲マンションの購入者は以前より研究熱心になったといわれる。ネットで情報を調べることを欠かさず、立地特性や周辺相場、3年後、5年後に中古で売るときの予想価格まで熟知している。

 が、熱心なのはそこまで。モデルルームの見学はあっさりしているし、できあがった建物に対する関心も薄い。そもそも購入後のクレームが以前に比べてめっきり減った、という不動産関係者が多い。

 建物に対する関心が薄いのだ。

 不動産会社からは、これでは一所懸命につくった甲斐がないという声も洩れてくる。ということは、今後、建物の質を落としても購入者は気づかない。だから、質を落としやすいという事態が生じかねない。

 マンション購入では、ネット情報では分からない箇所のチェックが重要。住み始めてからは、細かな長所が住み心地を左右する。以前は、そこにマンションの真価があると考えられていた。今、多くの人が見逃している新築分譲マンションの「本当は、ここを見るべき」ポイントを紹介したい。

なぜ、モデルルームで触らないの?

 今、多くのマンション購入者は、販売センターのモデルルームで「見るだけ」見学を行っている。手で触って素材の質感を調べたり、建具の作動感を確かめることをしないのだ。

 システムキッチンのカウンターをなで回したり、玄関ドアやバルコニーの窓を開けたり閉めたりしない。それどころか、触ったり、動かしたら、怒られるのではないか、と思い込んでいる人もいる。

 それは、コロナ禍の時期、モデルルームで手袋の着用を義務づけられたことの影響かもしれない。つまり、「素手で触ってはいけません」という時期があったので、そのときの印象が残っているわけだ。

 また、最近のモデルルームはサービス満点で、ドアや窓の開閉を販売員が行ってくれることの弊害もあるだろう。

 見学者が手を出しにくい状況が生まれているわけだ。

 しかし、プロがモデルルームを見学するとき、「触らない」「動かさない」はあり得ない。

 たとえば、私がモデルルームを取材する場合、いろいろなところをなでまわすし、ドアや窓、引き出しは何カ所も開け閉めする。販売センターのモデルルームは舞台の大道具のようなもの……とはいえ、アルミサッシやシステムキッチンは実際のものが配置されるので、作動感は実物と同じだ。

 だから、バルコニーの大型窓を開ける場合、どのくらい重いのかが分かる。システムキッチンの引き出しがソフトクロージングになっている場合、どのくらいゆっくり閉まるのか。確認したい箇所が多く、それらを調べずにモデルルームを後にすることなどあり得ない。

 モデルルームで引き戸があるときは、力を入れて閉じてみたりする。小さな子供はときにドアを思い切り強く閉めたりするもの。その感じで力を入れてみるわけだ。

 しかしながら、それは、一般の方にはオススメできない。力の加減が分からないと、「迷惑な見学者」になりかねないからだ。「力を入れて動かす」といっても、ほどほどの加減が必要なのだ。

 私は40年に及ぶ取材経験で触感、作動感の基準が身についているので、「これは重すぎる」「これは作動が心地よい」といったコメントを出すため、積極的に触り、動かすことにしているわけだ。

 各不動産会社の事業部長や担当役員など部門の責任者がモデルルームを検分するときも同様。バンバン触って、ガンガン動かし、不都合がないかを確認する。

 それは、「住宅はできあがってからが肝要」と心得ているからだ。マンションが完成し、購入者に引き渡されれば、触って動かす生活が始まる。ときに、乱暴に扱われることもある。そのとき、満足される素材、壊れない建具であることが大事なのだ。だから、モデルルームではいろいろなところを触り、動かすことが習慣となっている。

 残念ながら、ネット情報で感触や作動感まで言及されることは少ない。言及したとしても、経験の少ない人の判定はアテにならないことがある。やはり、自分で触り、動かすべきなのである。

建物が完成してから分かることもある……

 自分の手で触ったり、動かすことはモデルルーム見学の基本だ。

 これにより、マンションでの生活がリアルにわかってくる。

 しかしながら、モデルルームで触って、動かすことだけで、マンションのすべてが分かるわけではない。新築分譲マンションには、建物ができあがるまでまったく分からない部分が隠れているからだ。

 たとえば、開放廊下の手すりがどうなっているのか。建物内にトランクルームがある場合、その内部はどのようなつくりになっているのか。販売センターでのパネル展示や完成予想図では分からないところがある。

 その実例を紹介しよう。

 今年9月、東京都昭島市で建物が完成したマンション「プレミスト昭島モリパークレジデンス」(大和ハウス工業他)が報道陣に公開された。公開されたのはエントランスやゲストルーム、パーティルームなど共用部だけ。購入者が決まっている専有部(各住戸内)は非公開だった。

 それでも、できあがったばかりの建物内を見ることができる機会は少ない。見学し、「これはネット情報でも、販売センターでも分からなかった」という部分がいくつかあった。

 それは、どんな部分なのか。以下、写真で解説したい。

○開放廊下の手すりが非常に凝っていた

「プレミスト昭島モリパークレジデンス」の開放廊下に設けられた手すり。下からの目線を遮る横桟で、通風を確保。小さな子供が足をかけて登らないように隙間幅も工夫され、汚れが目立たない色合いだった。筆者撮影
「プレミスト昭島モリパークレジデンス」の開放廊下に設けられた手すり。下からの目線を遮る横桟で、通風を確保。小さな子供が足をかけて登らないように隙間幅も工夫され、汚れが目立たない色合いだった。筆者撮影

 

○トランクルームに窓が付いていた

トランクルームを1カ所に集めた便利な共用施設だが、空気がよどみ、怖い印象の場所になりがち。しかし、窓があることでムードが一変する。非常に好ましい工夫だ。筆者撮影
トランクルームを1カ所に集めた便利な共用施設だが、空気がよどみ、怖い印象の場所になりがち。しかし、窓があることでムードが一変する。非常に好ましい工夫だ。筆者撮影

 

○トランクルームには、水栓と流しも付いていた

トランクルームは窓付きであるだけでなく、水栓と流しも付いていた。汚れ物を洗うときや、荷物を運んだ後、手を洗うときにも便利。住人は「こんなの付いているんだ」と驚き、喜ぶだろう。筆者撮影
トランクルームは窓付きであるだけでなく、水栓と流しも付いていた。汚れ物を洗うときや、荷物を運んだ後、手を洗うときにも便利。住人は「こんなの付いているんだ」と驚き、喜ぶだろう。筆者撮影

○屋外のテーブル、椅子は強風対策も

「プレミスト昭島モリパークレジデンス」では共用施設に家庭菜園がある。そのことは分かっていたが、テーブルと椅子があることは知らなかった。しかも、強風対策でテーブル、椅子が飛ばない工夫も。筆者撮影
「プレミスト昭島モリパークレジデンス」では共用施設に家庭菜園がある。そのことは分かっていたが、テーブルと椅子があることは知らなかった。しかも、強風対策でテーブル、椅子が飛ばない工夫も。筆者撮影

 

 新築分譲マンションには、モデルルームで触って動かして分かる部分がある。それに加え、建物ができあがってはじめて分かる部分もある。つまり、ネット情報だけでマンション購入は完結しない。

 大きな金額を使って実行するマンション購入。買うときも、買った後も、もっと関心をもち、驚いたり、楽しんだりしていただきたいものである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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