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林業改革はジェンダーから……スウェーデンは語る

田中淳夫森林ジャーナリスト
スウェーデン側の演者の半分は女性だった

前回は、スウェーデン大使館の森林イベントなのに、日本の違法伐採対策法案の問題に話をスライドさせてしまったので、改めてイベントに参加した感想を述べたい。

もちろん、日本とスウェーデンの林業の違いは多方面でイヤというほど感じさせられたのだが、とくに興味深かったのは、繰り返し述べられたジェンダーの意識だ。

ジェンダー……社会的な男女の区別……つまり、いかに女性に活躍してもらえるか考えることが、林業の発展と地域振興に大きく関わっている、と力説されたのである。

まず出席者からして違う。スウェーデン側の6人のパネラーのうち、3人が女性なのである。林業地であるベステルボッテン県のアンダッション知事、スウェーデン農業科学大学のユング教授、研究機関の林業技術クラスターのヘドブロムCEOだ。肩書からわかるとおり、政治家、研究者、行政職、とバラエティも富む。彼女らが、繰り返し女性を林業に活かすことを述べるのである。

ちなみに日本側の6人は、全員が男性。かろうじて?司会が森林総研の石崎涼子氏であった。

ユング教授
ユング教授

ヘドブロムCEO
ヘドブロムCEO

何も女性だからジェンダー問題を取り上げているのではないだろう。ただ、森林がいかに地方経済に貢献しているかという文脈の中で、地方で暮らし、林業に多くの人々が就くためには、住宅など生活やキャリアを積む学習制度、そして雇用環境などが魅力的でなければならない、そのためには女性の活躍が必要だというのである。

さらに持続可能な林業を行う上でも、林業機械の開発に関しても、女性の視点が大切であることを示す。もちろん木材製品を扱う企業にとっても、女性は人材であり消費者として重要だという。

私は、スウェーデンの林業におけるジェンダーについては、詳しくない。だから突っ込んだ考察をするのは控えよう。

ただ日本でも「林業女子」という言葉が広がり、(森林ではなく)林業に興味を持つ女性が増えている。今や多くの都道府県に林業女子会が設立されるまでに至っている。

彼女らは森林ボランティア的な活動を行いながら、林業の素晴らしさ、大切さを伝える広報的な役割を果たしているケースが多いのだが、言い換えると「外野の林業応援団」だろう。

もちろん林業現場で働く女性も徐々に増えているし、公務員、森林組合などの職員としてプランナーや研究職、事務職に就く女性はいる。だが、それもスウェーデンのいうジェンダー意識とは、違う気がする。

その違いは何か。そのことをずっと考えていたのだが、一つ気づいたのは活動の方向性である。

林業という職業を世に紹介し、イメージアップを図るのもよいが、えてして「きれいごと」に終わっていないか。林業は素晴らしいだけか? 本当に大切だろうか? もっと女性の視点で現在抱えている林業界の問題点を改善に導く提案は出ないだろうか。

たとえば、林業の事故率の高さを問題視して、技術の習得や安全な機械の開発につなげるキャンペーンを林業女子が行えないだろうか。

あまりに前近代的な雇用環境も取り上げてほしい。いまだに森林組合の作業員の給与は日給払いが多く、有休や育休などの制度が十分に整備されていないこと。道具類や怪我における治療費さえ自前というところもある。さらに非効率な慣行の改善。また持続的とは言えない林業が横行することにノーという声を上げること。無意味な補助金に対しても疑問の声は出せないのか。もちろん商品開発の視点や流通面の改革だってあるだろう。

ようは、耳の痛いことを指摘してほしい。それは本気で林業の再生を思えばこそ、だ。

いうまでもなく、これらの問題は男女関係なく改善への努力をすべきことなのだが、女性の立場から指摘して改革を促す動きは重要なはずだ。外野の応援団に留まらない林業女子の肉声こそが、林業を変えることができるかもしれない。

日本にも増えてきた林業現場で働く女性
日本にも増えてきた林業現場で働く女性
森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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