自民党が「給特法」の改正に積極姿勢、「定額働かせ放題」強化への懸念
「多忙に拍車がかかる懸念がある」と、ある公立中学校の教員がいった。自民党の動きについての感想である。
基本給の4%にあたる教職調整額だけを支払うことで、教員に残業代を支払わない根拠となっているのが、「給特法(公立の義務教育諸学校の教育職員の給与等に関する特別措置法)」である。そのため過労死ラインを超える残業をこなす教員も多いにもかかわらず、「ただ働き」をさせられている。いわゆる「定額働かせ放題」の状況をつくっている法律である。
この給特法の見直しに自民党が動きだすと、FNN(フジニュースネットワーク)が「FNNの取材でわかりました」と11月10日に伝えている。
FNNは、「自民党が、萩生田(光一)政調会長をトップとして教員の働き方改革の推進を目指す新たな委員会を来週にも立ち上げ、給特法の見直しに向け検討を始めることが、新たにわかりました」と報じた。「来週」とは14日から始まる週、つまり今週である。
自民党が給特法の見直しに本格的に取り組むらしい。問題は、どういう見直しになるのか、ということだ。
FNNの報道する前の10月27日、自民党文部科学部会長の中村裕之衆院議員が給特法の改正について「私自身は教職調整額を大幅に引き上げる必要があると思っている」と記者団を前に語っている。4%の教職調整額が教員の長時間労働に見合う額ではないことは、さまざまなところで指摘されてきている。
その教職調整額を引き上げることは、一見、前向きな見直しのようにもおもえる。しかし教職調整額の引き上げだけで、問題は解決しない。
4%という数字は、給特法がつくられた1971年ごろの教員の平均残業時間が月8時間だったところから算出されている。ところが現在は、月80時間という過労死ラインを超える残業時間を強いられている教員が多くいる。残業時間は10倍にもなっているわけで、それに見合う教職調整額にするなら、単純に10倍の40%にしなければならなくなる。そこまでの引き上げを主張するとは、とても想像できない。自民党が主張したとしても、予算権を握る財務省が首を縦にふるわけがない。
仮に教職調整額の引き上げが実現したとしても、わずかなものでしかないだろう。それでは教員のブラックな働き方は改善しないし、「定額働かせ放題」も変わらない。
引き上げだけが実現したら、もっと状況は悪化することも想像できる。「教職調整額を上げたのだからもっと働け、となりかねない」と、冒頭の中学校教員は懸念を口にした。そうなると、「定額働かせ放題」の強化にしかならない。
教職調整額などの待遇面を改善することは、もちろん必要である。しかし、まず必要なことは、教員の多忙を解消することである。過労死ラインを超える働き方が珍しくなくなっている現状こそ、改善されなければならない。それは自民党の中村部会長も承知していることで、教職調整額の引き上げを口にした同じ席で、「教職員の長時間労働は廃止しなければならない」とも語っている。
ただ、教員の長時間労働の解消が簡単ではないことも事実だ。実効性のある改革案を示すのは容易ではなく、そうなると、表向きのインパクトを狙って「教職調整額の引き上げ」だけを目玉にした見直し案でお茶を濁すことも考えられる。
新たに発足する委員会のトップになるという萩生田政調会長は、文科相経験者であり、学校現場の実情はじゅうぶんに理解しているはずである。教員の長時間労働に大胆なメスをいれてもらいたい。まちがっても、定額働かせ放題の強化につながりかねない見直しにはならないことを、大いに期待したい。