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「教師の職責を軽視する」と財務省を批判する教育関係23団体は、同じく軽視する文科省を批判しないのか

前屋毅フリージャーナリスト
子どもたちを泣かせてはいけない!(提供:イメージマート)

 校長会や教育長会、教職員組合など教育関係23団体は11月15日、働き方改革の進捗状況に応じて教職調整額を段階的に引き上げていくという財務省の案を「教師の職責を軽視するもの」だと批判する「緊急声明」を阿部俊子文科相に手渡した。文科省案を支持する姿勢だが、校長権限強化による残業時間縮減の方針も支持するのだろうか。

|財務省は充実した教育や指導を奪う

 23団体で構成される「子どもたちの豊かな育ちと学びを支援する教育関係団体連絡会」が阿部文科相に緊急声明を提出したのと同じ15日、阿部文科相は報道各社のインタビューに応じている。そこで、「校長によるマネジメントを強化し、長時間勤務を縮減するメカニズムを構築する」という方針を明らかにしている。この方針は初めて示されたわけではなく、文科相が財務省案に反論してみせた12日の閣議後記者会見でも語られている。

 その方針とは、教員の長時間勤務を縮減するために、教員の在校時間を自治体ごとに公表し、さらに働き方改革の進捗状況を校長の人事評価に導入するというものだ。残業時間の縮減を自治体に競わせ、校長権限によって在校時間を縮減を加速させる、というものでしかない。

 緊急声明は残業時間縮減の達成度に応じて教職調整額を引き上げる財務省案を、「単に時間外在校等時間が短いことをもって給与を引き上げるという仕組みを導入するだけでは、教師が充実した教育や指導が行えなくな」ると批判している。さらには、「我が国の学校教育の崩壊を招くことに繋がります」としている。

 教員の数を増やさず、教職調整額引き上げを〝エサ〟にして強引な残業時間の縮減を迫るやり方は、必要な教育や指導の時間まで教員から奪ってしまう可能性がある。それでは充実した教育や指導ができなくなる懸念があり、そうなれば「教育の崩壊」を招くことになる。教育関係23団体の財務省案批判は当を得ているといえる。

|文科省も充実した教育や指導を奪う

 一方で、文科省の方針はどうだろうか。在校時間の公表は、残業時間縮減の自治体間の競争を煽る結果にしかならないのは目に見えている。ランキングを気にして残業時間の縮減を自治体が教員に迫れば、「充実した教育や指導が行えなくなる」ことにつながりかねない。

 校長の人事評価に働き方改革の観点を導入すれば、評価を上げるために校長は、残業時間の縮減を強引に教員に迫ることになるだろう。パワハラが続出することにもなる。そのような強引な残業時間の縮減は、必要な時間までを奪うことになり、これまた「充実した教育や指導が行えなくなる」なる。

 財務省案が〝エサ〟で残業時間縮減を〝釣る〟やり方だとすれば、文科省方針は〝尻を叩く〟やり方でやろうとするものでしかない。どちらも、教育や指導の質をないやがしろにしたやり方としかおもえない。

 財務省案と文科省方針に共通しているのは、肝心の学校現場を軽視していることである。当事者である教員の声を聞き、それを反映した改革案をつくる姿勢に乏しすぎる。だから「働き方改革」ではなく、上から目線の「働かせ方改革」にしかならない。教員の声が反映されなければ、充実した教育や指導が行える学校になるはずがない。そういう改革では、教育の崩壊にしかつながらない。

 財務省案を「教師の職責を軽視するもの」だと批判するの教育関係23団体は、同じように文科省方針も問題にすべきではないだろうか。文科省方針に対する緊急声明もだされることを期待したい。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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