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「台湾有事」も「朝鮮半島有事」も核戦争に発展するかも

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
3月21日に行われた米韓海軍上陸部隊の合同訓練(韓国海軍配信)

 恐ろしいご時世となった。中東やアフガンで戦争が勃発していた頃は「対岸の火事」と傍観し、アジアは戦争とは一切無縁と思われていたが、戦争の暗雲はどうやらアジアにも垂れ込めはじめ、キナ臭い雰囲気が徐々に漂い始めた。

 特に、ロシアのウクライナ侵攻が現実となったことから日本や韓国、台湾では「専制主義国家」と称されている中国、ロシア、そして北朝鮮の脅威が急速に高まり、そのための備えが急務であると、防衛力の強化が叫ばれている。

 実際に日本では「敵基地攻撃」や「反撃能力の保有」議論が台頭し、政権与党の麻生太郎自民党副総裁は昨日、講演先で「今までの状況と違う。戦える自衛隊に変えていかなければならない」と、自衛隊の体制強化を力説していた。

 韓国もまた、国家安全保障室と国防部を中心に文在寅(ムン・ジェイン)前政権下の南北対話を重視した国家安保戦略指針を全面的に転換し、軍事力で北朝鮮を圧倒するための新たな国家戦争指導指針の作成を急いでいる。有事に備えた全国民の避難訓練もこれから本格的に再開される。

 北朝鮮は北朝鮮で昨日、李炳哲(リ・ビョンチョル)党中央軍事委員会副委員長が日米韓に対して「我々の自衛的国防力強化措置を問題視する国連安保理公開会議をまたもや強圧的に招集しようとしている」と反発し、「我々の重なる警告を無視して、朝鮮半島の安全環境を引き続き危うくする行為を続けるならばより明白な安保危機と克服不能の脅威を感じさせるための必要な行動的措置を取っていく」とミサイル発射などによるさらなる対決姿勢を鮮明にしていた。

 中国は李尚福国防相が一昨日(16日)ロシアを訪問し、プーチン大統領と会談し、米国に対抗するため両国の軍事協力を強化することで足並みを揃えていた。また、習近平主席は国家主席に選出されたことに対する金正恩(キム・ジョンウン)総書記の祝電への答電(12日)で「国際及び地域情勢は深刻で、複雑に変化している」との現状認識を示したうえで「山河が連なっている友好的な隣邦」の両国が今後も戦略的意思疎通を強化していくことを呼び掛けていた。

 そうしたなか、「ワシントンポスト」は昨日(17日付)「米中競争 実存の脅威は核戦争」と題するコラムを掲載していた。

 その内容は日韓にとっては気が気ではない。というのも米中が台湾で衝突すれば、核戦争の可能性を含め第3次世界大戦に発展する可能性が高く、その場合「中国が台湾本土、フィリピン、グアムの米軍基地だけでなく、在日、在韓米軍基地まで攻撃する」と書いてるからである。何よりも留意すべきは次のような指摘である。

 「新冷戦状況下の米中葛藤は実存するが、タカ派の政治家らも米国の大衆の誰もが核戦争の可能性に十分に注意を払っていないことだ」

 コラムは共和党下院議員らが最近行った米中ウォーゲームや戦略国際問題研究所のウォーゲームで「米国が大きな犠牲を払いながらも台湾を死守する」との結果が出たことから在来式兵器による戦略樹立を提言したことに対して「合理的な提言かもしれないが、核戦争の可能性をあまりにも低く見積もっている」とみなし、「台湾で戦争が勃発した場合、米国が中国の軍艦や戦闘機を海上、空中で撃破しただけで勝利を収めることはできないため結局は中国の軍事基地を攻撃せざるを得なくなる」と指摘していた。そして「そうなれば、米西海岸の基地を含む米軍基地への中国の空襲に繋がり、大統領は中国攻撃など全面戦を決断する可能性が高い」と書いていた。

 また、核戦争に発展する理由については「両大国が交戦となれば、少なくとも海上で核戦術兵器の使用は避けられず、一度レッドラインを越えれば、核戦争の拡散は時間の問題となる」と憂慮していた。

 米中軍事衝突や米韓対北朝鮮の紛争がいつ起きるかは予測付かないが、仮に交戦となれば「ワシントンポスト」の憂慮は現実味を帯びてくるだろう。

 特に、朝鮮半島での軍事衝突は核戦争に繋がる可能性は極めて高い。通常兵器では、また戦争遂行能力では劣勢な北朝鮮にとって核の先制使用以外に対抗する術がないことに尽きる。

 北朝鮮はすでに核使用を法令化し、次のような5つの条件下での核の先制使用を公言している。

 ▲北朝鮮に対する核兵器及びその他の大量殺傷兵器による攻撃が差し迫っていると判断された場合▲国家指導部と核・ミサイル指導機構への核及び非核攻撃が迫っていると判断された場合▲国家の主要戦略対象に対する致命的な軍事攻撃が迫っていると判断された場合▲有事時に戦争の拡大と長期化を防ぎ、戦争の主導権を掌握するため作戦上必要な場合▲国家の存立が危ぶまれ、人民の安全に破局的な危機がもたらされた場合。

 北朝鮮が昨年後半から発射を繰り返している新型戦術誘導ミサイルや戦略長距離巡航ミサイル、大陸間弾道ミサイルはいずれも核ミサイルである。実際に、短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルを使って模擬の核爆弾を空中で爆破する訓練を先月は3度も行っている。同様に津波を起し、港湾を破壊し、艦船を沈める核無人機水中攻撃艇による水中爆破実験も3度行われていた。

 米国の北朝鮮分析サイト「38North」の2017年の報告書「東京とソウルに対する仮想核攻撃」によると、北朝鮮が25ktの核弾頭のミサイルを仮に計25発日本と韓国の首都圏に発射すれば、「東京で約94万人、ソウルで約116万人が死亡する」と推定されていた。

 北朝鮮が先月行った戦術誘導ミサイルによる核弾頭空中爆破実験についても「ソウル経済」(3月13日付)によると、仮に10ktの核爆弾を上空500mで炸裂させた場合、ソウルで最大31万人(死亡者5万人、負傷者26万人)の犠牲者が出て、「核爆発直後に半径150m規模の火口が生じ、大統領官邸が消滅し、半径3km内は50~100%の確率で火傷を負う」と分析されていた。

 北朝鮮が核を先制使用すれば、米国の報復攻撃は必至である。米国は核を使わずも通常兵器だけで北朝鮮を完全に廃墟に できるが、核の先制使用も選択肢に入っている。

 トランプ前大統領は北朝鮮に対して核兵器を先制使用する選択肢まで言及していた。

 実際にトランプ政権は文在寅前政権下での米韓共同声明で「北朝鮮の攻撃から米国及び同盟国を保護することを最優先順位に据え、高まる北朝鮮の脅威から防御するため核及び在来式戦力など米国のすべての範疇の軍事力を使用する準備ができている」ことを強調していた。

 当時のティラーソン国務長官やマーティス国防長官らは米議会の北朝鮮聴聞会で「北朝鮮の場合、米国に対する直接的で差し迫った脅威のためシリアを攻撃したように先に行動し、後に議会に通報することもある」とし、また「北朝鮮が米国を相手に大量殺傷兵器を使用する準備ができている場合、核先制攻撃を加える命令を下す状況も想定される」と発言していた。

 米国は北朝鮮がミサイルを発射する度に「Bー1B」以外に最近では「Bー52」戦略爆撃機を頻繁に飛ばしているが、「Bー52」は精密誘導爆弾のほか核爆弾も搭載している。

(参考資料:日々高まる朝鮮半島での戦争勃発の危険性 「大丈夫だ!」の神話は崩れるかも)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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