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北朝鮮兵士らのウクライナへの越境は本当か!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
派兵された北朝鮮兵士(ウクライナ人のアンドリー・ツァプリエンコ氏のテレグラム)

 北朝鮮の軍高官がウクライナが使用した英国の巡航ミサイル「ストームシャドー」で負傷したとの情報に続いて、ロシア領クルスクに配置されている北朝鮮兵士らが国境を越え、ウクライナの首都・キーウに次ぐ大都市である北東部の激戦地、ハルキウに現れ、またロシアが占拠している南東部の港湾都市、マリウボリにも出没したと、米CNN放送が22日(現地時間)伝えていた。

 この情報のネタ元は「ウクライナの安保消息筋」だが、これら地域に現れた目的及び規模については触れてなかった。北朝鮮の一行はロシアの軍服を着ており、マリウポリに現れた兵士らは「軍の技術顧問団」との見方を示していた。

 CNNは「北朝鮮軍の進出は前線でロシアの同盟としての存在感を示すことにある」と分析していたが、一体、リスクを冒してまで存在感を示すことにどれだけの意味があるのだろうか?

 北朝鮮の対露派兵は「露朝包括的戦略パートナーシップ」の「一方が武力侵攻を受けて戦争状態になった場合軍事援助を行う」ことを明記した「第4条」に基づいている。従って、北朝鮮兵の派兵、駐留は原則的にロシア領の防御に限定されているはずである。

 ドネツク州にあるマリウポリはロシアのウクライナ侵攻で2022年5月以降はロシアの支配下にあり、親ロシア派が「ドネツク人民共和国」を宣言し、これを北朝鮮が承認し、外交関係を結んでいることから北朝鮮兵士のマリウポリへの越境は十分にあり得る話だ。

 前述の消息筋はマリウポリの北朝鮮兵はロシアの部隊とは別行動をとっており、「独自の兵舎や食事、音楽、映画を利用している」とのことだが、駐屯している場所からして戦闘部隊というよりも破壊されたインフラ施設の復旧にあたっている軍後方総局所属の軍人もしくは「治安維持部隊」の可能性も考えられる。

 しかし、ハルキウ州はロシアの攻撃にさらされているもののロシアに占領されてはおらず、厳然としてウクライナの領土である。従って、仮に北朝鮮の軍人が無断でハルキウに侵入したとするならば、明らかに不法越境、領土侵犯である。北朝鮮の概念に基づいてもマリウポリ越境は合法であったとしてもハルキウ越境が事実ならば、明らかに不当、非合法である。

 CNNの報道では北朝鮮の兵士らがいつハルキウに姿を現したのかは明らかにされてなかったが、仮にロシア領のクススク州を狙った20日の「ストームシャドー」で軍高官を含む北朝鮮兵士らに犠牲者が出ていたとするならば、報復、あるいは反撃のためハルキウ州に越境した可能性も考えられなくもない。

 ウクライナの領で交戦中に攻撃されるのとは異なり、自国の軍人が友好国のロシアのクルスク州を訪問、滞在中に攻撃され、負傷者が出たならば、ウクライナへの反撃権を盾に攻撃する可能性が考えられるからだ。それにしても、負傷者が出てまだ僅か2日しか経ってないのにハルキウ州侵入とは早すぎる。

(参考資料:ウクライナの米国製ミサイルによるロシア本土攻撃で北朝鮮軍に被害が出れば、北朝鮮は本格参戦する!?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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