日々高まる朝鮮半島での戦争勃発の危険性 「大丈夫だ!」の神話は崩れるかも
今年は朝鮮戦争(1950年6月25日-1953年7月27日)停戦70周年にあたる。あくまで「一時撃ち方止め」の停戦、休戦であって、戦争終結を意味する終戦ではない。国際法的には朝鮮半島ではまだ戦争が続いているのである。
この70年の間で協定違反を管理していた軍事停戦委員会は「開店休業」に陥り、1991年3月以来、一度も開かれていない。北朝鮮が1991年に停戦委員会の国連軍首席(代表)を米軍から韓国軍将校に交代させたことに反発し、停戦委員会から一方的に撤収してしまったことが原因だ。
北朝鮮は中国人民支援軍代表部も同時に撤収させ、3年後の1994年5月に停戦委員会に代わる窓口として人民軍板門店代表部を設置し、単独で米軍側と接触していたが、今ではその米朝軍事会談も機能麻痺に陥っている。
さらに憂慮すべきは停戦委員会と並んで停戦違反を監視していた中立国監視委員団(韓国側にスイス、スウェーデン、北朝鮮側にチェコとポーランド)が事実上、有名無実化していることだ。
東欧社会主義政権が相次いで崩壊し、チェコとポーランドの両国が西欧化し、西側陣営に与したため中立国のバランスが崩れたとして北朝鮮は1995年5月に中立国監視団の北朝鮮側事務所を一方的に閉鎖してしまった。
南北間でも信頼造成措置として稼働していた南北軍事ホットラインはすでに遮断されており、「南北は地上と海上、空中をはじめとする全ての空間で軍事的緊張と衝突の根源となる相手方に対する一切の敵対行為を全面中止する」ことを謳った2018年9月の南北軍事合意もミサイルの発射や軍事演習の応酬、さらには無人機の侵入などで事実上形骸化してしまっている。
朝鮮半島の軍事的緊張は特に韓国の政権が昨年5月に北朝鮮に融和的な文在寅(ムン・ジェイン)政権から「宥和政策を取る時代はもう終わりだ」と言って憚らない強硬な尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に代わった以降は急速に高まり、米韓対北朝鮮の対立はさらにエスカレートする一方で、まるで戦争前夜を彷彿させている。そのことは双方の脅し合い、威嚇をみれば、一目瞭然だ。
北朝鮮は昨年、過去最多の37回、計70数発のミサイル(このうち弾道ミサイルは59発)を発射したが、今年も1月から3月の間で昨年の同期(12回=19発)とほぼ同じぐらいの回数でミサイルを発射している。
内訳をみると、1月は600mm砲(超大型ロケット弾)1発で終わったが、2月は大陸間弾道ミサイル「火星15」(1発)を含め600mm放射砲(2発)、戦略巡航ミサイル「ファサル」(4発)など計3回、延べ7発に増え、3月は9日に射程300km以下の新型小型弾道ミサイル(6発)、12日に潜水艦から戦略巡航ミサイル(2発)、14日に射程620kmの短距離ミサイル(2発)、16日に大陸間弾道ミサイル「火星17」(1発)、19日に射程800kmの戦術誘導ミサイル(1発)、22日に模擬の戦略巡航ミサイル核弾頭を数発発射し、23日、25日、27日には新型無人水中攻撃兵器(ヘイル)の実験を3度行い、27日には地対地戦術弾道ミサイを発射(2発)していた。
一方の米韓もまた手を緩めることなく朝鮮半島有事に備えた軍事演習を頻繁に行い、北朝鮮のミサイル発射を牽制している。
米韓の特殊部隊が1月29日から2月初旬にかけて日本海や韓国の烏山基地で合同特殊訓練を実施したが、2月初旬の訓練は「チーク・ナイフ」という名称の斬首作戦に基づいた特殊訓練であった。さらに2月1日と4日には戦略爆撃機「B―1B」や「F―22」や「F―35B」など最新鋭のステルス戦闘機を投入しての空中合同訓練が、9日から10日にかけては在韓米軍が軍事境界線近くで多連装ロケット発射訓練を、19日には再度「Bー1B」戦略爆撃機を投入した合同空中訓練が行われた。ステルス戦闘機「Fー35A」など10数機が防空識別圏内を西から東にかけてデモンストレーション飛行を行い、北朝鮮を威嚇してみせた。
米韓合同演習は3月になると、その頻度が増え、3日に「B―1B」が動員されての米韓連合空中訓練、6日に3大爆撃機の一つである核兵器を搭載する「B―52H」が加わった空中訓練が黄海(西海)上空で韓国空軍の「Fー15K」, 「KFー16」戦闘機と合同で10日まで実施された。
クライマックスは13日から23日まで5年ぶりに実施された「フリーダム・シールド(自由の盾)」という名の大規模合同演習で、上陸訓練「双竜訓練」や特殊作戦訓練「チーク・ナイフ」、空母強襲団訓練など20余の訓練が実施された。
大規模の演習が3月23日に終了しても米韓合同演習は続き、19日には「Bー1B」2機が朝鮮半島上空での連合空中訓練に加わり、20日から4月3日にかけては米第7空軍第51戦闘飛行団や米上陸強襲艦「マッキンライルランド号」も動員され、海軍と海兵隊の上陸訓練が実施された。そして、27日には原子力空母「ミニッツ号」(CVN-68)やイージス艦などで編成された米第11空母強襲団が韓国の駆逐艦と済州道で合同訓練を行った。
3月は30日に再度、「B―52H」2機が日本海上空でデモンストレーション飛行し、終わったが、北朝鮮は米韓の一連の演習を北朝鮮に進撃し、平壌を占領するための「攻撃用演習」とみなし、北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」は4月2日に「以前にはあえて口に乗せることさえはばかり、暗々裏に推し進めていた『平壌占領』と『斬首作戦』を公然と言い散らし、それを実戦に移すための訓練に熱を上げているのは我々に対する敵対行為が最悪の状態に至ったことを示している」と警戒感を露わにした。
北朝鮮は先月下旬から全土で青年や労働者による「復讐決議集会」という名の反米集会を開き、示威しているが、報道によると、すでに150万人の青年が人民軍への入隊や原隊復帰を嘆願していた。また、朝鮮戦争での被害状況が展示されている信川博物館前で昨日開かれた労働者らの反米集会では「祖国統一」「決死擁護」などのスローガンが野外の看板に貼られ、「血には血で!」「全民抗戦の準備を徹底しよう!」「反米、対南(韓国)決戦での勝利!」などのシュプレヒコールが叫ばれていた。
こうした一般大衆を動員した反米、反韓世論形成は決して目新しいことでも、また特異な現象でもなく、朝鮮半島で軍事的緊張が高まる度に演じられるある種の慣行、「恒例行事」で、北朝鮮が本気で戦争を始めるという類のものでもない。
但し、米韓合同軍事演習がほぼ一段落した今も反米決起集会が続いているのは今後さらに緊張が高まることを想定しての対応でもあり、精神武装の一環でもある。
北朝鮮は今後、軍事衛星の打ち上げ、固形燃料用の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射、ICBMの太平洋上に向けた発射、多弾頭ミサイルの発射、新型潜水艦による潜水艦弾道ミサイル(SLBM)「北極星4」と「5」の発射、そして7度目の核実験の準備を進めている。軍事衛星は早ければ、近々発射されるものとみられている。
北朝鮮の行動はどれをとっても米韓にとっては容認できない「挑発」であり、韓国の国防部は北朝鮮が万一、核実験に踏み切った場合は「米韓共同の軍事的対応策を検討している」ことを明らかにしていた。
対応策の中身については言及されていなかったが、対抗措置の一つとして米軍の戦略兵器を含む米韓共同の武力示威が挙げられている。それを裏付けるかのように米太平洋空軍は一昨日(5日)、いつでも朝鮮半島に飛来できるよう米本土にあった「B―52H」戦略爆撃機4機をグアムに配備していた。
米韓もまた、6月には歴代最大規模の米韓連合火力撃滅訓練の実施を予定しており、8月にも恒例の夏の米韓合同軍事演習「乙支フリーダム・シールド」を計画している。昨年の演習では北朝鮮との局地戦、全面戦に備えた国家総力戦遂行能力を試すための訓練、即ち現実的に起こりうるシナリオを想定した訓練が実施されていた。
双方の「目には目を」の、「圧倒的な軍事力で相手を屈服させる」手法がエスカレートすれば、歯止めが利かなくなり、どちらかが誤認すれば、軍事衝突に発展する危険性を孕んでいる。このままブレーキを掛けなければ、7月27日の停戦協定日を機に何かが起きるかもしれない。