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カジノ合法化: せめぎ合いの続く国会情勢

木曽崇国際カジノ研究所・所長

さて、まずは同じ事象であっても切り口が違えば異なる報道になるのだなと、改めて思わせる二つのニュースをご紹介。以下はブルームバーグによる報道から。

カジノ法案:5月下旬に衆院委審議入りで調整-議連成立狙う

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N4QD756JTSF401.html

4月28日(ブルームバーグ):超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連、通称:カジノ議連)は、カジノ解禁を含めた特定複合観光施設(IR)を整備するための法案について、5月下旬にも衆院内閣委員会で実質審議入りするよう国会内で働き掛けている。 議連会長の細田博之自民党幹事長代行が28日、ブルームバーグ・ニュースの取材で明らかにした。成立については今国会の会期中を目指しているという。委員会では今国会での成立について「調整が必要」としている。会期は6月22日まで。

ブルームバーグは、ここのところカジノ関連のテーマをずっと追いかけ、積極的に報道をしているメディアのひとつですが、カジノ合法化と統合型リゾートの導入を推進するIR議連の細田会長のコメントを掲載しながら、来月下旬の委員会審議入りを目指している状況を報じています。これは業界関与者の間ではここの所、共有されてきた情報であり、IR議連では5月下旬の審議入りを前提として中旬あたりに総会を開催するなどという企画も挙がっている状況です。

一方、この状況を日経新聞は別の切り口から報じています。以下、日経新聞より転載。

カジノ法案に黄信号 与党・公明、慎重論強く

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2600S_X20C14A4PE8000/

自民党、日本維新の会、生活の党の3党が衆院に共同提出したカジノを中心とした統合型リゾートを推進する法案の今国会成立が見通せなくなってきた。連立与党の公明党に慎重論が強く、政府・与党としては成長戦略関連の政府提出法案の審議を優先している。[...]

IR推進法案の審議が遅々として始まらないのは、カジノ合法化に慎重姿勢をとる公明党に配慮し、政府が成長戦略関連の政府提出法案の審議を優先しているからだという分析ですね。議員提出法案であるIR推進法案よりも、その他の政府提出法案の審議が先行しているのは、これまで積み重ねられてきた国会慣習によるものなので、公明党の慎重姿勢が影響しているとどこまで言えるのかは判りませんが、日経新聞による「カジノ法案に黄色信号が灯っている」という表現はある意味正しいような気もします。

そもそも、IR議連としては今期国会での法案審議を見越して年明けから議連主催の勉強会の開催を月に2、3回ほどのペースで実施することを予定していました。しかし、フタをあけてみると、今期は法案審議を担当する内閣委員会への提出法案数が異常に多く、そのうち大部分が優先審議の行なわれる政府提出法案であることもあって、IR推進法案の審議入りが危ぶまれています。結果、議連主催の勉強会の企画は尻すぼみになり、上でご紹介した5月中旬頃の開催で検討が行なわれている総会に集約されることとなったのが実情です。

勿論、IR議連としてはIR推進法の優先審議を推し進めるべく関係各所に働きかけを行なっているとの事ですが、状況からすれば刻々と迫る会期終了に向って、IR推進法案の審議がジリジリと「押し込まれ」つつあるのは事実で、それを「黄色信号」と表現する日経の報道もそれ程見当はずれとは思いません。

このように内閣委員会での審議入りを巡って押し引きが行なわれている国会情勢の一方で、実はすでに内閣委員会とは別の委員会において、その前哨戦ともいえる論争は始まっています。以下、今週の月曜日に行なわれた決算委員会での一幕。

財務大臣であると共に、金融担当大臣でもある麻生大臣に対して、共産党の大門議員行なった質疑です。麻生大臣は、大臣就任以前からIR議連に対して「最高顧問」という形で参画している事は広く知られていますが、一方で「多重債務問題を取り扱う担当大臣として、議連でカジノ合法化を推進する立場に居るのはマズいのではないか?」というのが大門議員の主張ですね。それに対して麻生大臣は、昨年5月の段階ですでに議連に対して辞意は伝えており、それが反映されていないのは事務処理上の問題であるとした見解を示しています。

カジノ推進派からすれば「アイタタタ…」と言ったところですが、金融担当大臣であるという面から考えても、その点は仕方がないとは思います。(とはいえ、本音をいえば「金融担当大臣の立場からシッカリと対策を求めて行く」くらいの答弁はして欲しかったですが)

ということで、未だせめぎあいの続くカジノ合法化と統合型リゾートの導入ですが、引続き動向に注視してゆきたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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