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グラビアから一瞬の役を存在させる女優として輝く片山萌美。「ばるぼら」では瞬時に男を惑わす謎の女に

水上賢治映画ライター
映画「ばるぼら」に出演した片山萌美 筆者撮影

モデル、グラビアタレントなどを経て、いま女優として飛躍し始めた片山萌美

 「万引き家族」しかり、「銃」しかり、ほぼワンシーンの出番ながら、作品で重要な役割を果たす役を演じることが続いている片山萌美。1発の銃弾で獲物を仕留めるとでも言おうか。いま、彼女は、ともすると記憶に残らなくても不思議ではない一瞬の役を確実に作品に存在させる女優として輝き始めている

 気鋭のヴィジュアリスト、手塚眞監督が、実父である手塚治虫の問題作といわれた大人向け漫画を映画化した「ばるぼら」もまた、彼女の出演シーンはワンポイントだ。ただ、男を惑わすその役は、鮮烈な印象とともに脳裏に焼き付く。

 第44回ミス日本を受賞、モデル、グラビアタレントなどを経ながら、いま女優として飛躍し始めた彼女に話を訊いた。

片山萌美 筆者撮影
片山萌美 筆者撮影

「これが手塚ワールドなのか!」とワクワクしました

 はじめは最新出演映画「ばるぼら」から。出演の経緯をこう語る。

「私は勝手にオーディションだと思い込んでたんですけど(笑)、手塚眞監督と面談することになったんです。

 当日はすごく緊張したんですけど、手塚監督はすごく朗らかで。『ばるぼら』という作品についていろいろとご説明してくださったんです。ですから、面談というよりかは作品の情報共有といいますか。『こういう役を、どう思いますか?』といったように私の意見を聞いてくださったんですね。

 振り返ると、おそらく私の人となりを実際に目で確かめたかったのかなと(笑)。

 後日、ご連絡をいただいて須方まなめ役に決まりました」

 脚本を読んでの印象は、ひと言でいうと『謎だらけ』だった。

「まず、『このストーリーはどうなってしまうんだろう』と思いました。読んでいても謎だらけといいますか。台本を読んだだけではつかめないというか。なかなかイメージしようにもシーンの景色が浮かばない。

 自分の出演するシーンに関しては、比較的明確さがあったのでわかったのですが、ほかのシーンの大半は想像がつかない。どういう世界観をもった映像で描かれるのか、そもそもこんなシーンどうやって成立させるんだろう?みたいな印象で。『これが手塚ワールドなのか!』とワクワクしましたし、どんな映像になるのかすごく興味がわきました」

映画「ばるぼら」より
映画「ばるぼら」より

演じたまなめの詳細は残念ながら明かせません!

 物語は、稲垣吾郎演じる人気小説家の美倉洋介が主人公。最近、スランプ気味の彼はある晩、新宿の片隅で酔いつぶれている謎の少女、ばるぼらを家へ連れ帰る。はじめは自堕落で大酒のみのばるぼらにあきれる美倉だったが、いつからか彼女がミューズのような存在となり、自然と創作意欲がわくようになる。

 その一方で、美倉は異常性欲に悩まされる日々。さまざまな局面で彼は幻想に惑わされ、狂気の世界へ入る一歩手前でばるぼらに助け出される。

 片山演じる須方まなめは、ブティックのショップ店員。美倉の心を一瞬に奪い、惑わすひとりの女性になる。まず、そのシックな佇まいに目を奪われる。

「衣装とメイクからいろいろと考えて決めていきました。手塚監督とイメージを共有しながら。

 実際の役としては美倉先生をひきつけるわけですから、セクシーさが必要で女性としての色気を出さないといけない。ただ、ここは明かせないんですけど、まなめには謎がありまして(笑)。その役柄上、ある種、人間離れした無機質さも必要で、クールにも映らないといけないところがある。

 そういうことを考えながらすべて決めていって、まず髪は黒で髪型はおかっぱ。つけまつげもかなり目立つものにして、クールでかっこよさが必要ということで服装はハイ・ブランドのもので固めました。それから無機質さを強調するために、私、けっこうほくろがあるんですけど、それはファンデーションを塗って、毛穴ともどもすべて消しているんですよ。ほんとうにメイクさん大変だったと思います(笑)。そうやってまずは外見をきっちり固めました。

 次に演じる上で意識したのは、セクシーになりすぎないといいますか。さきほどの無機質でクールなイメージを考えると、あまりいやらしくならないほうがいいのではないかと。

 女性からみて嫌味にならない色気がいいなと思ったんです。で、これ自慢でもなんでもないんですけど、私、もともといろいろな監督さんから『色気がある』と言われることが多くて。自分ではわからないけど、よくそう言われるので、今回のまなめは自分で色っぽくと意識しないことを意識したらちょうどよくなるんじゃないかなと思って臨んだところがあります。

 あと、歩き方もこだわりました。こちらはセクシーというよりも、きれいにみせたい気持ちがあったんですね。それで高いヒールをはいて、直線的な歩き方を意識しました。

 衣装も歩き方もメイクも、演じ方もすべてがまなめの『謎』に起因しているんですけど、その理由を語るとネタバレになっちゃうので明かせないのが残念(笑)。その答えは、劇場で確認していただければと思います」

映画「ばるぼら」より
映画「ばるぼら」より

四つん這いで迫る場面では、膝を擦りむいて翌日大変なことに

 まなめは美倉を魅了し、試着室などがあるショップの裏側へと誘う。ところが、まなめが美倉に迫ったところで、ばるぼらが乱入。ここは壮絶な乱闘シーンになっているが大変だったと裏側を明かす。

「ばるぼらに殴られて、首を上げるシーンがありますけど、変な動きに見えると思うのですが、これもまなめの謎に起因していて。手塚監督の指示でああいう動きになっているんです。で、あの動き、実際に自分でやっているんですよ。ちょっと人間業に見えないかもしれないんですけど(笑)。私、もともと体が硬くて、あのシーンは苦労して練習を重ねました。体って柔らかいに越したことはないなと思いましたね(苦笑)。

 あと、美倉先生に四つん這いで迫る場面がありますけど、あそこはなんか自分で『ズリズリと行きたい』と思って、いったら膝を擦りむいちゃって(笑)

 でも、役に没頭していたからか当日はまったく痛くない。むしろ、さきほど無機質にみえるよう毛穴までみえなくなるようファンデーションをといいましたけど、実は足も同じように塗ってくださっていたので、メイクさんに申し訳ない気持ちでいっぱいだったんですよ。

 でも、翌日になったら膝が痛い、痛い(苦笑)。こんなに膝を擦りむいて痛かったのは小学生以来だわと思いました(笑)

 でも、振り返ると、痛みを忘れるぐらい真剣に取り組めた現場だったんだなと思って、いまはいい思い出になっています」

片山萌美 筆者撮影
片山萌美 筆者撮影

虚実が入り乱れる世界への案内人の役割を果たせたかなと

 このまなめの登場する一連のシーンは、「ばるぼら」の狂気の世界へ誘う第一歩のシーンになっているといっていいかもしれない。

「美倉先生が精神が錯乱していくというか。少し常軌を逸しはじめる最初の入り口のシーンなのかなと思います。ここから虚実が入り乱れた世界へと物語も展開していく。私としては、まなめとして案内人の役割を果たせたかなと思っています

 まなめの一連のシーンに関しては、おそらく普通に撮ったら、ものすごい狂気のシーンでエグすぎてみれないということも起きると思うんですよ。それぐらい冷静に見ると、恐ろしいことが展開されている。

 でも、手塚監督の手にかかると、構図や画の美しさにまず目がいって、その映像のもつ艶めかしさに魅了されてしまって、その後に遅れて恐怖がくるところがある。だから、不思議とおぞましいシーンであってもみれてしまう。

 見た瞬間は、その美しさに目を奪われる。でも、よくよく考えると、ゾッとする。そんな感覚があるんですよね。艶めかしいのに美しい。なんか普通なら手で目を覆いたくなるようなシーンもそう思わせない。美しさと妖艶さというか。美しすぎてちょっと不気味に感じさせるようなところがある。これがもしかしたら手塚監督が表現しようとした『ばるぼら』の手塚ワールドなのかなとも思いました」

ばるぼらは、自分の中にある迷いかもしれない

 破滅へのカウントダウンなのか、それとも幸福へのカウントダウンなのか。作品は、理屈をこえてつながってしまった美倉とばるぼらのたどりつく運命を描く。

 ある日突然現れたかと思うと、次の瞬間には消え去る。突き放されたかと思うと、猫のように甘えてくる。神出鬼没でとらえようにもとらえられない「ばるぼら」。彼女は実在するのか、それとも幻なのか。

 片山の目にはばるぼらの存在はどう映ったのだろう。

「まず、演じたまなめとして見ると、脅威というか。もう恐怖の対象でしかない。めちゃくちゃ叩かれますから(笑)。

 私個人としては、ひと言では言い表すことができない。

 ただ、ひとつ思ったのは、人間の『迷い=惑い』の象徴なのかなと。そのことを体現している存在なのではないかと思いました。

 人って常に迷いとともにいるというか。迷いが生じて弱気になったとき、自分を力づけてくれるものがほしくなることもあれば、物事がすべてうまくいっていても、どこかに落とし穴があるんじゃないかと不安になる

 ふだんは表に出すことはないけれども、誰もが心に抱えている迷いや戸惑いこそがばるぼらではないかと。ある意味、そのときの自分の心境を表している存在。だから、嫌でも手放すことができない。

 私はそんなことを考えましたけど、たぶん様々な意見がある。みんなのばるぼらの存在をきいてみたいですね」

映画「ばるぼら」より 二階堂ふみ演じるばるぼら
映画「ばるぼら」より 二階堂ふみ演じるばるぼら

 また、今回の手塚組の現場は貴重な体験になったという。

「手塚監督は、あるシーンがあったら、それがもう計算し尽くされた1枚の画に出来上がっている。そんな印象を受けました。

 演出の指示がこまやかで的確なんです。たとえば、ここはこの高さに手を置いて、2歩歩いて何秒後にこう動いてくださいといった指示の仕方なんです。

 『こういう画を撮りたい』というのがあって、そこにいきつくためのすべての計算が手塚監督の中でできている。だから、指示が明確なんです。

 これまで、何回目になにをして、そこは何秒の間をあけてというような、いわば数字での指示はあまり受けたことがなかったので、新鮮で貴重な経験になりました。

 あと、現場がワールドワイドというか、ボーダレスといいますか。多国籍で。撮影監督のクリストファー・ドイルさんのほかスタッフもいろいろな国の方がいて。現場で、英語と日本語とイタリア語と韓国語みたいな感じでいろいろな国の言葉が飛び交っていたんです。これもまたなかなかできない経験で楽しかったです」

最近、5年前のコメント動画の再生回数がなぜか急上昇。2000万回に届こうかという事態に!

 なかなかできない体験といえば、最近、片山には不思議な現象が。2015年に週刊プレイボーイで撮影された片山のコメント動画の再生回数が、「ばるぼら」公開を前にした9月下旬ごろから急上昇。現在、2000万回に届こうかという勢いで、秘かに話題を呼んでいる。

「とても驚いています。見てくださった皆様ありがとうございます。外国の方のコメントも多く嬉しく思います。ばるぼら効果かしら?と、密かに思っております(笑)」

是枝裕和監督からいわれたある言葉を胸に

 先述した通り、物語全編に登場するわけではないが、鍵を握る役への出演が続く片山。しかも、今回の手塚眞しかり、是枝裕和、武正晴ら錚々たる監督たちが彼女に白羽の矢を立てている。ワンポイントの出演というのは、実はこちらが想像する以上に難しい。明確な結果が求められる役でもある。本人は、この現状をどう受け止めているのだろうか?

「なんでかは全然わからないですね(笑)。でも、是枝監督からあるパーティーの時に『片山さんの良さを分かってくれる監督はたくさんいるから頑張ってね』と言われたんです。その場では『ありがとうございます』で終わっちゃったんですけど、今考えると、私の良さってどこにあるのかきちんと聞いておけばよかった」

片山萌美 筆者撮影
片山萌美 筆者撮影

ずっといい人間ではなくて、嫌な人間をやりたい気持ちはあった

 「銃」「万引き家族」など、ひどい母親役を多く演じていることも興味深い。

「いわば負のオーラをまとった母親が続いたのは、『万引き家族』で娘役の子役の女の子を本気で怖がらせて、2時間以上泣かせちゃったからかなと思ったりするんですけどね。ほんとうにそこまで怖がらせるつもりはなくて、今は彼女に申し訳なかったなと思っています。

 ただ、ずっといい人間ではなくて、嫌な人間をやりたい気持ちはあったんです。道を外れていたり、意地悪な役を。戦隊ものだったら、正義のヒーローじゃなくて、ヒール役をやりたい気持ちがあった。

 普段、映画もハッピーエンドよりバッド・エンドというか。不幸な形で終わるような映画が好きなんです。そういう負の感情を演技に取り込みたい気持ちもあって。そのあたりの私の意識を察した監督さんがいてくれたのかなと思います。

 あと、私は幸か不幸かどっちが似合うんだろうと考えると、たぶん不幸だと思うんですね。ただ、ぱっと見、私は気が強く見えるところがある。だから、不幸な女性を演じても、かわいそうになりすぎないというか。変な同情も集めなければ、血も涙もないようにもみえない。そういうところもあるのかなと。でも、実際は自分ではわからないです。

 ただ、やはり幼児虐待であったり、育児放棄であったりといった母親役が続いたとき、考えたんです。『母親とは』と。

 で、自分としてはそうした母親であっても、そこに至った理由があって、そこを含めてすべて演じてはいるんですね。単純に育児放棄するのではなく、そうせざるをえない状況やきっかけがあったことを想定してそれを盛り込んで演じている。そのあたりが伝わって母親の役が続いた、となっていてくれたらと願ってはいます」

主役の親友とかに肩入れするタイプです

 このバイプレイヤー的な立ち位置はうれしいと明かす。

「昔から脇役さんが大好きで。映画やドラマを見ていても主役より脇役さんに目がいくんです。主役の親友とかに肩入れするタイプ(笑)。

 ですから、脇役で気になる存在になれているなら、うれしいです」

いまこの場所に立てて演じられる。このことに感謝しよう

 もちろん脇役だけではない。ドラマ「居酒屋ぼったくり」など主演でも確かな力量を発揮している。今後が気になるが、本人はこう語る。

「今回のコロナ禍では、撮影が延期になって1カ月以上、仕事がなかった時期がありました。そのときは暗澹たる気持ちだったんですけど、徐々に撮影が再開となったときに、自分自身でひとつ吹っ切ろうと思ったというか。気持ちをまっさらにして素直に撮影を楽しみたいと思ったんです。

 いまこの場所に立てて演じられる。このことに感謝しようって。

 もちろん撮影を楽しめるようになるためには、めちゃくちゃ努力が必要で。下準備も完璧にしなければならないし、臨機応変に対応できる状態に自分をもっていかないといけない。それをやった上で、とにかく現場を楽しむ。役の大きさとか関係なく、そのことを大切にしてやっていきたいと今は思っています

映画「ばるぼら」より
映画「ばるぼら」より

「ばるぼら」

監督・編集:手塚眞

原作:手塚治虫

脚本:黒沢久子

出演:稲垣吾郎 二階堂ふみ

渋川清彦 石橋静河 美波 大谷亮介 片山萌美 ISSAY / 渡辺えり

シネマート新宿、ユーロスペースほか全国順次公開中。

場面写真はすべて(C) 2019『ばるぼら』製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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