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パナソニック防御の強さとは。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ひと言でいえば、ディフェンスの勝利である。トップリーグの全勝対決。パナソニックが、王者サントリーのアタックを封じ、得意の『カウンターラグビー』で完勝した。

「今日はサイコーです」。試合直後、中嶋則史監督がグラウンドで声を張り上げた。「選手が我慢強く、ディフェンスしてくれました。この1週間、いい準備をし、1人ひとりが自分の役割を果たしてくれました」

サントリーの攻撃の軸は、背番号9番のSHフーリー・デュプレアと6番フランカーのジョージ・スミス、12番CTBのニコラス・ライアンの3人である。とくにデュプレア絡みのシェープ(連動した攻撃のカタチ)で相手守備網を崩していく。

そこで、パナソニックはまず、「相手9番の動きを止め切り、いかにアドバンテージラインを前に出させないか」に焦点を絞った。いい準備と意思統一ができていたからだろう、これがうまくいった。このタイトなところでゲインラインを切らせず、次のフェーズを有利に展開させなかった。

ブレイクダウンでは、「見極め」がうまくいった。タックルポイントに人数をかけるかどうか、である。ゲインされたポイントには人数をかけず(すなわち、捨てて)、前に出たタックルポイントにはバタバタっと殺到し、ファイトする。ターンオーバーを狙う。

ターンオーバーすると、豪州代表51キャップのSOベリック・バーンズが判断よく、一気に外に展開した。ほんと、バーンズは視野が広い、さばきがうまい。後半29分も、自陣のターンオーバーから逆襲し、抜いて、つないで、最後は途中交代の三宅敬がトライした。ここまでは相手にトライも許さず、35-3との大幅リードであった。

ついでにいえば、「ゲートを閉めて」、オフロードパスを出させなかった。ひとり目が低いタックル。すかさず二人目がしっかり相手を倒したのだ。これはディフェンスのカタチもあろうが、やはり個々のフィジカルと意識、ハングリーさの成せる業だった。

試合後、サントリーの大久保直弥監督にこう、嘆かせた。「イチバン言いたくないことですが、パナソニックさんの方が勝ちに飢えていましたし、ボールにも飢えていましたし、トライにも飢えていました」と。

パナソニックは全員がいい動きを見せた。攻撃では、とくにSH田中史朗、SOバーンズ、WTBの山田章仁、北川智規…。ディフェンスでは、フランカーのバツベイ・シオネ、西原忠佑、NO8ホラニ龍コリニアシ、CTB霜村誠一…。

個人的にイチバン、驚いたのは、新人プロップの稲垣啓太(関東学院大)のタックルである。右耳が二重三重につぶれている23歳。サントリーのニコラスが縦に切ってきた時、踏み込みよく、真正面に右肩から入って、ガツンとかち上げた。

試合後、「ナイスタックル!」と声をかければ、稲垣は「はい。ありがとうございます」とわらった。「ライアン(ニコラス)へのタックル、肩に感触がまだ残っています。痛かったですけど」と肩をおさえた。

「僕は、ディフェンスの方が好きなんです。狙い目と思ってか、みんな、僕の方に突っ込んできてくれるんですよ。ふふふふふ。意識しているのは、足の踏み込みと、アウトショルダーというか、肩の位置です」

タックルは気持ちだけではない。フィジカル、テクニックも必要なのだ。聞けば、稲垣は、毎週毎週、コーチにつきっきりでタックルスキルの指導を受けているそうだ。

プロップのタックルがいいチームは、アナがなくなる。稲垣が顔を引き締めた。

「今日のようなイメージを持って、次にどんどん、つなげていきたい。トップリーグ、そんな甘くないですから」

3季ぶりの覇権奪回へ、パナソニックの『カウンターラグビー』が凄味を増してきた。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2024年パリ大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。酒と平和をこよなく愛する人道主義者。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『まっちゃん部長ワクワク日記』(論創社)ほか『荒ぶるタックルマンの青春ノート』『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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