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「地震保険」、政府がサポートしている「半公的保険」なのに入っておかないとソン

浅田里花ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)
「地震保険」で受け取った保険金は、再出発を応援する資金となります。(提供:アフロ)

◆自己責任でのカバーが不可欠となる「モノ」の損害

 18日朝、大阪北部を中心に最大震度6弱の地震が発生しました。関西は私の故郷でもあり、数日経過する今もなかなか平常心には戻れません。

 被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。

 天災は忘れた頃にやってくるといいますが、阪神・淡路大震災から23年、東日本大震災から7年、熊本地震から2年です。それ以外にも震度5以上を観測する地震が各地で頻発する昨今、もはや地震は日常的に起こりうるもので、誰もが被災する可能性があるものと心得ておいたほうがよさそうです。

 では、地震に備えて私たちができることはあるのでしょうか。水や保存食を常備する、非常時に持ち出すものをまとめておく、大型の家具や電化製品が倒れないよう固定する、割れ物はなるべく低いところに置くなど、すでに言われていることや今回の地震を受けて発信される役立ち情報のなかで、やれることはやっておくべきでしょう。

 経済面での備えについては、「地震保険」の役割を知っておきたいと思います。

 死亡や病気・ケガなど、「ヒト」の身体を対象にした保険加入を検討する際は、まず公的な制度(遺族年金や健康保険など)でどれくらいカバーできるかを確認することが欠かせません。ところが、家や家財などの「モノ」の場合、地震などの大規模自然災害に見舞われたとしても、公的な制度ではそれほど大きくカバーできません。財産は自己責任で守るのが原則とされているからです。

 それゆえ、財産を守る保険のひとつ、「地震保険」について知っておくことが役立ちます。

◆「火災保険」にセットして加入するきまり

 「地震保険」は損害保険会社が取り扱っており、建物や家財の損害をカバーする「火災保険」とのセットで加入するきまりになっています。単独では入れませんが、すでに加入している「火災保険」に後で付けることはできます。ただし、もし地震の警戒宣言が発せられた場合、その地域は契約できなくなる可能性があります。

 「火災保険」の守備範囲は広く、火事による被害のみならず、落雷や爆発による被害、台風や竜巻などの風災、雹(ひょう)による被害、大雪による被害、昨今増えている豪雨による水災など、様々な災害による経済的損失をカバーしてくれます。

 ただし、地震・噴火・これらによる津波を原因とする災害については補償の対象外。地震が原因で火事になった場合には保険金がもらえません。

 そこで、地震・噴火・津波による被害をカバーするためには、「地震保険」のセットが不可欠というわけです。

 加入できる保険金額は、火災保険金額の30%~50%まで(建物5000万円、家財1000万円が上限)。たとえば、建物の火災保険金額を2000万円で契約している場合、600万円~1000万円の地震保険金額がセットできます。

 火災などで被害を被ったら、「火災保険」から受け取れる保険金額は、契約保険金額を上限に、実際の損害額をもとに計算された額となります。

 一方の「地震保険」は、損害の程度について4段階(全損・大半損・小半損・一部損)の認定を行い、それぞれ地震保険金額の100%・60%・30%・5%が支払われます。認定に時間をかけず、迅速かつ公平に保険金を支払うためです。

◆「地震保険」は政府が再保険している「半公的保険」

 「火災保険」の商品性は、損害保険会社によって独自色を持たせることができますが、「地震保険」はどこで入っても全く同じ内容。

 というのも、「地震保険」は政府も関与する「半公的保険」ともいえる保険だからです。大地震が起こる確率も、実際に起こったらいくらの保険金支払いになるのかも、予測ができません。そのリスクを民間保険会社だけで負うのは厳しすぎるため、政府が毎年度「地震再保険特別会計」という予算を組んで関与しています。

 「地震再保険特別会計」は、地震保険制度を実施するにあたって経理状況を明確にするために設置された特別会計。民間保険会社の負った地震保険責任を政府が再保険する、つまり保険の保険として政府が責任を負うことが目的です。すでに積み立てられた地震保険料だけでは足りない巨大地震発生の際には、政府が保険金支払いを負担し、後で時間をかけて再保険料を回収していく仕組みになっています。

 1回の地震等の被害に支払われる保険金の総額には、あらかじめ限度額が定められているのですが、その金額は現在11兆3000億円。これは、関東大震災規模の地震が発生した場合にも、保険金が支障なく支払われる金額とされています。

 11兆3000億円のうち、政府の負担は大半の11兆1268億円で、残りが民間保険会社の負担となっています。

 「地震保険」がどこの損害保険会社で入っても同じなのは、このように営利目的の保険ではなく公共性がある保険であるため。保険会社にとっては利益を生まない保険と言え、「火災保険」とセットで契約する仕組みになっているのも儲かるからではなく、効率性を重視してのことです。

 ところが、「地震保険」の「火災保険」への付帯率は、2002年度の33.3%から2016年度には62.1%にまで上がってはいますが、まだ4割の火災保険契約者が付帯していません(いずれも全国平均、損害保険料率算出機構の調査データより)。

 

◆2019年1月に保険料改定が予定されている

 付帯しない理由として、これまで述べた a.半公的保険ともいえる「地震保険」の特性を理解していない、b.「地震保険」だけで元通りの建物を再建することはできないため入っても仕方がないと考えている、c.保険料が高いと感じる、などが挙げられるでしょう。

 確かに、火災保険金額の最大50%でしか地震保険金額をセットできませんから、建物再建の資金は不足します。でも、住まいや家財道具を失ってこれから生活再建を考えなければならない時、まとまった資金が手元にあるのは心強いものです。建物再建資金としてではなく、再出発を応援する資金と位置づけるべきだと思います。

 なお、地震保険の補償に上乗せする特約を取り扱う損害保険会社もあります。建物再建を重視するご家庭では検討の余地があるでしょう。

 c.の保険料については、地域と建物構造により異なり、東京・千葉・神奈川・静岡の木造家屋が一番高くて、保険金額1000万円当たりの保険料は年間3万6300円です。火災保険料と合わせると負担感はあるかもしれませんが、保険は加入者同士の助け合いの仕組みです。助けられるかもしれないのですから、助け合いの参加料と割り切ってはどうでしょうか。

 なお、免震建築物割引、耐震等級割引など4つの割引制度があり(重複適用はできない)、該当すれば地震保険料が10%~50%安くなります。

 地震保険料は2019年1月に改定が予定されています。北海道、青森、新潟、岐阜、京都、兵庫、奈良、愛媛、大阪、愛知、三重、和歌山は安くなりますが、その他の地域はアップするので、まだ加入していないならアップ前に検討しましょう。

(当初「地震保険、税金も投入されているのに入っておかないとソン」のタイトルでアップしていましたが、「地震再保険特別会計」には税金は使われず、再保険料収入が歳入になっているので、訂正しお詫び申し上げます)。

ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)

㈱生活設計塾クルー取締役、個人事務所リアサイト代表、東洋大学社会学部 非常勤講師。同志社大学文学部卒業後、大手証券会社、独立系FP会社を経て現職。一人ひとり・家庭ごとに合った資産設計、保障設計、リタイア前後の生活設計等のコンサルティングのほか、新聞・雑誌等への原稿執筆、セミナー講師などを行う。著書に『50代からの「確実な」お金の貯め方、増やし方教えて下さい』、『住宅・教育・老後のお金に強くなる!』、『お金はこうして殖やしなさい』(共著)など。生活を守り続けるにはマネーリテラシーを磨くことが大切。その手伝いとなる情報を発信していきたい。

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