知らないと損する「年金制度改正」 4月から変更される注目ポイントは
◆長くなる老後の年金収入を増やすための改正
今回の年金制度改正の目的を厚生労働省は、「多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり、多様な形で働くようになることが見込まれる社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため」としています。
つまり、人生100年とも言われる長い老後を暮らしていく私たちが、年金収入を増やす働き方ができるようにするための改正と言えるでしょう。
なかでも、パートタイマーとして夫の扶養の範囲で働く女性や、60歳以降の働く高齢者への影響が大きい改正内容です。
もちろん現役世代の男性やフルタイムで働く女性も、いずれは高齢期を迎えます。老後のプランを立てるにあたって、今のうちに知っておいたほうがいい改正点もあるので、要注目です。
主な改正内容は次の4項目。順を追って解説していきましょう。
1.被用者保険(厚生年金保険、健康保険)の適用範囲の拡大
2.在職中の年金受給の在り方の見直し(在職老齢年金制度の見直し、在職定時改定の導入)
3.受給開始時期の選択肢の拡大
4.確定拠出年金の加入可能要件の見直し等
◆被用者保険の適用範囲の拡大とは?
現在パート・アルバイトで働く短時間労働者や、定年後は短時間勤務にしようと考えている人に影響するのが、「被用者保険の適用拡大」です。
パートで働いている人は、扶養の範囲となるよう、「年収の壁」を意識している人が多いでしょう。所得税がかからない「103万円の壁」、社会保険料(厚生年金保険料・健康保険料)がかからない「130万円の壁」などです。年収が130万円未満だと、配偶者(一般的に夫)の加入している年金制度が厚生年金の場合、第3号被保険者として配偶者の年金制度に加入できます。本人が保険料の負担をしなくても、将来は基礎年金が受け取れるわけです。
この「130万円の壁」ですが、2016年10月に行われた改正により、短時間労働者を除く従業員が常時500人を超える「特定適用事業所」で働く人にとっては、「106万円の壁」となっています。週あたりの労働時間が20時間以上、賃金が月額8万8000円(年収換算で約106万円)以上、勤務期間が継続して1年以上使用される見込みの人は、社会保険料負担が生じているのです。すでに該当している人もおられるでしょう。
今回の改正では、さらに該当者が増える見通しです。今年10月からは、特定適用事業所の従業員数の要件が「常時100人を超える」に、短時間労働者の勤務時間の要件が「継続して2か月を超えて使用される見込み」となります。「2か月超」というのは、フルタイムの従業員と同じ要件。被用者保険への加入対象者が大きく増えるのがわかるでしょう。
さらに2024年10月には、特定適用事業所の従業員数の要件が「常時50人を超える」と改正されることが決まっています。
◆社会保険料負担も、長い目で見ればメリットあり
この段階的な適用拡大により、多くの短時間労働者にとって社会保険料の壁が「106万円」になると思われます。社会保険料を負担することになれば、その分手取り収入が減りますから、「イヤだ!」と感じる人も少なくないでしょう。どうしても社会保険料負担を避けたければ、2か所以上の事業所を掛け持ちして働き、1か所での週の労働時間を20時間未満に抑えることです。
けれども、手取りが減るという目先のデメリットより、被用者保険に加入するほうが長い目で見るとメリットが大きいと考えます。
まず、厚生年金の被保険者になれば、将来は老齢基礎年金に加え、上乗せの老齢厚生年金がもらえ、公的年金の受け取り額を増やせます。年金がどれくらい増えるかですが、厚生労働省の試算によると、年収106万円の人が20年間厚生年金に加入した場合の厚生年金保険料は月額8,100円、基礎年金に上乗せされる年金額の目安は年額10万8300円となっています。
生きている限り、つまり終身で受け取れる公的年金は、長い老後の家計を支えるのに不可欠。保険料の半分を事業主が負担してくれるのもメリットです。
公的年金の役割は「老齢年金」だけでなく、病気・ケガで障害状態になった場合をカバーする「障害年金」、死亡した場合に遺族の生活をカバーする「遺族年金」の役割もあります。これらについても、障害・遺族基礎年金に加えて、障害・遺族厚生年金が支給されることになります。
また、勤め先の健康保険の被保険者になれば、ケガや病気で仕事に就けない場合をカバーする「傷病手当金」や、出産で休む場合の「出産手当金」が受け取れるようになります。
これらの社会保障が充実することは、安心して暮らすための下支えとなります。
この先も働き続けたい人は、「年収の壁」を意識して働く時間を調整するのはもうやめ、状況が許す限り働く時間を延ばして収入アップを図り、将来の年金額を増やすプランを立ててもいいと思います。それを後押しする改正ではないでしょうか。
◆在職中の年金受給の在り方の見直しとは?
働き盛りの人には今すぐ関係しませんが、60歳代の働く人にとってメリットのある改正です。
老齢厚生年金をもらいながら働く60歳以上の人は、賃金と年金の合計額が一定以上になると、全部または一部の年金が支給停止となります。この仕組みを「在職老齢年金」といいます。
生年月日により60歳から64歳の人に支給されている「特別支給の老齢厚生年金」について(対象者が受け取れる期間は男性2025年度まで、女性は2030年度まで)、支給停止となる調整額が、改正により現行の月額28万円から47万円(2022年度価格、毎年の年金額改定により決まる)に引き上げられ、65歳以上と同じになります。該当する人は当面、年金の支給停止を気にせず労働時間を増やすことができます。
新設される「在職定時改定」は、いずれ高齢期を迎える人にとってもメリットある制度です。
公的年金をもらいながら働く65歳以上の人は、続けて厚生年金保険料を納めていますが、現行制度では退職などで厚生年金の被保険者でなくなるまで、納めた保険料が年金額に反映されませんでした。
4月から導入される「在職定時改定」により、これからは毎年10月に年金額の改定が行われ、その間に納めた保険料を反映させた年金がもらえるようになります。
毎年年金額が増えることから、高齢になっても長く働くモチベーションになると考えられます。
◆受給開始時期の選択肢の拡大とは?
現役世代にも今後おおいに関係する改正で、公的年金を「繰下げ受給」できる年齢が75歳まで拡大されます。
公的年金の受取開始年齢は、原則として65歳からですが、それより早く受け取りたい人は「繰上げ受給」を60歳から、遅く受け取りたい人は「繰下げ受給」を現行は70歳まで、1か月単位で選択できます。この4月からは、繰下げできる年齢が75歳までになるわけです(今年の4月1日以降に70歳に到達する人が対象)。
年金を早く受け取りたいのはやまやまでしょうが、「繰上げ受給」すると65歳からの受取年金額より1か月あたり0.4%減額され、60歳から受け取った場合は24%も減ってしまいます。
逆に「繰下げ受給」すると、1か月あたり0.7%増額し、75歳から受け取れば84%も増えます。
65歳以降もしばらくは年金に頼らず暮らしていける収入や資産があれば、「繰下げ受給」で先々の老後のために年金額を増やすといった選択もできるわけです。
何歳からもらい始めるのが自分にとってベストのプランになりそうか、働き方と合わせてこれからゆっくり検討するといいでしょう。
◆確定拠出年金の加入可能要件の見直しとは?
確定拠出年金には、企業年金制度として事業主が掛金を拠出する企業型と、加入者自身が加入先を選んで掛金を拠出する個人型(iDeCo=イデコ)があります。
この度の改正は、老後資金を準備したい現役世代にとって、おおいに関係する内容となっています。
まず、4月からは、年金の受取開始時期の選択肢が拡大され、現行の60歳から70歳までの間で受取開始となっているのが、60歳から75歳までの間となります。改正前より最長5年、運用期間を長く取ることができるのは、加入者にとって朗報です。
現行の確定拠出年金に加入できる人は、企業型は65歳未満の厚生年金被保険者(60歳以降も厚生年金保険料を支払っている会社員など)、iDeCoは60歳未満の国民年金被保険者(国民年金保険料を支払っている自営業者などや、厚生年金保険料を支払っている会社員など)。
今年5月から加入できる年齢が、企業型は70歳未満、iDeCoは65歳未満に引き上げられます。
現在50歳代後半の人などは「今さらiDeCoに入っても積立できる期間があまりない」などと諦めていたかもしれませんが、加入可能年齢が5年延びたことで、60歳代前半も働きながら積み立てることができます。完全にリタイアする時期はまだまだ先なのですから、遠い先の老後資金作りの手段として活用するといいでしょう。
また、今年10月から、企業型に加入している人も全員、拠出限度額の範囲内であれば、労使の合意なく自分の希望でiDeCoに加入できるようになります。この改正により、公的年金加入者でiDeCoに入れない人はなくなるわけです。
年金制度はたびたび改正されます。将来どれだけもらえるのか不安な方も多いと思いますが、いざ受給対象の年齢になって「こんなはずではなかった」「知らなかった」と後悔することのないよう、年金の情報はまめにチェックしていただきたいと思います。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】