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中井貴一と佐々木蔵之介が初共演。男のプライドを賭けた勝負だから面白い『嘘八百』。

杉谷伸子映画ライター
お宝コメディで中井貴一と佐々木蔵之介が初共演。(c)2018「嘘八百」製作委員会

中井貴一と佐々木蔵之介。メインビジュアルの彼らの2ショットが新鮮で思わず惹きつけられてしまう『嘘八百』。それもそのはず。この2人、今回が本格初共演。

「開運!お宝コメディ」と銘打たれた本作は、利休を生んだ茶の湯の聖地、大阪・堺を舞台にした大人による大人のためのコメディ。うだつのあがらない古物商・小池則夫(中井貴一)と落ちぶれた陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)が手を組んで、「幻の利休の茶器」を武器に、人生大逆転の大勝負に打ってでます。

軽妙にして洒脱なベテラン揃いの空気感も魅力。(c)2018「嘘八百」製作委員会
軽妙にして洒脱なベテラン揃いの空気感も魅力。(c)2018「嘘八百」製作委員会

これが期待に違わず面白いのですが、その面白さはお宝をめぐる目利きたちの駆け引きにだけあるのではありません。なぜなら、二人が仕掛けた大勝負は、たんにお金目当てではないから。

則夫は大物狙いの空振りばかりで、一方の佐輔は腕が立つのにくすぶっている。いわば負け組の二人。もちろんお金は必要です。成功すれば大金も手に入ります。けれども、彼らが「幻の利休の茶器」で仕掛ける大一番は、ターゲットである古美術商・樋渡(芦屋小雁)と大御所鑑定士・棚橋(近藤正臣)へのプライドをかけた闘いにほかなりません。だからこそ、この大勝負が面白い。

中井と佐々木も、がっぷり四つの芝居で楽しませる。(c)2018「嘘八百」製作委員会
中井と佐々木も、がっぷり四つの芝居で楽しませる。(c)2018「嘘八百」製作委員会

運命の糸に導かれるようにして出会った古物商と陶芸家が、大勝負を仕掛けるべく、着々と計画を進めていく過程にはワクワクしっぱなし。なかでも、則夫に腕を見込まれた佐輔が、久々に本気で陶芸に取り組むことにより、失っていた陶芸への情熱を取り戻していく姿は格別。その創作過程に重なるジャズドラムがまた、スタイリッシュな緊張感をもたらします。

佐輔の仲間たち。キャラも演者も個性派揃い。(c)2018「嘘八百」製作委員会
佐輔の仲間たち。キャラも演者も個性派揃い。(c)2018「嘘八百」製作委員会

とはいえ、計画にアクシデントはつきもの。そのお約束な展開も、佐輔の仲間たちに坂田利夫や木下ほうか、大勝負の相手に芦屋小雁と近藤正臣、さらには佐輔の妻・康子には友近といった具合に、ずらりと揃った関西のお笑い芸人や関西出身の俳優陣が、独特な味わいで楽しませる。

チーム佐輔の飄々とした空気感といい、ベテランたちの古狸ぶりといい、若さと勢いでたたみかけるのではない、人を食ったようなペースに絡め取られていく面白さは、この顔ぶれでなければ出なかったに違いありません。そう、芸達者たちの醸し出す空気感を楽しむこともまた、本作の大きな魅力。出演者の平均年齢が高いからというわけではなく、その味わいが、まさに大人のコメディなのです。不遇をかこつ夫との距離感が絶妙な康子を演じる友近は、大人の女の艶も深みも感じさせて、将来、賞レースの常連になるのではないかと予感させるほど。

則夫の娘・いまり役の森川葵。女優陣も光る。(c)2018「嘘八百」製作委員会
則夫の娘・いまり役の森川葵。女優陣も光る。(c)2018「嘘八百」製作委員会

しかも、洋の東西を問わず、小説からコミック、さらにはゲームまで、原作もののヒットが目立つなかにあって、この脚本は完全オリジナル。堺を舞台に利休の器をめぐるコメディを生みだした着眼点がお見事なら、陶芸家の復活を賭けた道のりに興奮させてくれる佐々木蔵之介も、幻の利休の器についての語りに聴き惚れさせる中井貴一もまたお見事。そして、そんな骨董コンビの大仕事が 笑いの中に「“本物”とは何か?」を浮かびあがらせて、グッとくる。笑う門には福が来るだけでなく、年の初めに見せてもらった、“いい仕事”と、人生を仕切り直す男たちの心意気が、2018年のスタートをポジティブなものにしてくれます。

『嘘八百』

2018年1月5日(金)より全国公開

配給:ギャガ

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『SCREEN』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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