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『ジョーカー2』のアーサー・フレックも例外じゃない。性的同意の確認はハリウッド映画の最重要事項。

杉谷伸子映画ライター

銃撃事件や強盗といった凶悪犯罪が起きると、特定の映画が犯罪を誘発したと指摘されることはままある。だが、映画には、娯楽を通して時代や社会の意識の変化を映し出し、社会にさらなるポジティブな変化をもたらす力があるのも事実だ。

孤独だが心優しい男アーサー・フレックが、“悪のカリスマ”ジョーカーへと変貌していく姿に社会の歪みを映し出し、べネツィア国際映画祭金獅子賞に輝いた『ジョーカー』から5年。トッド・フィリップス監督とホアキン・フェニックスが再び組んだ『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』は、アーカムに収監中のアーサーの内面を歌やダンスも交えて描いているのが刺激的。と、同時に、“悪のカリスマ”となった男の苦悩を題材にしながらも、社会のモラルを映し出しているのも興味深い。

※以下、劇中のシーンに触れている箇所があります。ネタバレはありませんが、作品を未見の方はご注意ください。

アーサーの前に、ジョーカーをヒーロー視する謎の女リーが現れる。
アーサーの前に、ジョーカーをヒーロー視する謎の女リーが現れる。

アーサーは、ジョーカーをヒーロー視する謎の女リーレディー・ガガ)と出会い、恋に落ちる。本作は初めて自分を理解してくれる相手と出会った者同士のラブストーリーでもあるのだ。

2人がセックスに及ぶシーンも登場するわけだが、その際、アーサーは、リーにちゃんと性的同意を確認するのである。

それが、これまで女性と縁がなかったアーサーらしいぎこちなさと共に描かれているので、アーサーの発する言葉が性的同意の確認であると、ことさらに意識させないほど。これは物語の流れを止めないという意味ではもちろんのこと、映画の中での性的同意の確認が自然に行われているという意味でも重要だ。

性的同意の確認の必要性が言われても、実際にはまだそうした意識を持たない人々もいる。そういう中で、社会のモラルの逆を行くジョーカーという顔を持つアーサーですら、性的同意の確認をしている。この事実が、『ジョーカー』シリーズの人気やインパクトとあいまって、性的同意の確認は行われるのが当たり前であるという意識が、観客を通して社会により浸透して行くきっかけになることを期待せずにいられない。

このさりげない性的同意の確認は、アメリカで大ヒットしたブレイク・ライブリー主演作『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』(11月22日公開)にも見受けられる。

『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』 画像提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』 画像提供:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

愛する人からの暴力を描く作品だが、主人公リリーの人生に大きな意味を持つ存在として高校時代の初恋の青年が登場する。その青年もまた、リリーの初体験にあたって、性的同意を確認するのだ。この確認のやりとりもまた、性的同意の確認によってストーリーの流れを損なうどころか、高校生らしい初々しさを溢れさせながら、青年の温かい人柄とリリーへの思いやりを感じさせるシーンに仕上がっているのが魅力的だ。

思えば、かつては、キスにしろ、セックスにしろ、映画やドラマでは主人公たちがロマンティックな音楽が流れるなか、高まる雰囲気の中で自然に始まるものとして描かれてきた。けれども、こうしたラブシーンの描かれ方は、自然な流れで性的行為が始まるのが、現実の関係においても当たり前であるという意識を植えつけ、性的同意の確認をしづらい状況を作る一因になってきたとも言える。

だが、逆に言えば、相手からの好意をおたがいが確信しているような関係性においても、夫婦間においても、性的同意の確認は当たり前のことであるという意識も、ハリウッド映画によって培われ、広げていくこともできるということだ。

#MeToo運動が起きて以来、多くの性加害が暴かれてきたハリウッド。性的同意の確認の大切さを作品を通して広く世に浸透させるのは、最重要項目のひとつ。いや、責務だろう。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

10月11日より全国公開

配給:ワーナー・ブラザース映画

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IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』

11月22日より全国公開

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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