ジャーナリスト、NPO、弁護士、LGBT当事者・・いじめ対策の取り組みを紹介
7月上旬、岩手県でいじめと思われる理由で自殺したという報道が全国に広がりました。数年前、いじめによる自殺が大きく報道されたことをきっかけに「いじめ防止対策推進法」が成立してもなお、このような心苦しい状況が続くのはどうしてでしょうか。2012年から活動を開始する、「ストップいじめ!ナビ」の活動を紹介しながら、いじめやいじめ自殺を防ぐためにできることを考えていきます。
前回の記事はこちらから。
【岩手中2いじめ自殺】いじめによる自殺を防ぐためにできること。
今回は「ストップいじめ!ナビ」による、いじめを防ぐための取り組みについてご紹介します。
ウェブサイトでの総合的な情報発信
「ストップいじめ!ナビ 今すぐ役立つ脱出策」にていじめに遭ったときの電話などの相談先やQ&A、経験をメモして整理したり大人に伝えやすくするための「あしたニコニコメモ」、報道ガイドラインや統計データ、弁護士の情報など、総合的な情報を発信しています。今の時代に欠かせないウェブツールを使うことで、多くの子どもと大人に、いじめに今すぐ役立つ情報を提供しています。
現在は、毎日平均数百ほどのアクセスですが、いじめ報道があったときなどは、ニュースサイトのリンク掲載などもあり、その何倍もアクセスが増加します。「ここに来たらいじめに関するさまざまな情報がある!」を目標に、情報発信を継続していきます。
2014年には新たに「NPO法人の団体サイト」を立ち上げました。上記の情報発信とは別に、NPO団体の基本情報、活動の案内や報告、各プロジェクトの詳細、講演や問い合わせなど、私たちの活動の報告やイベント情報などの発信が主な役割になります。
私たちのメンバーは、いじめに対する活動の他に、それぞれベースとなる活動を持っており、それぞれの知恵を結集する形で、取り組んできました。それらが私たちの強みの一つとなっており、たとえば、LGBTについては、「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」、いじめ予防授業などを行う「弁護士チーム」、外国籍の子どもたちへの支援を行う「東京子ども図書館」、無料でかけられる電話「チャイルドライン」などの活動があり、ウェブ上で情報も掲載しています。
「弁護士チーム」の結成
私たちのメンバーには、いじめ予防のために積極的に取り組んでいる「弁護士チーム」がいます。
2014年度は大妻中野中学校、横浜市立鴨志田中学校で、全クラスに対して「いじめ予防授業」を実施。生徒に、いじめとはなにか、どんなことがいじめなのかを考えることを中心として、いじめを起こさないようにするには、いじめをする「空気」を変えていけるようにするにはなどの問いかけを中心に、一人ひとりが自ら考えていけるように、そのために具体的な例を持ち出しながら、考える材料を提供しています。
2015年度は上記に加えて豊島岡女子学園中学校・高等学校でいじめ予防授業を実施していており、続々と依頼を受けています。
また、弁護士チームが取り組んだ「自治体チェックリスト調査」も実施・公表しました。いじめ防止対策推進法が施行されたことをきっかけに、各都道府県や政令指定都市に「いじめ防止基本方針」が策定されていますが、その基本方針がどのような形でまとめられているのか、また法律やいじめ防止のために具体的かつ適切に取り組みが推進されているのかなどを調べるため、法律に則りチェック項目を作成。全国の政令指定都市の「いじめ防止基本方針」を、各項目をポイント化し集計、ホームページで公表しています。
弁護士チームはメンバーとなる人数も増えつつあり、今後も積極的にいじめを予防できる環境をつくるための活動を展開していく予定です。
LGBTといじめのイベントを開催
昨年は私が代表を務めている「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」との共催で「LGBTといじめを考える」シンポジウムを開催しました。約100人の一般参加者、メディアが来場し、LGBTの学校調査報告(遠藤まめた)、いじめの現状の情報提供(荻上チキ)、シンポジウム(明智カイト、荻上チキ、牧村朝子、遠藤まめた)を行いました。
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では、セクシュアルマイノリティ当事者へのアンケートをもとに、セクシュアルマイノリティ当事者がいじめ被害のハイリスク層であることを明らかにし、教育現場で正しい知識が共有されることの重要さを訴えています。
「ストップいじめ!ナビ」では、こうした活動と連携しながら、セクシュアルマイノリティ、在日外国人へのいじめに関する啓発活動も行っています。また、同じくハイリスク層である発達障害当事者や貧困層に関する情報共有などを通じて、多様性に配慮した教室作りを訴えています。
メディア関係者向けの勉強会
いじめについての情報は、私たちはマスコミから受ける情報というものが多くあります。情報を受ける側については、いじめで苦しんでいる子どもたちやいじめにより不登校状態になっている当事者が見る可能性もあるかと思います。その視点から「当事者のためにもなる報道」をつくるため、報道機関との連携が重要となってきます。
私たちは、WHOの「自殺報道ガイドライン」を応用し、独自に「いじめ報道ガイドライン」を作成しました。そこでは、いじめ報道に関する3原則、1・子どもたちへの影響に配慮した報道をすること、2・関係者への影響に配慮した報道をすること、3・社会への影響に配慮した報道をすること、を掲げています。それを元に、記者をゲストに招いて勉強会を行い、報道の際の注意点を論議してきました。
たとえば「いじめ自殺」が起こった時、報道で目に入ることの一つに、センセーショナルに現状を嘆くような内容を見ることがありますが、見ている者に代替案を提示したり、具体的な現場の取り組みなどの紹介にも努める必要があるかと考えています。テレビの場合は、コメントの時間がない場合でも、字幕スーパーで相談機関を紹介したりすることも重要となってくるのではないでしょうか。
番組内でコメンテーターが「吼える」シーンが続いても、必ずしもそれが何かの「希望」につながるわけではありません。見ている当事者が少しでもほっとできたり、なにかにつながる「情報」を提供していくことが、「いのちや希望をつないでいく」報道へとつながります。そのような役割をメディアが担い、取り組んでいく必要があることを、私たちは伝え続けていきたいと思います。
調査研究と私たちの「いじめ白書」の発行
また、これまで様々な「いじめ対策」に関する活動や研究、議論が行われてきていますが、いまだいじめの実態が見えていない状況です。そこで私たちは、『いじめ白書』の大0弾とも言える冊子の発行を計画しています。
「いじめの実態」を把握するために「いじめの実態的な統計調査」や「いじめ対策の間違いや誤解」「いじめ防止のための具体的方法」「いじめ防止法」「いじめ予防授業の内容」などを広く共有し、対策に生かしていくための資料として役立ててもらうことを目的としています。完成は2015年夏を予定しています。
「ストップいじめ!ナビ」は、活動開始から3年になりました。その間、いじめ防止対策推進法の施行に関する取り組み、いじめの現状やいじめに対処するための情報提供、研究や情報収集、議論を積み重ね、メンバーそれぞれの活動にも生かされています。
これまでに全国各地の学校や行政、市民団体、チャイルドラインなどの子ども支援の現場へ、講演や講座の講師、支援活動などを行ってきました。今後も、新たないじめの現状や対策の情報を提供していくほか、さまざまな媒体への情報発信等、いじめ対策の関係者との連携に精力的に行っていきます。
学校現場を中心として、いじめ問題に本気で取り組もうとしている方々、関心を持たれているみなさんへ、私たちが力になれることがありましたら、情報を共有できればと思っています。
--------------------------------
情報サイト:今すぐ役立つ脱出策
一向に収まることのない「いじめ問題」に一石を投じようと2012年秋に活動を開始したNPO法人です。メンバーは、弁護士、ジャーナリスト、自殺対策専門家、性的マイノリティ活動家、子どもの専門電話活動、不登校やフリースクール活動に携わる人など、様々な分野の専門家。それぞれが持つノウハウや社会資源を結集させて「いじめ問題」への具体策を提示・実現させていこうとしています。