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黄色いベストデモ第23週目とノートルダム大聖堂修復に寄せられた寄付金8億ユーロ

プラド夏樹パリ在住ライター
黄色いベストデモ23週目(写真:ロイター/アフロ)

なぜ、ホームレス用住居建設に寄付しないのか?

「マクロン大統領に対する最後通牒」がテーマとなった4月20日の黄色いベストデモ第23週目。再び、パリが舞台となり、デモ隊と警察側の激しい衝突があった。

背景の一つには、4月15日、火災で屋根が全焼したノートルダム大聖堂を前にマクロン大統領が「みんなで力を合わせて大聖堂を再建しよう」と言ったところ、億万長者や大企業が我先にと名乗り出たことがある。彼らにとっては文化遺産に寄付することは宣伝になるし、税金控除も受けられるからだ。修復に要すると考えられている額は約6億ユーロ(約746億円)だが、10日しか経っていない今日、必要額を大幅に超える約8億ユーロ(約995億円)の寄付金が寄せられている。

しかし、これはここ5ヶ月に渡って生活の苦しさを訴えている黄色いベストには腹に据えかねることである。土曜日のデモではこんな声が聞こえた。

「そんなにお金が余っているなら、なぜ、ホームレスの人たちを対象にした住居建設に寄付しないのか?」

「失業者に出すお金がないって嘘じゃない?」

「私だってカトリック教徒。富裕層は広告のために、そして自分たちの罪悪感をカモフラージュするために大聖堂修復に寄付金出す。ゴミ箱漁るしか食うすべが人たちに何もしないなんて恥ずかしくないんですか?」

止まない警察暴力 来週末は口輪を外した攻撃用の警察犬も出動か

今回、一番大きなデモ隊は経済省があるベルシー河岸から出発し、レピュブリック広場に向かった。しかし、広場近くで警察隊と衝突、駐輪してあったオートバイ、自転車からゴミ箱まで燃やされた。その後、デモ隊は、持ち物検査を受け、防御するためのヘルメットや水中眼鏡を没収された。広場に入ったはいいが、警察隊に包囲されに閉じ込められる形になった。

催涙ガスを浴びせられ、手榴弾を投げつけられる。気分が悪くなり広場から出ようとすると機動隊から阻止される。今回、警察は、後にデモ参加者を尋問しやすいようにマーカーとなる青いインクを放水機を入れて発射するという新しい手段も使用した。

警察側の黄色いデモ弾圧については以前に書いたが、現在、治安維持問題の専門家ダヴィッド・デュフレ氏によると、現在、被害者の人数は次のようなものである。

死亡者 1人

頭部負傷 260人

失明 23人

手を失った人 5人

負傷した被害者のうち

デモ参加者 518人

うち未成年者 40人

たまたま通った通行人 25人

ジャーナリスト 79人

救助隊 30人

24日発刊のカナール・アンシェネ紙は、パリ警視総監が来週27日のデモでは攻撃用に調教された警察犬の口輪を外すようにと命令を下したと報道している。来週は、上記のリストに「警察犬に噛まれた人」の人数も発表されるかもしれない。やれやれ、人権の国、フランス万歳!。

(2019年4月24日発刊カナール・アンシェネ紙、p.4)

独立メディア系ジャーナリストが狙われる

そして、今回は、数人のジャーナリストが警察暴力を受けた。2人がトゥルーズ市で手榴弾により、1人がフラッシュボールで負傷、パリではフランス通信社(AFP)のビデアストは棍棒で殴られ、同社のもう一人は手榴弾で負傷。ジャーナリスト労働組合(SNJ)と国境なきジャーナリスト(RSF)が報道の自由が侵害されたと生命を発表した。ちなみに国境なきジャーナリスト(RSF)が発表した「2019年報道の自由ランキング」でフランスは32位。欧州の中では低い方だ。(日本は67位)

今回、一番、話題になったのは独立系メディア、タラニスニュースのガスパール・グランス氏が「公的権力に対する侮辱」「暴力、破壊目的のグループに参加」という理由で拘留された事件である。

下記のビデオを見ていただけわかるだろう。グランス氏はTVと書いたヘルメットをかぶっているが、機動隊から手榴弾を足元に投げつけられ、火が膝に飛びズボンが燃えそうになった。報道を仕事としているジャーナリストを攻撃するのはおかしいと抗議しに行ったところ聞き入れられないどころか突き飛ばされる。そこで同氏は機動隊に向かって中指を突きたてた。

その途端に、機動隊数人に飛びかかられ地面に組み伏せらる、殴られる、そして逮捕。同氏が自分で撮影した逮捕模様は こちら

グランス氏は48時間勾留され裁判所に召喚された。10月18日に新たに審問を受けるまでメーデーおよび毎週土曜日の黄色いベストデモにパリで参加することが禁止された。デモの間に中指突き立てるなんて、デモ隊のみならず警察側もやってることではないか? おまけに手榴弾を投げつけられたことに対する怒りの表明としてのジェスチャーが、なぜ逮捕、ひいてはデモ参加禁止処分、つまりグランス氏にとっては報道という職業停止ということになるのだろうか?

同氏はここ10年に渡って社会運動をルポしてきたジャーナリスト。主な仕事は、2016年に起きた労働法改正に反対する運動「夜よ立て」、ノートルダム・デ・ランド飛行場建設反対運動、カレー市難民キャンプなどだ。しかし、同氏はこうした反政府的な社会運動をテーマにしているという理由だけで、司法当局から「国家治安を脅かす恐れのある人物」としてリストされている。

グランス氏逮捕の本当の理由は、政府に都合の悪いニュースを流す独立系メディアジャーナリストだからではないだろうか? マスメディアはすべて国営、あるいは大手資本によるものである今日、彼らの存在は国民にとって貴重、しかし政府にとっては危険だ。しかし、それが、本当であるならば、マクロン政権下では報道の自由はもはやないに等しい。グランス氏のインタビューはこちら。

ところで、今回の事件によって同氏のタラニスニュースにはこれまでにない多額の寄付金(月額564ユーロから6000ユーロ)が寄せられた。視聴率はうなぎ昇りらしいから、結局のところグランス氏逮捕は、国民のマクロン政府に対する信頼をさらに落とす大きな失態となった。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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