薬物で妻を昏睡状態にさせた夫、そしてレイプした51人の男性たちの裁判(1)フランスの社会は変わるか?
今、フランスで注目されている裁判がある。50年来結婚しているカップルの夫が妻に大量の睡眠薬を与えて眠らせ、チャットサイトで募った男性72人あまりに9年間にわたってレイプさせ、その様子を録画していたという未曾有の事件の裁判である。アヴィニョン市で9月に始まり12月20日まで続く予定だ。
9月6日、初めてインタビューに応えるジゼルさん
ベンゾジゼピン系睡眠薬を使用して
今回の裁判で被告席に立つのは夫ドミニック・ペリコー氏(71歳)と、チャットサイトCoco.gg(その後閉鎖)で同氏と知り合い、彼の指示に従って妻ジゼルさんをレイプしたと警察が調査の末に判断した男性72人のうち身元が確認された50人。ちなみに彼らの間に金銭関係はないので買春ではない。ペリコー氏は医師に処方されたベンゾジゼピン系睡眠薬を妻ジゼルさんに大量に与えて眠らせて犯行に及んでいた。
同氏は加害者の名前とレイプ行為の詳細、日時までを記録した約2万点の写真とビデオを証拠として録画しており、それによって警察が確証できるレイプの回数は92回、実際はそれ以上で少なくとも200回だと考えられている。裁判では、ペリコー氏が犯行に及んだ動機、そして彼と50人のレイプ罪に焦点が当てられる。ちなみにフランスでは、レイプは最高20年の禁固刑に課される可能性がある。
仲の良い普通の「おしどり夫婦」
夫婦は、仏電力会社(EDF)勤務中に知り合い、1973年に結婚した。近所では仲の良い「おしどり夫婦」として有名だったそうだ。二人の間には、現在34歳から47歳の子ども、そして孫たちがいる。ジゼルさんはどちらかというと夫を立てるタイプだったが、明るく、世話好きという評判。また、2人の娘で『私の父という怪物』を著したキャロリン・ダリアン氏によれば、ペリコー氏も、子ども好きで家族に優しく、存在感に溢れるパパだったという。
しかし、2020年、ペリコー氏はスーパーマーケットで女性客のスカートの下を撮影していたところを現行犯で逮捕される。そして警察が同氏の自宅を捜索したところ、昏睡する妻ジゼルさんが第三者にレイプされている2万点の写真とビデオが発見され、事件が明るみに出た。
50人も普通の男性か?
ところで今回、ペリコー氏と共に被告席に立つ50人の共犯者は、26歳から74歳のジャーナリスト、軍人、刑務所看守、工員、長距離トラックの運転手、消防士と様々な職業に就く人々。
そのうち20人は家庭もちで父親。養子縁組を待っている人もいる。彼らの育った環境はといえば13人は幼児期に性犯罪や暴力の被害を受けたことがあるが、14人は思いやりのある家庭に育っている。ただし、「加害者は普通男性」とメディアが報道するのに私が違和感を感じてしまうのは、そのうち23人には、暴力罪、性犯罪の前科があるからだ。
51人は、チャットサイトでペリコー氏と知り合い、同氏宅に赴き、隣人の注意を引かないようにという同氏の指示にしたがって離れたところに車を駐車、同じく同氏の指示で台所で脱衣、手を洗い、そしてヒーターの上で手を温めてから寝室に招かれたと供述。全員が、ペリコー氏からジゼルさんは精神安定剤を大量に飲まされて昏睡状態に近い状態で眠っていることを知らされていた上で、「こういうプレイが好きな夫婦なんだと思った」、あるいは「眠ったフリをしているのだろうと思った」と主張している。
「妻の身体は夫の所有物」
ところで、14人は自ら有罪を認めたが、37人は、無罪を主張している。そのうち建築現場責任者 アドリアン・ L氏(34歳)は、「夫がその場にいるのだから、レイプではない」と、また、看護師のルドアン・E氏(55歳)も「夫がokしている行為はレイプではない」と供述し、いまだに、「妻の身体は夫の所有物」という考えはフランスの社会に根深く残っていることを如実にあらわしている。
ところで、51人の男性たちはマスクをして目を伏せて入廷する一方で、ジゼルさんは、連日の裁判で、大半が女性である傍聴者の拍手を受けて入廷。裁判のはじめに検事は非公開裁判を求めたが、被害者であるジゼルさんは「恥じるべきは被害者ではなく加害者」、「薬物を使用したレイプが社会全体の問題として議論されるように」として公開裁判を求めた。また、証拠物件としての写真とビデオの映写にも賛否が討論されたが、現在は、被告が無罪を主張する場合のみ映写されることになった。
傍聴人の拍手を受けるジゼルさん
この裁判を機会に、薬物を使用したレイプや、カップル間での性的同意についての議論が活発化しているので、次回からは、この裁判がフランス社会に与えている影響について数回にわたってお知らせしたい。
参照文献・記事
https://www.arte.tv/fr/videos/122388-002-A/mazan-le-proces-de-tous-les-hommes/