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コロナ会見打ち切り判断は「あり」 首相の話し方には課題も

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

 現在、新型コロナウィルスの対応をする日本国リーダーとしてのメッセージに注目が集まっています。主な内容を振り返ると、2月25日、政府基本方針が発表され、2月27日、全国小中高校の一斉休校の要請がなされ、本件についての安倍首相による公式会見は2月29日でした。この日の会見には打ち切り方が一方的だといった批判もありますが、私の見方は異なります。とはいえ、安倍首相の話し方には課題もありますので、そこは指摘して改善方法も解説します。

記者会見の打ち切りはNGか?

 2月29日の記者会見における安倍首相冒頭発言の構成は、新型コロナウィルスについての現状、感染拡大を抑止する方針、事業者や自治体へのイベント等の集会自粛の要請とテレワークの推進、全国小中高校の臨時休校の要請、必要な助成金制度の準備、感染者への哀悼やお見舞い、検査や医療体制、治療薬開発の決意、国民全体への協力呼びかけ、乗り越える決意、最前線の医療関係者への敬意で締めくくりでした。

 国民、感染者、医療従事者、自治体、事業者、学校といったメインのステークホルダーへのメッセージがもれなく含まれていました。また、立ち向かう決意、国民への呼びかけもよかったと思います。特に、「感染者への哀悼やお見舞い」「医療従事者への敬意」が入っていたのでホッとしました。ただ、感染者への言葉は途中ではなく、最初の方に入れた方がより良かった。その点、3月11日に行われた高野連の会見では、最初に感染者へのお見舞いの言葉があり、じわっと心が温かくなりました。危機時には温かさと力強さの両面でメッセージを発信することが求められます。

 この会見はまだ質問があるのに広報官が打ち切ったとして、一部批判が出ていますが、緊急記者会見で時間を制限するのは「あり」です。もうこれで最後にしたいといった場合には、質問が尽きるまで行うといった考え方もありますが、今回はそれに当たりません。映像を見ると、広報官が「これで最後の質問にします」と言った際に、安倍首相は振り返り驚いた顔をしたところをみるとご本人ももう少しやるつもりではあったことは見て取れます。しかしながら、官邸の記者会見は着席ではなく立って行うこともあり、首相の体力温存の必要性や記者の質問から総合的に判断するのは当然です。

 また、記者会見の分数は全体で36分。首相からは19分、質疑応答は17分。質問時間が2分短いものの、ほぼ同じ程度の時間は確保しています。そもそも思い出してほしいのは、9年前の東日本大震災の際には、当時の菅首相はメッセージの発信だけで質問を受け付けませんでした。とても質疑応答に耐えられる精神状態ではなかったのです。

 むしろ私が違和感を持ったのは、記者からの質問でした。5つの質問のうち、「反省」「結果責任」「教訓」といった質問が3つもありました。未曾有の社会的危機の渦中にまだあるわけですから、振り返って責任を追及する場面ではありません。国全体でどのようにこの危機を乗り越えるのか、対策は十分か、できていないことはないか、しわ寄せがいってしまう体力のない中小企業や生活者、感染者への人権を守るための配慮のあり方、政府の足りない部分を指摘する質問をする必要がありました。国民の不安を背負った質問であれば、予定の時間を延長した可能性があります。

課題は歩き方や話し方のスピード

 安倍首相の場合には、課題は内容よりも「歩き方」「話し方」のスピードにあります。会場を左右中央と3分割して見ながら話をするなど、体の動きはある程度できているのですが、ボイストレーナーの山口和子氏は安倍首相の課題は発音にあると指摘しています。「聞き取りにくいのです。原因は口をしっかり開けて話していないことと、抑揚をつけないままさらっと言葉を進めてしまうからです。年頭メッセージでは、日本産(にほんさん)が尿酸(にょうさん)に聞こえてしまい、聞いているこちらは意味がわからず混乱してしまいました。直すには、強調したい言葉や大事な言葉はアクセントをつけてゆっくり発音することです。日頃から自分の苦手な音も自覚し、苦手な音がある原稿はチェックして、気を付けて発音するようにするとよいでしょう。また、答えたくない質問が来た時には、指を合わせる癖があるので動揺している様子がよくわかってしまいました」。

 リーダーは動揺してもそれを非言語で見抜かれないよう訓練で身につけることは危機管理の観点からも重要です。本人が不安な表情をしたり、体が揺れるといった落ち着きのない動きは、相手を不安にさせてしまいます。

 ウォーキングディレクターの鷹松香奈子氏は、歩き方が前のめりで突進していく点が残念だと指摘しています。「前のめりだとせっかちに見えてしまい印象としてはマイナスに働いてしまいます。歩幅を少し広げて、ゆったりとした歩き方をすると総理としての風格、威厳、信頼感を表現することができます。直そうと思えば必ず改善します。自覚することが第一歩です」。

安倍首相のトレーニングポイントについて、詳しくは動画をご覧ください。

安倍首相の課題と改善方法(勝手にメディアトレーニング)

・安倍首相の魅力と課題

・アクセントのつけ方

・歩き方の課題

・好感度を高く見せることの重要性

・すぐにできるトレーニング

 日本では非言語コミュニケーションの研究が少なく、日本広報学会でもこのテーマで発表を行っているのは私とその周辺のみです。欧米企業では、神経言語プログラミング(NLP)を取り入れるなど研究は活発。新任役員は必ず受けるトレーニングとして定着しています。私が対応した外資企業では、模擬インタビュー、模擬会見のメディア対応訓練(通称:メディアトレーニング)を受けないと取材対応してはいけない、とルールを決めていました。日本は残念ながら、国を代表するリーダーにさえ、戦略的トレーニングはされていません。会見を見れば一目瞭然です。過去には、長期政権となった中曽根康弘元総理は浅利慶太をブレーンとし、小泉純一郎元総理はオペラなどの観劇を趣味としていました。現在、比較的人気のある小泉進次郎環境大臣は落語で学んだと自らの講演で語っていますが、いずれも個人の意識と努力任せであって、定着しているとは言い難い。一方、企業は危機管理として取り組みますが、大抵は1回トレーニングを受けておしまいです。私自身の経験から言えることですが、トップトレーニングの前にトップの側にいる広報担当者自らが訓練を受ける方が継続的に改善できる環境が整います。言葉だけでなく、全身を使って表現力を高める研究が増え、訓練が定着すれば、伝えたい気持ちが迅速かつ正確に伝わり、コミュニケーションによる誤解や損(もったいないシーン)が減るのではないでしょうか。

鷹松香奈子(たかまつ・かなこ)氏略歴

ウォーキングディレクター

東京都出身。女子美術短期大学卒業。1982年からモデルエージェンシーに所属し、パリコレクション、東京コレクションのほか、著名ブランドのモデルとして活躍。1992年からモデルウォーキングインストラクターとして、ホテルや百貨店、証券会社、携帯電話会社などで歩き方や立ち居振る舞いなどの研修を手がける。2001年、四つのコンセプトをもとにした活動を開始。現在、TK-plus代表として指導者育成にも力を注ぐ。2015年から外見リスクマネジメントのパートナー講師。

山口和子(やまぐち・かずこ)氏略歴

ボイストレーナー

東京都出身。劇団昴演劇学校専攻科卒業後、劇団新人会に所属。俳優として、全国の学校公演やおやこ劇場公演、映画出演、企業研修用DVDなどに出演。演劇経験をもとに、パブリックスピーチトレーナーとして発声や話し方のインストラクションを開始し、メディアトレーニングに参画。2006年から研修会社に所属し、多数の企業での接遇やロールプレイング研修に携わる。2018年から株式会社エス・グルーヴ(TSIホールディングス)所属。

<参考サイト>

2020年2月29日 安倍総理 記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0229kaiken.html

2020年1月6日 安倍総理 年頭記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0106nentou.html

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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