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大阪地検トップの性暴力と副検事の妨害で絶望 女性検事が6年間の苦痛を記者会見で吐露(全文、前半)

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

加害者は大阪地検トップだった北川健太郎元検事正。2018年9月12日深夜、北川被告は酒に酔って抵抗できない状態だった部下を自分の官舎に連れ込み、性的暴行を加えた事件。既に逮捕され、事実を認めている状態で、被害者の現職女性検事は1回目の公判後に記者会見を開催。会見の目的は、性被害者の過酷な実態を知ってもらうため、自分自身が立ち直るため。涙を流しながら、6年間の悲痛な思いを切実に訴えました。筆者はこれほど胸を打たれた会見は経験したことがありません。直接記者会見で訴える勇気ある行動を決断したことを称えたい。こうした性被害者による生の声が社会を変えていく力になると信じたい。

性被害を受けただけではなく、被害申告後の内偵捜査中に加害者に情報漏洩し、妨害工作をした女性副検事がいたとし、名誉棄損で訴えたことも明かしました。組織が副検事の情報漏洩を把握しながら処罰せず、被害者と同じ職場に配属したこと、何度も説明を求めたが改善されなかったということは、この告発をつぶそうとした動きを組織として容認したとみえます。組織的な隠ぺいだったとするなら事態はより深刻です。

このように検察組織の信頼にかかわる重要な事件であるにもかかわらず、報道に広がりが見られません。権力監視の存在であるマスメディアが機能不全の状態です。残念ながらこういったことはしばしば起こります。報道関係者にとって検察や警察は事件に関する重要な情報源だからです。報道すると次の重要な情報から締め出されるリスクがあるからでしょう。マスメディアがチェック機能を果たさない時に存在感をみせるネットでも記事や動画は検索しても会見直後のみで次々に取り上げる状態になっていないようです。YouTuberは男性が多いので取り扱いにくいテーマなのでしょうか。埋もれさせてはいけない会見です。どんな解説よりも被害者の言葉をそのまま伝える形が社会を動かすと考え、ここに会見の全文を掲載します。(前半、後半の2部構成)

■全文書き起こしをした女性検事の会見動画 

https://www.youtube.com/watch?v=Ye_vmJAfpD4

*会見全文は会見動画のスクリプト起こし文からGeminiとChatGPTに修正依頼をかけた。ChatGPTの方が処理が優れていた。編集、注釈、見出しは筆者。(協力:クロスメディアコミュニケーションズ株式会社)

「公にしたら死ぬ」の脅しで被害申告できなかった

皆様、本日はお忙しい中、このような場を設けていただき、たくさんの方々にお集まりいただき、本当にありがとうございます。私は、元大阪地検の検事による準強制性交等事件の被害者であり、現職の検事です。本日、大阪地裁での初公判があり、被告人が控訴事実を認め、検察官が請求した証拠の大半に同意し、裁判所が証拠の取り調べを行いました。このタイミングでお話しする決心をしました。被害を受けてから約6年間、本当にずっと苦しんできました。

なぜもっと早く罪を認めてくれなかったのか、もっと早く認めてくれていたら、私はもっと早く被害申告ができ、この経験を過去のものとして受け止め、新しい人生に踏み出すことができたと思います。彼は逮捕当初も否認しており、警察の捜査で争う余地がないとわかってからようやく認めたようです。しかし、たとえ認めたとしても、私の処罰感情が収まるわけではありません。

これまでの経緯を振り返ると、検察組織や警察職員を人質にして、私に口止めをし、もし公にされたら死ぬと脅され、被害申告ができませんでした。そのため、当時の被害状況や口止めされた時のことが、6年間ずっと頭の中をぐるぐると巡り続け、検察官の陳述や証拠調べの説明を聞いている時も、その思いに囚われていました。会見も初めてで、拙いものになるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

先ほど弁護士の先生からもご説明がありましたが、会見に先立ちお願いがあります。今回の件は性犯罪であり、公判でも私や家族の個人情報が扱われています。現職の検事という職業柄、家族の安全を守るためにも匿名で顔を出さずにお話しさせていただくことをご了承ください。報道の際にも個人情報の保護を徹底していただき、個人情報を探るようなことはしないでください。どうぞよろしくお願いいたします。そして、この場を借りて、被害から6年間、家族や代理人の先生、そして私を支えてくださった先輩検事や同僚、友人、医師や心理士の皆様方に心から感謝申し上げます。

本日、地裁前でフラワーデモ(注:花を身につけて性暴力に抗議する社会運動)を行ってくださった方々がいらっしゃると聞きました。そのような皆様の温かい支援が、とても心強く感じられました。被害から6年間、ほとんど誰にも言えず、長い間苦しんできました。大きな権力との戦いの中で、強い恐怖や孤独、事件が闇に葬られるかもしれないという不安も大きかったですが、温かく見守ってくださった皆様が、私の選択を応援してくださったおかげで、今日の初公判を迎えることができました。本当にありがとうございます。

女性、母、妻、検事としての尊厳を踏みにじられ身も心もボロボロ

今回会見を開いた理由について、2つあります。まず1つ目は、性犯罪や虐待被害などで声を上げられずに苦しんでいる被害者の方々、また勇気を振り絞って声を上げてもなお苦しみ続けている被害者の方々がたくさんいるということです。私は若い頃、電車内での強制わいせつ被害に遭ったことがありましたが、恐怖で逃げるのが精一杯で警察に届けることはできませんでした。また、ストーカー被害に遭った際には警察に被害を届け出ましたが、まともに捜査をしてもらえませんでした。このように、私は被害を受けても声を上げられない、または声を上げても届かないという経験を通じて、同じように苦しんでいる方々に寄り添い、力になりたいと強く思うようになりました。

これまで検事として、たくさんの被害者の方々と共に泣き、共に戦い、寄り添ってきました。そして、今私自身の経験をお話しすることで、現在苦しんでいる被害者の方々に寄り添うことができればと思い、この会見を開くことにしました。性被害は密室で行われることが多く、客観的な証拠が乏しいため、加害者が暴力を振るっていない、同意があったと主張することが少なくありません。そのため、司法関係者が正しく捜査し、事実を認定し、法的評価をしなければ、声を上げた被害者がさらに傷つき、性犯罪が許され、被害者が絶えないという悲劇が続いてしまいます。

性犯罪の本質を正しく理解し、被害者の過酷な実態を知っていただくことで、性犯罪を撲滅したいという強い思いから、今回会見を開くことにしました。そして、2つ目の理由は、私自身のためです。私は、法令を遵守し、傷ついた被害者に寄り添い、犯罪者を適正に処罰することを使命とする検察庁において、私が所属する大阪地検のトップである上司から突如性的な被害を受けました。すべてを壊され、女性として、妻として、母としての私の尊厳、そして検事としての尊厳が踏みにじられ、身も心もボロボロにされ、家族との平穏な生活や大切な仕事も全て壊されました。

それでもすぐに被害申告できなかったのは、被告人から「申告すれば死ぬ」「検察が機能しなくなり、検察職員に迷惑がかかる」と脅され、口止めをされていたからです。また、たくさんの職員に迷惑をかけられない、検察を守らなければならないという思いもあったからです。私は自分が脅されていることを隠し、これまで以上に勇気を振り絞って被害申告をしてくれた被害者の方々に寄り添い、力になりたいと思い、自分の苦しみを押し殺して被害者の方々と共に戦ってきました。少しでも孤独に苦しんでいる被害者の方々の力になれれば、自分も救われると思っていたからです。

重大な罪を犯した検察トップが処罰されない現状に憤り

一方で、被告人は重大な罪を犯したにもかかわらず、適正な刑事処罰を受けることなく、職を辞する際もその罪を隠して「円満退職」をし、多額の給与や退職金を得て、弁護士になり、企業などに関わる仕事をしています。また、検察の現職職員とも頻繁に酒を飲み、部下への接し方などについて語り、検察に大きな影響力を持ち続けていました。被告人は私に対し「公にされたら死ぬ」と脅しながら、罪を犯したことをなかったかのように振る舞い続け、私の存在などまるで忘れてしまったかのようでした。これにより、私の被害感情はさらに激化し、苦しみを抱えて必死に仕事に没頭しながら生きる道を探していました。

検事である人物が、これほどまでに罪深く、不道徳で非常識であることに誰も気づかず、処罰されるべき人間が処罰されていない現状に強い憤りを感じます。被害者を救い、犯罪者を適切に処罰し、国民の安全と安心を守ることが検察官の使命であり、私自身の使命でもあります。しかし、被害者である私自身は誰からも救われることなく、罪を犯した被告人も適切に処罰されていません。その怒りと悔しさから、PTSDの症状が悪化し、心身の限界を迎えて休職せざるを得なくなりました。自分の生きがいであった仕事まで奪われてしまいました。

私自身を取り戻すためには、自分のアイデンティティを守り、被告人を適切に処罰することが不可欠だと感じました。被告人に真に自分の罪と向き合わせ、同じような被害者を二度と生み出さないために、覚悟を決めて被告人の処罰を求めました。何度も何度も書面を作成し、警察庁に訴え、持っている証拠もすべて提出しました。起訴していただくまでの間、事件が潰されるかもしれないという恐怖に苦しみましたが、捜査を担当してくださった皆様が懸命に調査をしてくださり、起訴していただくことができました。私は少し救われた気持ちになりました。

日常を少しずつ取り戻していくために、休職期間を利用して登山の練習を始めました。起訴していただくまでは出勤すること自体が恐怖で、泣きながら震えながら勤務していました。しかし、検察庁が被害者情報や被害内容の保護を徹底してくださったので、職場は安全だと信じていました。

検察組織は情報漏洩した副検事を処罰せず、さらなる絶望の淵へ

ところが、今回の事件の関係者である女性副検事が、内偵捜査中の時点で捜査情報を被告人側に漏洩し、被告人が当初弁解していた内容に沿った事実確認をしていたことが判明しました。その女性副検事は、検察庁職員やOBに対して、被害者が私であることを伝え、私が事件当時、抵抗が不能な状態でなかったため、同意があったのではないか、PTSDの症状も仮病ではないか、金目当ての虚偽申告ではないかという趣旨で、私を侮辱し誹謗中傷する虚偽の内容を意図的に広めていたこともわかりました。

その嘘は警察内部にまで広まり、私が信頼していた上級の検事までが、証拠も知らないまま被害者である私を誹謗中傷し、被告人を庇うような発言をしていたことが分かりました。正当に性犯罪の被害を受けて苦しんでいる私が、検察庁内部でもこのような被害を受け、さらに傷つけられてしまいました。女性副検事の一連の行為について、私が知った9月3日以降、検察庁に対し何度も速やかな捜査と適正な処罰を求めましたが、未だにその女性副検事は検察庁で勤務を続けています。

最高検察庁も女性副検事による捜査情報の漏洩を把握していたにもかかわらず、適正な処罰や処分を行わず放置し、さらに被害者である私にその情報を伏せたまま、私をその女性副検事と同じ職場に復帰させたのです。私は、安全だと思っていた職場に被告人と内通していた職員がいると知らされず、必死に職務に復帰しようとしながら日々を過ごしていましたが、その事実を知り、さらに自分が誹謗中傷されるのではないかと強い恐怖を感じました。

検察からの謝罪と説明がなく職場で孤立

すぐに、その女性副検事を私の職場から遠ざけてほしいと求めましたが、検察の対応は遅く、先ほど述べたような名誉毀損の実害が発生してしまいました。私は自分が被害を受けたことを恥だとは思っていません。悪いのは犯罪者の北川健太郎です。私は堂々としていたいし、検事の仕事を続け、被害者に寄り添い、共に戦っていきたいと思っています。しかし、検察庁内で私が虚偽申告を行ったといった噂が広められている現状に絶望し、再び休職せざるを得なくなりました。

なぜ、私に対し、その副検事が捜査段階でそのような行為をしていたことを検察庁が伝えず、彼女と同じ職場に復帰させたのかについて、私は検察庁や最高検察庁に何度も説明を求めましたが、一切説明はされませんでした。現職の検事から性被害を受け、さらに現職の女性副検事からも名誉毀損などの被害を受けているにもかかわらず、検察庁からは謝罪もなく、非常に孤立した状況に置かれていることから、今回の会見を開く決意をしました。

会見の目的として、まず検察庁に対して適正な捜査を行い、速やかな処罰と処分を求めたいと思います。そして、もう一つの目的は、私の名誉を回復するための機会にしたいと思い、この会見を開くことにしました。

後半へ続く

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c21696382b073f9cc3904ed8c55db2377adfbd20

■村上康聡元検事・弁護士による解説(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供「リスクマネジメント・ジャーナル」)

「大阪地検トップの性加害、検察組織は徹底追及できるか」

https://www.youtube.com/watch?v=TRSeS_vmLrc&t=2s

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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