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自民党総裁選9名の表現力を徹底比較 アピール力、質問対応力、論戦力は誰が一番?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

自民党総裁選の告示が9月12日にあり、13日に共同記者会見が開催されました。岸田総理が総裁選不出馬を表明してから、小林鷹之氏の出馬表明会見(8月19日)を皮切りに、石破茂氏(8月24日)、河野太郎氏(8月26日)、林芳正氏(9月4日)、茂木敏充氏(9月4日)、小泉進次郎氏(9月6日)、高市早苗氏(9月9日)、加藤勝信氏(9月10日)、上川陽子氏(9月11日)が次々に立候補。史上最多となる9名の立候補が確定し、27日投票日まで論戦が展開されています。タイミングと内容構成に個性が出る立候補表明会見、12日からは限られた時間内でのインパクトのあるスピーチ、共同記者会見、各地での論戦から9名の表現力を比較します。

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高市氏はパワフル、笑顔は賛否、服装は課題

9人の中で最も長く出馬表明会見を行ったのは高市早苗氏。9月9日は1時間説明し、30分の質疑応答でした。3年前同様、国家観を語り、「危機管理投資」を繰り返し、細かい数字を交えながら野太い声でエネルギッシュに語り、強い信念のある政治家としての姿を印象づけました。最後に裏金問題の真因について、政党交付金を一部の幹部が使用方法を決め、各議員には手取り月の手取り30万円になってしまう点にあると説明し、お金の流れに属人性を廃止すると主張。12日の所見表明演説でも、政党交付金についての考えを述べた点は本質に迫る気迫がありました。9人の中で最もエネルギーレベルが高いと感じた方ではあるのですが、惜しいのが見せ方。

まずは笑顔。9人の中で唯一笑顔が強く印象に残るので本来であれば、明るい雰囲気になりとても効果的でプラスに働くはずです。筆者はひいき目に見て、きつさを和らげる戦略的笑顔とみています。ところが、女性達からは彼女の笑顔に対して引いてしまうといった評価の声が頻繁に上がります。理由は、笑顔のタイミングとその大げささ。必要ではない論戦の場で出してしまったり、笑いすぎが相手を見下しているように見えてしまったりするのです。米国大統領選でもハリス氏の笑顔の意味が話題になりましたし、筆者の経験でもテレビ出演した際に母親から「笑いすぎ」と注意を受けたことがあります。高市氏の笑顔戦略はややリスクありと言わざるを得ません。対策としては頻度を減らす。笑顔を最初と最後だけにして論戦では使わない。これだけで損を減らせるのではないでしょうか。

最も残念なのは服装。特に色の組み合わせ。黒のインナーにブルージャケットでは夜の雰囲気。白を取り入れるだけで清潔感が出るのですが、高市氏は白を着こなせていません。ジャケットもストライプや細かい柄なので膨張させて目がちかちかするテレビに不向きなモアレ現象を引き起こしています。アクセサリーはイヤリングとネックレスをパールで重ねるやり過ぎ感。パールはどちらかだけにするのが基本なのでこれではしつこい印象を与えます。ヘアメイクも不自然な仕上がりで違和感を与えます。外見はすぐに変えられます。スタイリストをつけて、中身に見合った女性リーダーとしての外見技術を身につければ女性からの支持率は確実に上がるでしょう。

小林氏は将来性を感じさせるが総花的、眉毛が動かず堅物印象

いち早く出馬表明会見を開いたのが小林鷹之氏。一番知名度の低い立場から長く報道してもらう広報戦略であることは明確。出馬会見での出だしは政治資金問題についての「自民党への批判」に向き合う姿勢で「透明化」を主張。世界の中の日本の位置づけ、サラリーマン家庭で育った生い立ち、経済安全保障担当大臣としての実績、自らが考える4つの政策を説明し、最後に自分の「鷹之」の「鷹」にひっかけて、「鷹は羽を成長に応じて抜け替える、自民党も羽を変える、生まれ変わる」とまとめました。30分間の構成はメリハリがありよく練られていました。ジェスチャーも豊かでかなり練習したのでしょう。準備をしっかりするまじめな性格を伝える効果があり、将来性を感じさせる出来だったと思います。質疑応答も、困る質問は一般論で返すなど隙のない回答でしたが、かえって印象が残らない面はありました。

12日の所見表明では、10分間であったため、「経済安全保障をゼロから立ち上げて作ってきた」「党改革を断行していく」「世界をリードする日本を作る」と言葉の羅列で総花的になり印象が薄くなってしまいました。ここは一点突破で、初代経済安全保障担当大臣としての実績をアピールすることに集中させた方がよかったのではないかと思います。何しろ初代の経済安全保障担当大臣は彼だけなのですから。

非言語の部分は、体格も姿勢もよく堂々として見栄えがいいのですが、眉毛が全く動かないため、目のあたりの表情が乏しくなり、いつも同じ顔になってしまいます。強調する部分は眉毛を上げて目を見開く、最初と最後だけは笑顔にするといった表情の変化があれば爽やかさがより一層強く印象として残るのではないでしょうか。

林氏は耳あたりのよい声がすぎて存在感なし

9月4日に出馬表明会見を行った林芳正氏は、45分間と一番短い時間でした。能登地震被災者へのお見舞い、自民党が信頼を損ねていることへのお詫びから始まり、現状認識と課題として、少子化対策、人口減少、格差是正、リスキリング、自己実現と言葉の羅列。3つの安心で1つ1つの不安を政治で解決する、とぼやっとした表現。「仁」の文字を掲げ「やさしい政治」と訴えましたが何が一番言いたいのかさっぱりわからない17分間の冒頭スピーチでした。

質疑応答もスルスルとかわしていました。政治資金問題では、「法の支配は大事。ルールは守る」、「岸田政権の官房長官として出馬の資格があるのか」の問いには「危機感を持っているからこそ」、「親中で知られている、毅然として言えるのか」に対しては、「相手を知ることから」。

現役官房長官らしく隙の無い回答ではありますが、ソフトで耳あたりのよい声もあいまって何のインパクトも残らず存在感がありません。加えて、スーツにボタンダウンは公式の場では避けるといったスーツの基本知識が欠けています。また、口呼吸なので、スース―と息を吸う音が時々雑音となり耳障りです。放置すると口呼吸は年齢と共に悪化します。腹式呼吸で改善することをお勧めします。

小泉氏はスピード感と論点創出力、論戦で危なっかしさ

今回、最も注目度が高い候補者が小泉進次郎氏。父は「自民党をぶっ壊す」を掲げて国民的人気を獲得した小泉純一郎氏。

出馬表明会見は9月6日に行われ全体で1時間。説明に30分使い、「自民党を圧倒的に変える」「決着をつける」「1年以内にやる」「できるだけ早く解散する」と抑揚の聞いたインパクトある出だしで決意表明。「新しい産業が生まれる国にしたい」「私たち日本人 1人1人が未来に明るい展望を持てる国にしたい誰もが縮せず誰かの評価より自分の 持ちに正直に生きられる国にしたい」と平易でわかりやすい言葉でイメージが湧いてくる内容でした。ライドシェア完全解禁、解雇規制の見直し、選択的夫婦別姓の法案を提出など、攻めの姿勢で論点を明確にしました。スピーチ原稿はスピーチライターの腕もありますから、小泉チームのカラーと評価できるでしょう。「解雇規制の見直し」「選択的夫婦別姓具体的」は他の候補者からの攻撃の的になりましたが、あえて争点にする意図がチームにあったのであれば成功といえます。

個人の表現力は落語を研究しているだけあって、野太い声、抑揚、スピード、目線、ジェスチャーは9人の中では最もうまいと感じました。服装も唯一ポケットチーフ活用で清潔感の演出は際立っていました。

出馬会見での質疑応答はメディアトレーニングもしていたのでしょう。「G7で恥をかくのでは。国民が心配している」との質問には、「足りないところがあるのは事実。最高のチームを作る」と回答でまずまずの出来。

また、記者の名前を確認して「もう一度お名前いいですか」「〇〇さんのご質問ですが」と回答しているのは小泉氏だけでした。名前を呼ぶのは、相手からの好感度を高める効果は確実にあります。

弱点はやはり論戦。自力が試される場では力不足が目立ちました。上川氏からの質問「次のカナダでのG7サミットで何を伝えるか」に対して、「カナダのトルドー首相は43歳で就任。私も43歳。43歳就任同士のトップが胸襟を開いて未来志向の外交を切り開く」と力強さに欠けたふわっとした回答で心もとない。多くの論戦で成長を待つしかないのでしょうか。

上川氏は断トツ品の良さ、新しい国のイメージが湧かない

推薦人20人確保に苦戦したと言われる上川陽子氏の出馬表明会見は9月11日の最後、告示の前日でした。自民党力学の中で滑り込んだ印象はぬぐえません。1時間の会見の配分は20分間のスピ―チと40分間の質疑応答。最初に決意表明、自分の生い立ち、実績、強み、7つの柱の構成でした。「他の人はなしえなかった難しい決断を何度もしてきた。私は決断力がある」とアピール。法務大臣を何度も経験し、オウム真理教の教祖らの死刑執行を命令した決断力のある方なのは確かですが、彼女の実績はあまり知られていません。よって、7つの柱、3つのキーワードを掲げて「日本の新しい景色を一緒に作りましょう」と言われても残念ながらイメージができません。

最も残念だったのは、出馬表明会見でプロンプターを使っていたことです。プロンプターなしの12日告示日の所見表明では、11日のような堂々とした話しぶりになりませんでした。やや声も上ずり、下を見る回数も多く、自分の言葉になっていませんでした。質疑応答でも、慎重になり、一般論で曖昧に回答するため、どのような信念をもっているのか、どんな国を作ろうとしているのか明確にイメージできません。

とはいえ、スピーチでの非言語はすばらしい。声もよく通り、抑揚があるため聞きやすい。眉毛の動かし方が絶妙で表情コントロール技術が高い。強調する部分では、ジェスチャーや目を見開いて注目度を高める技術もあります。筆者が最も評価するのはヘアスタイル。真っ黒にせずグレーを混ぜて落ち着いた雰囲気を出しつつ、分け目をつけずふんわりと仕上げて若々しさを演出、なかなかできない上級センス。服装も白を上手に着こなしています。パールもネックレスをする際には、イヤリングを外すといった基礎センスが身についているため、全体的に品よくまとまっています。お手本になる女性リーダーの姿といえます。上川氏の外見と高市氏の中身が一体となればまさに元英国女性首相サッチャーになります。

加藤氏は単調、質疑対応は聞きごたえあり

菅政権での官房長官を担った加藤勝信氏の出馬表明会見は9月10日。告示日の2日前でぎりぎりでした。1時間の会見のうち、30分を冒頭スピーチに当てていました。「国民の所得倍増」「日本総活躍プラン」とキャッチコピーを掲げましたが、どこかで聞いたことのある使い古された感のある言葉で新鮮さに欠けるコピーでした。内容も賃上げ、成長投資、新産業、同一労働同一賃金、と言葉の羅列でインパクトに欠けます。ゆっくりとしたスピードで聞きやすいのですが、単調でつまらなくなってきます。

ところが、質疑応答では俄然存在感が高まり、記者とのやりとりは緊張感が出てきました。記者も質問のしがいがあるらしく、次々と具体的に迫っていきます。「所得倍増ってどの期間が実現するんですか」に対して「倍増でも足りない。30年上がってこなかったから、10年、15年かかるかもしれないが、まずは強い意思決定と言い続けると実現する」の回答にはがっくりでした。やはりキャッチコピーか。突っ込みどころ満載で聞きごたえがあります。どことなく愛嬌があって親近感は湧いてきますので、インパクトのあるスピーチ力をつけていただきたい。

河野氏は力強さがあるが威圧感と暗さ、眉毛上げ運動を

河野太郎氏の出馬表明会見は8月26日。冒頭20分間のスピーチでは、世界情勢とご自身の実績。外交と実績を語るのが河野氏のスタイルで自信と力強さ、頼もしさを感じさせます。ですが、「世界における日本の役割を理解していただかなければならない」とやや上から目線の発言がどこか国民を見下しているようにも見えます。労働市場については、躍動感ある形にしていく、一人10万円デジタル投資をしていくと具体的でユニークではありました。

質疑応答で政治資金について問われると「返納でけじめをつける。報告書のデジタル化で透明性を高める」とシンプルな回答。意気込みやエネルギーの高さを感じませんでした。全体的に、眉間に皴を寄せて話をする時間が長いため、暗さや威圧感を与えてしまい、安心や安定、明るい日本がイメージできません。太く力強い眉毛を上にあげる機会を増やせば、眉間の皴も気にならなくなり、明るさを演出できるのではないでしょうか。

石破氏は断トツの貫禄と安定感だが、明るい未来が見えない

8月24日に地元鳥取の神社で出馬表明会見を行いました。5度目の挑戦となるため、違った風景を演出したかったのでしょうか。冒頭スピーチは10分間。「最後の戦いとして原点に戻る」と鳥取での出馬表明の理由を語り、総選挙では「不記載議員について公認するかどうか議論が必要」と論点を提示し、言いにくいことをストレートに言ってしまう石破節。

12日の告示日の所見表明では、国防を観念的に語るだけかと思いきや「地震対策強化は必要。体育館での雑魚寝は日本だけ。台湾は3時間でキッチンカーが来る」とイメージができる具体策も述べ、国民目線があることをアピールしました。質疑応答や論戦での安定感も抜群でした。とはいえ、明るい未来を感じられるかといえば、そうでもない。安定感があるものの新鮮さがなく、石破氏の話には引き込まれるものの、聞いたり見たりしても元気は出てこない。

茂木氏はスピーチ構成力抜群だが声に迫力なし

茂木敏光氏は9月4日に出馬表明会見を行いました。9人の中で最も意外だったのが、冒頭スピ―チ。「結果にコミットする」とCMのような印象的な出だしで、「3年以内に結果を出せなければ責任を取る」と実行力をアピール。続いて「政策活動費を廃止する」「1兆円の防衛増税見送り」と明言し、10分スピ―チながら強いインパクトを残しました。しかし、これでは現役幹事長が党の決定を覆す発言となってしまい、党内議員の反発だけでなく記者にも違和感を持たせてしまいます。いやそれも織り込み済みでしょう。茂木氏は党内反発よりも国民に向けて次への布石として存在感を示すためのイメージ戦略を優先したと思われます。

質疑応答力はどうでしょうか。「幹事長として責任あると思うが」に対して「政権を支え切れなかったことは謙虚に受け止める。危機感をもっているからこそ経験を生かしたい」と回答。「政策活動費をなぜ今頃になって廃止なのか。幹事長だったらもっと前にできたはず」に対して、「党勢拡大などで使ってきた。内容を検討した結果公開できると思った」としれっと回答。したたかにすり抜けていきます。

綜合的にみると、出だしや内容のインパクトは最も強かったといえます。しかし、表情筋が全く動かないため、目を見開くことがなく、声もお腹から出さず口先だけ、時々舌を出す癖もあいまって、迫力に欠けています。せっかくのジェスチャーが浮いてしまいます。もったいない。発声練習と表情筋訓練をすればパワーアップすること間違いなし。

表現力比較をまとめると、意気込みは高市氏と小泉氏、力強さは河野氏と高市氏、将来性は小林氏、まじめさ演出力は石破氏と小林氏、品の良さは上川氏、存在感は石破氏と河野氏、かわし力は林氏、加藤氏、茂木氏といったところでしょうか。自民党総裁選で一般国民は投票できませんが、総選挙が控えています。国民からの信頼を取り戻し、明るい未来を示せるリーダーを自民党は選出することができるのでしょうか。決戦は27日。

■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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