巨大IT企業を対象とした「デジタル税」が導入。どうなる?
ついに、デジタル税を課すことを宣した国が出た。
イギリスのフィリップ・ハモンド財務相は、10月29日に行った議会での予算演説で、2020年4月からデジタル税を導入すると発表した。何かと税金を払わないと見られていた巨大IT企業に対する課税は、どんな内容か。そして、どのような影響が及ぶか。
イギリスは、2020年4月から、世界売上高が年5億英ポンド(約720億円)以上のIT企業に対して、その売上に2%の税率でDigital Services Taxを課すと発表した。イギリスの財務大臣は権限が強いので、提案はほぼ通り、政権交代や大臣の交代がない限り、宣言通り課税されるだろう。
そもそも、EU(欧州連合)が提案したデジタル課税は、世界売上高が年間7億5000万ユーロ(約958億円)以上、EU域内の売上高が5000万ユーロ以上の企業に対し、EU域内で利用者が属する国ごとに、売上高の3%を課税するという案だった。詳細は、「『デジタル課税』が巨大ネット企業を襲う日」を参照されたい。
それに比べると、今回発表されたイギリスの課税は、対象は広く、税率は低い。それは、何を意味するか。
課税対象となるIT企業は、世界売上高が年5億英ポンド以上なので、ITベンチャー企業は対象外となり、もっぱらGAFAに代表される巨大IT企業といえる。
この課税で、イギリスでデジタルサービスが衰退するとみるのは早計である。その前例は、イギリスの「銀行税(bank levy)」だ。イギリスは、2011年1月から銀行税を課した。これによって、イギリスの銀行業が顕著に衰退したかというとそうではなかった。課税するといっても低率で課税するものだから、「企業側も仕方なく支払い、イギリスから逃げない程度に課税する」という形である。今回も、それを狙っていると思われる。
巨大IT企業が、イギリスの消費者を相手にした取引をやめることはないだろう。だから、巨大IT企業が、デジタル税の課税によってイギリスでのビジネスを店じまいすることは考えにくい。しかも、低率の課税だから、巨額の報酬を専門家に支払ってまでして巧妙な課税逃れをわざわざするより、そのまま政府の言う通りに支払った方がまし、ということになるだろう。
むしろ、他国への影響が大きい。イギリスほどの経済規模の国で、国際協調することなく単独で課税するとなると、それに追従する国が出てくる可能性がある。フランスやイタリアなどは、前掲のEU提案に賛同的だった。
ただ、EU加盟国でも、アイルランドやルクセンブルクなどは、そもそもデジタル課税に反対の立場だったから、引き続き課税しないだろう。
今しばらくは、デジタル課税について国際協調が進むというより、イギリスの状況を見守りながら、個々の国でどう対応するかを決める状況が続くと思われる。