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ネットで発見! 航空運賃の逆転現象

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
羽田空港で出発準備をする日本航空の国内線B787

日本旅行が面白いツアーを企画している。

東北のJR五能線で食とお酒と景色を満喫できる晩秋ツアー。

しかも現地集合現地解散。

秋田駅に集合して青森駅で解散という1日コース。

これは旅慣れた人向けのツアーに違いない。

そう思ってよく見ると、東京を始発の秋田新幹線「こまち」に乗って、新青森を最終の東北新幹線「はやぶさ」に乗って帰ってこられるようになっている。

なるほど、そういうことか。

というのもJR五能線というのは風光明媚な路線で、観光リゾート列車が走っているんですが、当然路線としては大赤字。

リゾート列車が1日数本走った程度では黒字になどならないのですが、実は五能線の役割は都会からのお客様に新幹線に乗っていただくこと。つまり、秋田新幹線で来て東北新幹線に乗って帰ってもらう、あるいはその逆のコースなどで往復の新幹線利用を含めて有効活用するというJRの営業戦略の一翼を担っているのです。

▼ツアーの宣伝ではありませんので詳細は述べません。ご興味がある方はこちらをどうぞ。

https://va.apollon.nta.co.jp/tsugaru-tetsudou/?fbclid=IwAR2IGkv6D8TqjJovsZjFMyDpeclBeh8duoMaBDsxbOZXNbkZUiVBsvX0lwE

でも、始発の新幹線で行って、最終の新幹線に乗せるためのツアーでもなさそうだし、実際にそんな駆け足で五能線へ行く人などいるはずもないだろう。

と思ったのですが、考えてみれば秋田も青森も飛行機が飛んでいる。

だったら始発の飛行機で秋田へ飛んで、最終の飛行機で青森から帰ってくればもう少し滞在時間も長くなるだろうし、余裕で日帰りできるのではないか。

そう思って航空会社のサイトをのぞいてみたのですが、そこで大きな発見をしました。

ここからが本題

往路は羽田から秋田まで飛行機に乗って、復路は青森から羽田まで飛行機に乗ったらいくらなんだろう。

JALのサイトを見るとこんな感じです。

11月某日の羽田→秋田
11月某日の羽田→秋田

同じく11月某日の青森→羽田
同じく11月某日の青森→羽田

これを見て皆様お気づきになりますでしょうか?

JALの飛行機には機種にもよりますが、機体前方に少しゆったりとしたクラスJという座席が付いています。

通常は普通座席の運賃より1100円~3300円(当日アップグレード料金、路線によって異なる)のクラスJ料金が加算されます。

ところが、羽田発秋田行の最終便である19:20発のJAL167便では同じ変更不可のセイバー運賃を見ると上段の普通席より下段のクラスJの方が安くなっています。

青森便も同じですね。

青森を11:40に出るJAL144便と、15:05に出るJAL146便では、同じ運賃カテゴリーのセイバーを比べてみるとクラスJの方が安くなっています。

他の路線も調べてみると

おや?っと思って他の路線も少し調べてみました。

▼同時期の羽田→小松線です。

羽田7:15発のJAL183便は通常通りクラスJが1100円高くなっていますが、その次の便以降はクラスJの方が安い。

驚いたことに、185便と187便はすでに満席になってはいるものの5000円以上もクラスJ方が安いのです。

▼羽田→宮崎便

こちらは逆に朝の687便はセイバー普通席26880円に対して、同じセイバーカテゴリーのクラスJは42170円と、通常この区間のクラスJ料金は2200円にもかかわらず15000円以上も高くなっています。

でも、よく見ると14:30発の693便では2310円クラスJの方が安くなっています。

こういうことはきっとローカル路線だから起きるのだろう。

幹線ではこういうことは起きないだろう。

筆者はそう思って大幹線である羽田→伊丹線を見てみました。

すると、始発便の101便でやはり逆転現象が起きています。

普通席が20400円なのに対してクラスJが16880円。

クラスJの方が3520円も安い。

気になったので午後便を見てみると15:00発の125便と16:20発の127便で逆転現象が起きています。

つまり、同じ便でありながら前方の上級座席の方が安く乗れるのですから、見つけた人は絶対に乗り得の便ということになりますね。

なぜ、こんなことが起きるのか?

日本航空に発生原因を尋ねてもまず教えてくれることはないでしょう。

筆者の友人の幹部連中もたいていは「鳥塚さん、よく見つけましたね。宣伝してくれてありがとう。」とニコニコ笑って受け答えしてくれるのが常ですが、ではなぜこういうことが発生するかというと、私の航空業界時代の経験から察するに、いわゆる今時の「AI」の能力ということになりましょうか。

11月の青森や秋田便というのは紅葉の季節の観光需要が旺盛な地域です。

旅行会社の団体予約の枠もあるでしょう。

つまり普通席の需要が多いのです。

予約の入り具合をAIが判断すると、普通席は「まだまだこれからも売れる」ということになります。まして残りが少ない。

これに対してクラスJはビジネス需要が多いのですが、週末ともなると出張客は激減しますから「これ以上予約が入らない。」と判断します。

団体枠などで残り少ない普通席はまだまだ売れる。→強気の価格設定

出張需要がない週末等のクラスJはこれ以上売れないかもしれない。→弱気の価格設定

これが逆転現象の理由でしょう。

羽田-大阪線のような幹線でも、やはり週末はビジネス需要が減って観光需要が増えます。過去の予約状況から判断して予約の入りずらい便というのがすでに記憶されていますから、その便のクラスJは割安になるのでしょう。

そして、予約が入りずらい便でも先日のバーゲンセールで普通席の多くの部分を安売りしてしまった便は、普通席の残り座席数が少なくなってきていますから、そういう便では何も残り少ない普通席を安く売る必要はありません。

したがって、このような逆転現象が起きていると推察されます。

必要なのは Revenue management ということ

Revenyu- Management(レベニュー マネジメント)つまり、収益管理のことですが、上記のようにまだまだ売れるだろう商品を高く売って、もう売れないだろう商品を安く売るというのは商売の基本として大切なことです。

特に航空機の座席というのは供給の保存ができない商品です。

通常の商品であれば今日売れなかったものを明日販売することができますが、座席という商品は今日売れ残った座席を明日販売するということはできません。

かといって、スーパーのお総菜売り場のように当日ギリギリになって「半額セール」というわけにもいきません。道行く人に向かって、「大阪、今なら半額ですよ。」と声をかけて売れる商品ではないからです。

だから、相当前からこのようにコンピューターが過去の傾向を判断して販売価格を設定して満席にしていくことは大変重要な販売方法なのですが、でもよく考えてみたら普通席もクラスJも同じ飛行機の中の座席配分の違いだけなのです。

日本航空の普通席
日本航空の普通席

例えばクラスJが5席残っていて、普通席が10席残っていたとします。

クラスJはおそらくもう売れないかもしれないから安くする。

普通席はまだまだ売れるだろうから高くする。

これが別々の売り場の商品ではなくて、同じ飛行機という同じ売り場の商品であるならば、その飛行機全体の収入を上げることを考えるべきだと筆者は考えます。

では、どうするか。

具体的には5席のクラスJの販売を止めます。

そしてエコノミークラスに追加して、合計15席をエコノミーとして販売します。

その方が同じ飛行機の売り上げとしては入ってくるお金が増えますね。

そうなるとどうなるか。

満席になった場合、普通席が5席足りなくなります。

普通席がオーバーブック状態になりますが、あとは空港での座席コントロールとして、普通席のお客様の中から、エメラルドやサファイアといった上級会員の方を個別にピックアップして、「いつもご利用いただきましてありがとうございます。本日は普通席が足りなくなりましたので、お客様はどうぞクラスJ座席にお座りください。」とでもご案内すれば、その方は上級会員であることの利益を得るわけですから、今後も上級会員の資格を維持しようと、会社に忠誠を尽くすようになる。

これが筆者の座席コントロールであり旅客ハンドリングです。

おそらく日本航空もそのぐらいのことはわかっていると思いますが、予約も空港も省力化が著しく、実際問題として人手不足ですから、国内線の一便一便にそんな手間をかけている暇はない、というのが実情でしょうね。

でも、このような逆転現象が起きるというのはAIの能力がまだまだそこまで配慮できていないということだと思います。今後、一つ一つAIの学習が進んでいけば、やがて近い将来にAIのRevenue Managementのスキルが向上するのは明らかですから、そうすればこのような逆転現象もみられなくなるでしょう。

インターネットを細かく注意してこういう逆転現象を探すことができれば、上級クラスで安い旅ができる。そういう時代も、今だけかもしれません。

皆様、秋の行楽シーズン、お得な旅を探してお楽しみください。

※本文中に使用しました写真は筆者撮影のものです。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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