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「芸武両道」の高校生がいてもいい!? 高野連のダンス処分問題がナンセンスな理由

大島和人スポーツライター
(ペイレスイメージズ/アフロ)

川淵氏が激怒した野球部員のダンス処分問題

スポーツと芸能は似ている。こう書くと「神聖なスポーツと芸能活動を一緒にするな」と異論が飛んでくるかもしれない。しかし人間がその身体で何かを表現、発信する大枠に違いはない。

スポーツ選手と俳優、モデルなど人に見られる仕事の適性は実際にかなり重なる。スポーツ選手は総じてスタイルがよく、エネルギッシュで、身体の動作に長けている。男女関係なく高いレベルのスポーツ経験を持つ芸能人は多い。スポーツ選手の血縁者が芸能人として成功した例も無数に挙げられる。

昨年12月、高知県内で引退した高校の野球部員がダンス発表会に参加する“事件”が起こった。日本高校野球連盟(高野連)はユニフォーム姿で踊ったこと、500円の入場料を支払う有料イベントだったことなどから、これを「商業的利用」として問題視していると聞く。川淵三郎元日本サッカー協会会長が高野連側を厳しく批判していることも含めて、経緯をご存じの読者は多いだろう。

高校球児は「報道以外」の活動に制限

高校野球に詳しい人なら、そのような制限に対して違和感を持たないだろう。学生野球憲章の第2条4項にはこうある。

「学生野球は、学生野球、野球部または部員を政治的あるいは商業的に利用しない」

また第24条3項にもこうある。

「加盟校、野球部、部員、指導者、審判員および学生野球団体の役員は、報道目的以外の取材に対し、学生野球に関与している事実を示して、新聞・通信、テレビ・ラジオ、出版などに関与する場合には、全日本大学野球連盟または日本高等学校野球連盟の承認を得なければならない」

もちろん報道番組の出演までは禁じられない。高野連の許可を得た上で、指導者が講演などで報酬を得ているケースもある。ただし一般論として高校球児の芸能活動は容認されないし、不注意によるバラエティ番組の出演などで処分された例が過去にあった。ダンス発表会が商業活動、芸能かどうかは別にしても「報道以外」のジャンルに入ることは間違いない。

制限を受けるのは部員、指導者に限らない。タレントの磯山さやかさんは高校の野球部でマネージャーを務め、また在学中からタレント活動をしていた。しかしマネージャーだろうと野球部員は芸能活動禁止で、発覚すれば部長や監督が処分を受けた可能性もある。

「有料イベントがダメなら、甲子園はどうなんだ?」

「ダンス部、応援部は野球に協力させて、野球部員が応援部に協力するのは駄目なのか?」

そういった突っ込みは妥当だ。ただ現実として野球は学生スポーツの中でも例外的な地位を築いていて、高体連の傘下にある他競技とは違う「独自の理論」も通用している。

他国、他カテゴリーでは有力選手の芸能活動も

2014年に台湾で大ヒットし、日本でも上映された『KANO』という映画がある。1931年夏の全国中等学校優勝野球大会で快進撃を見せた嘉義農林の実話をもとに、日台の俳優が参加して作られた作品だ。主役級の呉明捷(アキラ)役を演じた曹佑寧は輔仁大学を休学して撮影に臨んだが、実は14年の第1回21U野球ワールドカップにチャイニーズタイペイ代表として参加しているバリバリの現役選手だった。

チャイニーズタイペイは決勝で日本を下して同大会を制し、曹は鈴木誠也(広島)や上沢直之(日本ハム)らとともに優秀選手に選ばれている。台湾に学生野球憲章があったならば、このようなダブルキャリアは認められなかっただろう。

日本にも米谷真一(日本製紙石巻)という選手がいる。彼は子役として映画『バッテリー』に出演をした経歴を持ちつつ高校、大学は野球に専念。城西国際大のエースとして2015年の大学野球選手権に出場し、勝利も挙げた。最近も国民的な人気者だったある子役が野球を頑張っているとも聞くし、芸能人とタレントのダブルキャリアは日本でもあり得る話だ。

バスケのBリーグなら東京八王子ビートレインズのセオン・エディ選手が「元ジャニーズジュニア」という経歴の持ち主だ。彼はアメリカの名門コロンビア大を卒業し、プロバスケ選手になる前はコンサルタントを務めていた文武両道の実践者でもある。

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B2八王子のセオン選手 写真=B.LEAGUE

昨年限りで引退してしまったが、世界8か国でプレーした斎藤陽介というプロサッカー選手がいた。彼は横浜F・マリノスユースでプレーしていた高3の春に、ある大会を欠場した。ファンがコーチに理由を尋ねると「ピアノの演奏会」という答えが返ってきたと聞いたことがある。それまではサッカーを優先していたが、ピアノを辞める前に最後は音楽を優先したのだという。

J1大分トリニータの島川俊郎選手もクラブのイベントで見事な弾き語りを何度か披露しているが、「スポーツと音楽」のダブルキャリアもあっていい。

「芸の道」から得られるポジティブな影響

芸事は技だけでなく心を磨く。「人に見られる中で何かを表現する」経験は人を鍛える。映画出演だろうが、ダンスの発表会だろうが、それは変わらない。川淵氏自身も小中学生時代は演劇活動にも打ち込み、NHKの放送劇に出演した経歴を持っている。引退後も含めて、その経験がスポーツ界における活躍につながっているように思う。

もちろん高校生は未成年で、本分は学業。親や学校の方針で校外活動を制限することも一つの見識だ。芸能界を「子供には危ない業界」と感じる懸念も理解できる。とはいえすべての活動を一律で禁止することは、様々な可能性の芽を摘みかねない愚行だ。少なくとも学校のダンス部がささやかに行う発表会への参加まで禁止する必要はない。

この国はそもそも野球に限らず、他に目を向けず一事に集中する「一意専心」を尊ぶ発想が強い。野球以外に目が逸れる球児を不真面目と排する指導者が多い。例えば中学時代に100メートル走で日本一だった球児も過去にはいたが、高校に進むと陸上を捨てている。もちろんそれが本人の意思ならば仕方ない。しかし日本は複数の種目を掛け持ちする「武武両道」が高校より上になると皆無で、アスリートの才能を無駄遣いしている。

ルールを変えるプロセスは見えないが……

学生野球憲章が戦前の軍部、戦後の進駐軍を含めた様々な圧力から選手を守るために成立した経緯は理解できる。昭和は「興行」に様々なしがらみ、コンプライアンス上のリスクがあった時代で、学生野球がそこから一線を画そうとした判断も妥当だ。

一方で高野連も含めて学生野球に関わる人々が慣例に流され、ルールの順守を手段でなく「目的」と取り違える現状は残念だ。学生野球憲章の条文に盲従するのでなく、そのメリットとデメリットを熟慮し、その意義を問い直さなればいけない。

もちろん「いかにルールを変えるか」は難題だ。そもそも高野連は「誰が、どういう理由で、こう動かしている」という組織の原理が外から見てよく分からない。意思決定や執行の主体が八田英二会長なのか、竹中雅彦事務局長なのか、そもそも朝日新聞なのか、ガバナンスの仕組みが見えない。

高校野球に関わる一人一人は善意、自己犠牲の持ち主である例が多い。だが「出過ぎた杭は打たれる」という不安をそれぞれが持っているのではないか。前向きな行動にブレーキがかかり、「今までこうやってきたから」「決まりだから」という思考停止を起こしがちな傾向も見て取れる。

学生野球界には主張をぶつけたくても、その「的」になるものがない。その未来に責任を持って行動をする「旗振り役」が見えない。高校野球についていえば、その庇護者たるメディアグループの経営に何事かが起こるまで、根本的な変化は難しいのかもしれない。

しかし文武両道があるなら、芸武両道があってもいい。現役野球部員がダンスや音楽で活躍してもいいし、今の時代ならYoutuberとして人気者になってもいい。野球だけ、スポーツにすべてを賭けて打ち込む姿勢も是だが、色々なチャレンジするからこそ得らえる学びもある。そこは強く訴えたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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