【世界史】「あの旗は・・よし、これで勝てるぞ!」将兵をふるい立たせ戦いを勝利へと導いた伝説の旗・3選
映画やアニメの、歴史もの・・あるいは現実世界の"国旗"などもそうですが、国や集団の象徴というものは、様々なところで目にすることがあります。
戦いのときには、お城の高台や戦場の陣地に翻っているイメージもありますが、ときにそれはただのシンボルという意味合いを超え、戦いの勝敗をも左右するほどの威力を発揮することがあります。
有名な例では幕末に、新政府軍が“錦の御旗”を掲げ「われらの正義は、天皇に認められている」ことをアピール。味方の士気は一気に高まり、逆に敵対する可能性もあった多くの勢力が、戦わずして平伏したエピソードがあります。
このように、この記事では目にした人間を奮い立たせ、今なお伝説として語り継がれる旗を、世界史スケールで3つご紹介したいと思います。
【聖マリア旗】~救国の少女・ジャンヌダルク~
現代では直接に戦い合うことはないヨーロッパの強国、イギリスとフランスですが、世界史をふりかえると両国はなんども、死闘を繰り広げてきました。
ときは15世紀、戦況がイギリスへと傾いて、フランスが大ピンチを迎えた時期がありました。海を越えて本来のフランス勢力圏にも、支配地域を拡大。
そうした中で、フランス側の重要な港湾都市“オルレアン”がイギリス軍に包囲され、この急所が陥落すれば、そのまま突き崩されてしまう窮地に追い込まれたのです。
イギリス軍はオルレアンの周囲にいくつもの砦を構築、長期戦にも備えた万全の攻略体制を築きました。
そこにフランスの救世主として登場したのが、ジャンヌ・ダルクと言われます。フランス軍はひたすら「どうやって守り切れば・・」を考えていたところ、彼女は逆に攻める作戦を主張。
フランス将兵を前にして、高らかに宣言しました。「私は神よりフランスを救えと、お告げを授かりました!われらには神のご加護がついているのです!」。
そして高台に聖マリアの旗を掲げると、フランス軍は奮起してイギリス軍へと攻めかかりました。
「相手は守りを固めている」とみなしていたイギリス軍は、かんぜんに不意をつかれた格好になり、オルレアン攻略の要としていた砦が陥落。そこから攻守は逆転し、イギリス軍は撃破されて撤退。この勝利に、フランス全体が息を吹きかえしたのでした。
かくしてジャンヌダルクは救国の少女と呼ばれ、今の世にも語り継がれる伝説となりました。なおジャンヌダルクを描いた絵には、彼女が旗を手にしているものが多いですが、それはこのエピソードによるものです。
【アメリカ星条旗】~悪夢の一夜を乗り越えて~
アメリカとイギリスと言えば、現在は同盟関係の間柄であり、近しいイメージを抱く方も多いと思います。しかし、かつては互いに激しく争い合った歴史があります。
もともと今のアメリカはイギリスの植民地だった過去があり「総主国の我々に従いなさい」と迫る英国と「我々は支配を受けず、自由にやる!」と反発するアメリカは全面衝突したのです。
しかし、かつてのイギリスは、世界に冠たる大英帝国です。対するアメリカは今ほど強くはなく、苦境に立たされます。
ついにはワシントンにまで攻め込まれ、ホワイトハウスに火が放たれたり、議会図書館が丸焼けとなり、すべての蔵書が消失するといった事もありました。
そうした、世にいう米英戦争の決め手となったのは、ボルティモアの戦いと呼ばれるものです。この一帯はアメリカの重要な港湾都市があり、砦を築いて守っていました。
砦には特大サイズのアメリカ国旗が掲げられ「ここは絶対に守り抜く!」という意志表示の様でしたが、イギリスの艦隊は海から砦に砲撃。
その猛攻撃は24時間以上にわたり、夜通し続いたといいます。アメリカ軍の立場からすれば「ひいぃ、助けてくれ!」と言う心境だったと想像できますが、これを必死に耐え抜きました。
そして夜が明けると、高台には戦闘前と変わらずに翻る、星条旗の姿が。
それを目の当たりにしたアメリカ兵は「やった、俺たちは守り抜いたぞ!」と歓喜し、逆に英軍は「これほどやっても、陥落しないとは・・」と攻略の厳しさを悟って退却しました。
これを節目に、アメリカは独立を守り抜く結果となったのです。なお、この変わらず立っていた星条旗に感動したと、ある人物が詩を書き、それが現在もアメリカ国歌の歌詞となっています。
「あの星条旗が見えるか?夜通し砲撃をされたけども、変わらずに立っているぞ!」というエピソードが、夜明けという希望を感じる状況とも合わさって、今なおアメリカ独立の象徴となっているのです。
【Z旗(ぜっとき)】~背水の陣でふるいたつ~
ラストは、かつて私たち日本の命運を左右する戦いで、使われた旗をご紹介します。黄、青、赤、黒とやけに目を引く色合い。かつて日露戦争の終盤に、ロシア帝国と雌雄を決する日本海海戦にて掲げられたのが、このZ旗です。
Zはアルファベット最後の文字であり「もう後がない、最終決戦だぞ!」という意味が込められています。当時の日本を見れば、資金も弾薬も尽きかけた満身創痍でしたので、名実ともに背水の陣でした。
ここで日本海軍が使ったのが「肉を切らせて骨を断つ」T字戦法と呼ばれる作戦ですが、陣形が完成するまでは無防備の状態を砲撃されるという、たいへん危険な賭けでした。
将兵とも並みの覚悟では臨めませんが、このZ旗と、そこに込められた「皇国の興廃この一戦にあり」というメッセージは海兵たちの士気を高め、決死の作戦へ挑む覚悟を与えました。
結果、日本艦隊は圧倒的な大勝利をおさめ、世界中を驚かせました。
・・なお、このZ旗は日露戦争の100年前にイギリス軍の“ネルソン提督”という人物が、英国の制圧を目指すナポレオンが差し向けた大艦隊との決戦(トラファルガーの海戦)で、使用したと伝わります。
結果、イギリス艦隊は勝利しましたが、率いていたネルソン提督は戦死してしまい、今なお称えられる祖国の英雄となりました。
現在はそこまでメジャーな表現ではありませんが、「決死の覚悟で一丸となる」ことを意味して「Z旗を掲げる」という言い回しが、日本語の慣用句としても存在しています。
シンボルを超えた旗たち
以上、歴史において戦局に大きな影響を与えた、“伝説の旗”について、3つのエピソードをご紹介しました。
通常、旗といえばただの目印にも思えますが、使い手の知恵や状況次第では、大勢の心理を変えてしまう力を発揮します。
歴史に触れるとき、こうした旗印やエンブレムにフォーカスして見てみるのも、様々な背景が浮かび上がり、面白い1つかも知れません。