名古屋めしだけじゃない。名古屋の人気飲食チェーンはキャラクターも熱い!
名古屋といえば独自色あふれるご当地グルメ、“名古屋めし”が全国的にも知られています。そして、実は食べ物だけでなく地元外食チェーンのマスコットキャラクターもまた個性を発揮しています。
ラーメンの「スガキヤ」のスーちゃん、味噌かつの「矢場とん」のぶーちゃん、手羽先の「世界の山ちゃん」の鳥男、唐揚げの「がブリチキン。」のがブ吉。これらは店舗の文字通りの看板役であるだけでなく、様々なグッズ展開も盛んで、ユニークな名古屋みやげになっているものも少なくありません。
飲食店のキャラクターというと、大阪のくいだおれ太郎が“ローカル出身”ではおそらく最も有名。とはいえ、「くいだおれ」の店自体は2008年に閉店し、キャラクターだけがおみやげグッズとして残っている状態です。対して名古屋では、定番だったり伸び盛りだったりするチェーンが、オリジナルのキャラクターでもグッズ開発、商品展開を積極的に図っているケースが目立ちます。
「ブランディングのためにキャラクターを作る飲食店は少なくありませんが、長続きしている例は全国でもあまりありません」というのはブランディングプロデューサーのDDR(愛知県岡崎市)・安藤竜二さん。「“ブランド=約束”ですが、定着するまで我慢できずに途中でキャラクター設定がブレてしまい、約束事を守れないケースが多いのです」。
その理由として「外食ビジネスははやりすたりが激しく、企業の体質として飽きっぽい会社が多い」と指摘する安藤さんですが、名古屋では少々事情が異なるといいます。「名古屋めしの有名店などメインの業態、商品で長い時間をかけて信頼を築いてきた会社が多く、そういう企業が古くからいろいろなグッズも作っている。名古屋は本業と同様に、キャラクターに関しても長い目で育てていこうという気持ちが強いのではないでしょうか」
スナック菓子は今や定番・名古屋みやげ。「世界の山ちゃん」の鳥男
商品展開の幅広さで群を抜いているのが手羽先チェーン「世界の山ちゃん」です。手羽先味のコラボスナック菓子は今や定番の名古屋みやげとなっていて、その他Tシャツや鳥男のバッヂや携帯ストラップといった雑貨類などアイテムも多数。いずれも創業者をモデルにしたキャラクター「鳥男」がインパクトあるアイキャッチの役割を果たしています。
「売れ筋はスナック類で、キヨスクやスーパー、高速道路のSAPA、おみやげ店などで販売しています。店舗の看板にもドン!とキャラクターを掲げているので、常連さんも、お店に来たことがない方も“あ、山ちゃんだ”と認識してくださり、手に取ってくださいます」と経営元のエスワイフード営業企画部の青山久美子さん。
パンチのきいたキャラクターがおなじみになっている理由については、「名古屋の人は派手好きだから、インパクトのあるキャラクターでもそれほど違和感なく受け入れてくださるのかも」ともいいます。名古屋みやげとしてもウケているということは、県外の人もド派手なキャラクターに金シャチにも通じる名古屋らしさを感じているのかもしれません。
お客だけでなく社員にも愛される「矢場とん」のぶーちゃん
味噌かつの「矢場とん」は昭和22年創業の老舗にして、近年は出店ペースが加速し、東京、大阪、博多、富山など全国に25店舗を出店(テイクアウト店含む)。キャラクターのぶーちゃんは、創業時に既に店舗の看板に描かれ(当時の名前は「横綱ぶた」)、Tシャツの商品化も20年以上前から。2012年には着ぐるみも登場するなど、2000年代以降の多店舗展開の本格化にともなって店の“顔”としての存在感は増しています。とりわけTシャツはカラーバリーションが豊富で、人気アーティストが色違いで揃えてステージ衣装として着用するなど、名古屋LOVE をアピールするのに格好のアイテムとしても重宝されています。
「創業者が店を始めた当初から大事にしてきたキャラクターを、2代目の女将さんと3代目の現社長が進化させてきた。これで儲けようというものではなく、社員もこのキャラクターが好きでグッズを作っているんです」と広報の鬼頭明嗣さん。
看板やグッズだけでなく、店内のすりガラスの模様、イスの背もたれ、エレベーターの扉の模様、呼び鈴、はては玉子焼き用の焼き印などにもぶーちゃんが使われているほど。これだけぶーちゃんに囲まれていたら、社員の皆さんも自然と愛着を感じるようになるはず。ぶーちゃんグッズは、そんな思いをお客にも伝えるためのアイテムと位置付けられるようです。
東急ハンズでも商品化。飛ぶ鳥を落とす勢いの「がブリチキン。」のがブ吉
店舗展開でもキャラクターグッズ開発でも、名古屋で今最も勢いがあるのが「がブリチキン。」、通称「がブチキ」(経営/ブルームダイニングサービス 以下「BDS」)です。1号店オープンから8年目のまだ新しい店舗ブランドながら、今や全国に70店舗以上を展開。キャラクターのがブ吉を活かしたグッズも、食品から雑貨までこれまでにおよそ30アイテムが作られています。
「ベンチマーク(目標・指標)は他社の飲食業態ではなく、アイスキャンディーのガリガリ君とチョコボールのキョロちゃん。遊び心があってくすっと笑えるキャラクターに育てたいと当初から思ってきました」とBDS代表取締役社長の加藤弘康さん。スナックや鉛筆などのがブ吉グッズをイベントで無料配布するなどして認知度を高め、近年は店頭などで販売する商品の開発も積極的に行っています。
これを後押ししているのが東急ハンズ名古屋店。独自に開発したコラボグッズを加えて、がブチキ専用コーナーを設ける力の入れようです。
「『世界の山ちゃん』や『矢場とん』に次ぐ勢力になり得ると期待しています。キャラクターがキャッチーでうちで販売する雑貨にも合っている。外食チェーンとしてもっと伸びていくでしょうし、その勢いに乗ってグッズも名古屋みやげのひとつに育てていきたいと考えています」と東急ハンズ名古屋店・雑貨コーナー担当の畑中進さん。
地元愛をくすぐる「スガキヤ」のスーちゃん
こうしたキャラクター商品戦略に熱心なチェーンに対し、独自路線を行くのがラーメンチェーン「スガキヤ」です。シンボルマスコットのスーちゃんの誕生は昭和33年。創業10年目に一般公募で寄せられた図案を元にキャラクター化され、以来、テレビCM、店舗の看板、そして袋めんやカップめんなどの商品パッケージにもれなく起用されています。
アイコンとしてすっかり浸透しているスーちゃんですが、意外やキャラクターグッズやコラボ商品の販売はほとんどありません。グッズは基本的にキャンペーンなどの際に進呈するノベルティーに限られます。
「ラーメン1杯320円というをお求めになりやすい価格で、変わらぬ味でご提供する。ここに企業努力のすべてを注力しています。スーちゃんグッズを売り出せばある程度の需要はあるとは思いますが、商品化が社内で議題になったことはほとんどありません」とスガキコシステムズ広報担当の吉田博之さん。
スガキヤのラーメンは、名古屋および愛知では食べたことがない人はいないほどのソウルフード。約340店の大半が東海地区のショッピングモールのフードコートで、ターゲットは地元のファミリーをはじめとする老若男女。他の名古屋めしと比べて観光客がわざわざ食べに行くタイプのグルメではありません。キャラクターグッズの展開が顧客限定なのは、そんなチェーンとお客の関係性にマッチしているといえるでしょう。
スーちゃんの愛され方もまた、そんな地域密着の姿勢が反映されているのではないかと吉田さんはいいます。「名古屋・愛知県の人はすごく地元好き。スーちゃんに対しても、地元の企業のキャラクターだから、という理由で愛着を感じてもらっているのではないかと感じます」。
名古屋めし人気でキャラクター展開も活発に。次なるキャラはあの…?
名古屋で外食チェーンのキャラクター戦略が盛んになった背景には、名古屋めしの知名度、人気の向上があります。2005年の愛知万博開催前後から名古屋のご当地グルメが脚光を浴び、観光客がこぞって名古屋めしの人気店に列をなすようになりました。味噌かつや手羽先など個性的な郷土料理の数々は、今や名古屋で一、二を争う観光資源になっています。
「世界の山ちゃん」「矢場とん」はいずれも長年地域で盤石の支持を得てきた店舗ですが、観光客の来店が急増するのに対応し、インパクトの強いキャラクターを前面に打ち出すことが、PR策としてより効果的になったのだと考えられます。
地元で長く愛され、近年は他地域の人にもアピールできるものになっている。これは名古屋めしの受け止められ方の変化にもそっくり当てはまります。となると、名古屋の外食企業のキャラクター展開は今後いっそう活発化することが期待されます。個人的には、スーちゃんはもっとグッズ化されてもいいと思いますし、次なるブレイク候補として、「コメダ珈琲店」もコメダおじさんのグッズの商品化、販売に今後力を入れると面白いのではないかと思っています。
個性あふれるキャラクターの活躍で、名古屋めしへの興味や愛着がより深まる。こんな相乗効果で、名古屋めしをよりおいしく、より楽しく味わっていただきたいものです。
(写真はすべて筆者撮影)