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老人ホームに父親と母親が一緒に入居したらまさかの大ゲンカ! 入居は1人で? 2人で?

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
両親の仲が良いとは限らない……(写真:イメージマート)

 親に介護が必要になると、その度合いによっては施設介護を検討することがあります。親が1人暮らしの場合は、1人で入居しますが、2人暮らしの場合は? 公的な特別養護老人ホームなどは基本1人部屋(もしくは多床室)ですが、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅には2人で入れる居室もあります。どちらを選択すればよいのでしょう。

自宅に居たときは険悪ではなかったのに

 例えば、父親に介護が必要となり、母親がその介護をしているとしましょう。子としては、母親が共倒れをしないかと心配なものです。疲れている様子が見えてくると、「施設に入るほうが良いのでは……」と考えます。その結果は?

Aさんの両親のケース:

 Aさんの両親(父80代,母70代)は実家で2人で暮らしていました。父親は「他人の世話にはなりたくない」と頑なで、要介護認定は取っているもののホームヘルプサービスもデイサービスも利用しておらず、母親が介護。Aさんとしては、これ以上、母親の負担が増すと母親までもが倒れてしまうのではと心配でした。そこで、父親を高齢者施設に入居させようと画策。

 母親としても疲れはピークだったようで、「私も一緒に入るから、老人ホームに入りましょう」と父親に言いました。渋々ながら、父親は頷き、晴れて、両親は有料老人ホームの2人部屋に入居。

 ところがです。Aさんは苦虫を嚙み潰したような表情で「僕の考えは甘かった」と言います。

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

 施設に入居しても、当然ながらスタッフが24時間体制で居室に居るわけではありません。場所が変わったことで、父親は家に居た時以上に、母親を頼るようになりました。トイレ介助も母親に頼みます。

 母親は施設に入居したことで、家事負担は軽減。しかし、時間ができたことで、父親と向き合う時間が増えました。施設内ではサークル活動も行われていますが、父親を居室に残していくと、父親は不機嫌に。

 自宅にいた時は、父親のことでイラ立つことがあると、母親は2階に避難。1人の時間を確保していましたが、それもできなくなりました。とうとう、母親は「家に居た時の方がまし」とブチ切れました。話し合った結果、クーリングオフの期限の切れる直前に施設を退去して、自宅に逆戻り。「父親の介護度が上がったら、多少強引にでも父親だけ施設に入居させるつもりです。その前に、ホームヘルプサービスやデイサービスを使わせたいと思っています」とAさんは話します。

Bさんの両親のケース:

 Bさんの両親(80代)は実家で2人暮らし。どちらも気持ちは元気なのですが、足腰が弱っており、しかも、自宅はバリアフリーとは程遠い作り。話し合いを重ね、両親揃って、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に住み替えを決意しました。

 2人部屋に空きはなかったので、隣接の個室に入居。しかし、Bさんが「やれやれ」と思ったのもつかの間、サ高住のスタッフから「何とかしてほしい」と電話がかかってくるようになりました。

 日中、父親は母親の居室に行き、2人で過ごそうとするのです。両親は、特に仲が悪かったわけではないのですが、母親は「自分の部屋へ帰ってよ」と父親に言います。父親が従わないため、母親の声はどんどん大きくなり、最後には言い争いに。2人の大声が共用スペースにまで響くのだとか。何度か、Bさんはサ高住に駆けつけ、両親の仲裁をしましたが、うまくいきません。「家では、母は父に逆らうことはありませんでしたが、施設に入ったことで、たがが外れたというのか……」

 そして、とうとう母親が父親になぐりかかり……、大ゲンカに。サ高住のスタッフと相談し、母親を3階の対角線上の居室に移してもらいました。父親の居室は1階にあり、足が弱っているので、2人の距離を確保することに成功。ケンカは一件落着。「ぼくが行くと、『母さんはどこへ行ったんだ』と父がうるさくて。かわいそうな気もしていますが……」とBさん。

2人部屋と言っても、通常、自宅より狭い
2人部屋と言っても、通常、自宅より狭い写真:イメージマート

2人部屋のメリット・デメリット

 AさんとBさんの両親のケースから、2人部屋のメリット・デメリットを考えてみましょう(Bさんの両親は隣接した居室でしたが、2人部屋だとさらに問題は大きくなったでしょう)。

メリット

1. いつも一緒に居られる

2. 共用スペースに行かなくても、1人じゃないので気が紛れる

3. 通常1人部屋を2室契約するより、利用料が安い

デメリット

1. ホテルのツインルームのような空間なので、顔を突き合わせている時間が長くなる

2. 相手にイラだった場合、逃げ場がない(共用スペースが逃げ場となれば解決)

3. 居室にスタッフが常時いるわけではないので、入居してまで元気な方が介護を続けることになりがち

 1と2は、メリットとデメリットが裏返しの関係です。どちらに転ぶかは、両親の関係性や性格によります。

 メリットの3は費用面のことです。一般的に、2人部屋を1室の契約の方が個室2部屋より利用料はお安いといえます(ただし、どちらかが死亡した場合に、料金はどのようになるかは施設ごとに異なるので、契約時に確認が必要)。

 一方、デメリットの3は、要注意です。施設に入居すれば「至れり尽くせり介護してもらえる」と考えがちですが、そうはいきません。例えば、トイレに行くのに介助が必要だとしましょう。呼べば、スタッフが来てくれるところもあります(契約形態によっては、お願いできない場合もあります)。しかし、いちいち呼ぶでしょうか。介助できる者が傍にいれば、その者が対応することとなりがちです。

配偶者に「施設に入って」とは言いにくい

 両親の関係性や性格、それに介護の必要度合いもからむので、必ずしも2人部屋がNGというわけではありません。幸せに暮らしている夫婦もいます。けれども、2人の関係性が良好とは言い難い場合、あるいは要介護度が著しく異なる場合は、揃っての入居は慎重に。両親を引き離すことにためらいを感じることも多いと思いますが、離れることで関係は良くなり、笑顔で面会できるケースもあります(コロナ禍では、面会ができず難しい選択となりますが……)。

 よく相談しましょう。ただ、配偶者に対し「あなただけ施設に入ってほしい」とは口にしにくいようです。施設に対して“姥捨て山”のようなイメージを抱いている人もおり……(実際には、そんなことはありません)。「夫(妻)だけ施設に入れるのは見捨てるようなものだ」という思いにとらわれ、入居を勧めることをためらうのです。親と話し合うときには、表面上の言葉だけでなく、内面の声にも耳を傾けましょう。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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