返さない、返した、大谷翔平のホームラン球は、どこまで、本物認証してもらえるのか。
ドジャースの大谷翔平は、オールスター前までに今季29号、メジャー通算200号本塁打を打ち、16日のオールスター戦でも、球宴初の本塁打を放った。
外野席で観戦しているファンにとって、ホームランボールをキャッチするというのは、試合観戦の醍醐味である。応援しているスーパースターの本塁打ボールならばなおさらのことだろう。
今年4月、大谷翔平のドジャース移籍後第1号の本塁打でボールを巡って、ボールをキャッチしたファンと球団の間でコミュニケーションの行き違いがあったことは記憶に新しい。ジ・アスレチックなど、いくつかの報道によると、球団側が、ボールを返さない場合は記念球と鑑定しないと説明し、ファンに本塁打球を渡すように交渉したという。最終的には、このファンは、大谷と面会し、サイン入りのバットなどをもらった。
それでは、もしも、ボールをキャッチした人が大谷の記念の本塁打球を球団に返した場合、そのボールは本物認証されるのだろうか。
大谷は球宴直前の7月13日のタイガース戦で、敵地コメリカパークの右翼ポール際に今季29号、メジャー通算200号本塁打を放った。このボールを拾ったのは、デトロイト近郊に住むエリック・ワインクープさんで「ボールにサインをしてもらって自分のものにできたら最高だが、彼が望むなら快くボールを返す」と話していた。
ワインクープさんは、求められればボールは渡すつもりだったので、デトロイト側の球場のスタッフに呼び止められたときも全く揉めることがなかった。その後、ドジャース側のスタッフとともに関係者スペースへ移動。ドジャース側から、本塁打球と引き換えにサインボールやTシャツなどが贈られた。
このボールは本物認証を受けたのか。
そのまえに認証システムを簡単にご紹介しよう。メジャーリーグは2001年から Major League Baseball Authentication Programというプログラムによって、ホームラン球、サインボール、着用済みユニフォームなどの本物認証を開始した。
現在、メジャーリーグには200人以上の認証者がいる。認証者はほぼ全員が元警官か警官である。偽の認証者が紛れ込まないように、球団、選手はこの認証者たちの顔を知らされている。どの試合にも少なくとも数人の認証者が立ち合っており、たいてはダグアウトのすぐ近くのスペースで待機し、ボールの行方を確認し、間違いなくそのボール、そのボールであることを確認しながら、ボールボーイ等から受け取る。
そして、すぐさま番号を記録し、本物を認定するホログラムシールを貼っている。着用済みユニフォームを集めるときには、選手がユニフォームを脱いだところを手渡ししてもらうか、洗濯用のカートに入れる瞬間に回収している。そして、球場内の売店やMLBのオンラインオークションなどで販売しているのだ。
デトロイトを拠点にする認証者に、ホームラン球の本物認証についてたずねると、以下のような答えが返ってきた。
ブルペンなど、ボールがはっきりと確認できるところに落ちたときだけ本物認証を行う。打球が観客席に飛び込んだ場合は、 Major League Baseball Authentication Programは関与しない。拾った人に返してくれるかどうか交渉するのは球団であって、Major League Baseball Authentication Programではない。
大谷のメジャー通算200号本塁打球は、無事にドジャース側に戻った。ジッパーつきビニール袋に入れられ、その袋には油性マーカーで日付などが書かれていた。しかし、このボールもMajor League Baseball Authentication Programは本物認定しない。その理由は「ボールをキャッチした人、キャッチした人が球団に返すプロセスにおいて、我々はボールが入れ替わっていないことを保障することができない」ということだった。
もともとMajor League Baseball Authentication Programは、偽物が売られるのを防ぎ、本物の価値を守るために始まったものだ。本物認証がなくても、その人がボールを捕ったという体験は誰にも奪えないし、第3者に価値を証明するつもりのないとき(売るつもりがないとき)には、本物認証がなくても、当事者だけがその価値をわかっていればよいということにもなるだろう。