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大谷翔平の手術が理解できる苦労人。ドジャースのダニエル・ハドソンに話を聞いた。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 37歳218日、ベテラン右腕のダニエル・ハドソンは、メッツとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第1戦で2番手として1イニングを投げた。安打と四球は与えたが、無失点で切り抜けて役割を果たした。

 ハドソンは望まざる、稀な経験をしたピッチャーだ。

 野球選手が肘のじん帯を損傷したとき、トミー・ジョン手術と呼ばれる側副靱帯再建術を受けることは全く珍しくない。ハドソンもダイヤモンドバックス時代の2012年7月に手術を受けた。通常、1年から1年半のリハビリ期間を経て復帰する。ハドソンは手術から11カ月後の2013年6月にマイナーで手術後初のリハビリ登板をしたのだが、なんと、このリハビリ初登板で再び肘のじん帯を損傷してしまい、2度目の手術を受けたのだ。彼のこの時の様子は、ジェフ・パッサン著の『豪腕』に詳しく書かれている。

 今年の夏、ハドソンにトミー・ジョン手術について話を聞く機会があった。チームメートの大谷翔平も2度のトミー・ジョン手術を受けている。2人の2度目の手術に至った経緯は違うものの、ハドソンは大谷の復帰プロセスにも関心を持っていた。以下はそのときの質問とハドソンの言葉だ。

―2度のトミー・ジョンから復活しているが

「僕の場合は2回したというのとは少し違っていた。回復してから再び痛めたわけではないから。だから、自分のけがは、1つのけがとして捉えている。手術と手術の間に(正式に)復帰して投げたわけではない。1つのけがと思っているが、2年以上プレーできなかったという精神的なハードルは、間違いなく一番大変だった。リハビリはかなりうんざりするプロセスで、当時はそれが一番大変だった」

―同じような経験をした人を知っているか、アドバイスをもらったり、あげたりしたことはあるか

「最近は2回手術をする選手は多いけど、僕のような再手術をした人は知らない」

―稀なケースだっただけに、再手術後のリハビリ計画も難しかったのでは?

「1度目も2度目もリハビリのプロセスはそれほど変わらない。でも2度目は治癒に時間をかけたので少し長引いた。今、ショウヘイがやっているプロセスと似ていると思うよ。僕は1回目の手術のときは4カ月でキャッチボールを開始して、6カ月でマウンドから投げて、1年で復帰するために11カ月後に試合で投げた。今は復帰までに14-16カ月かけることが多くなっているみたいだから、僕の最初の手術とはその点が違うかな」

―復帰登板で再手術をすることになったときは、とてもがっかりしたのではないか?

「難しいのはメンタル面だった。それが一番つらかった。また、一からやり直さないといけないんだと思った」

―でも、手術を受けたことであなたの投手生命が延びたといえるのではないか?

「僕にとってはキャリアを長く続けるのに役立ったと思う。投球の方法について言えば、先発投手は、僕のメカニクスには合っていなかったと思う。だからブルペンに転向した。それが、キャリアが少し長持ちした理由だとも思う。自分の身体とより調和し、身体の動きに合わせた、より微調整されたフォームにしたことも理由のひとつだ。そして、最近の分析やメカニクスは間違いなく役立っている。僕がけがをした当時は、そういったものは何もなくて、基本的に投げているだけだった。最近のテクノロジーは間違いなく、手術から復帰した選手を助けるものだと思う」

―ジェフ・パッサンさんの『豪腕』の取材に応じたのはどういう理由からか?

「当時、トミー・ジョン手術が野球界で広がり始めた頃だったと思う。彼はけがをした数人の選手に、手術を受けるかどうか尋ねていた。僕がけがをして、手術が必要だと分かったとき、彼が連絡をしてきた。僕にはそれに応じない理由はなかった。でも、その話は2回目の手術を受ける前の話で、僕が2回目の手術を受けたことで、彼の本の執筆は少し遅れることになった」

―2022年と23年に膝をけがし、そこからも復活している

「肘の故障の時に経験したことを通して、ここ数年の膝の故障を乗り越えるのに精神的にかなり助けられたと思う。 最初の膝の故障は、どちらかというと長期にわたるもので、 2回目の故障は、昨年のプレーオフに復帰できることを期待して、復帰しようと努力した。肘の手術で長いリハビリ期間を経験したことは、間違いなく役立ったと思う」

 ハドソンは、メジャーデビューしたのが2009年、2019年にはナショナルズの一員としてワールドシリーズ優勝に貢献した。今季は1年契約、年俸200万ドル(約2億9600万円)でドジャースと契約したベテラン右腕は、再びリーグ優勝決定シリーズを勝ち抜いて、ワールドシリーズ優勝リングを手にするだろうか。

 ちなみにハドソンがナショナルズの一員としてポストシーズンを戦ったときの記事も書いている。https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/acdcdec5cc83f8ec08a336d1e237d40991a1abc4

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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