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殿堂入り監督、ジム・リーランドに聞いた。三冠王と優勝の両立。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 パイレーツ、マーリンズ、タイガースなどで22年間にわたって監督を務めたジム・リーランド氏(79)が昨年末、米野球殿堂入りを果たした。監督としての通算成績は1769勝1728敗。低迷していたパイレーツを率いて1990年から3年連続で地区優勝。1997年にはマーリンズの監督に就任し、1年目でワールドシリーズで優勝。2006年から2013年まではタイガースで采配を振るった。タイガースは2003年には119敗していたチームだったが、戦力補強もあって就任1年目でア・リーグ優勝し、2011年からは3年連続で地区優勝した。

 リーランドがタイガースの監督になって7年目の2012年シーズンは地区優勝を果たし、圧倒的な強さでヤンキースを下してリーグ優勝した。ワールドシリーズではジャイアンツに負けたのだが。

 このとき、当時のメジャーを代表する右の好打者ミゲル・カブレラも全盛期にあった。監督であったリーランドは、カブレラは記録への挑戦ができる打者に到達していることを把握しており、彼が特別な何かをやってのけることをあきらめないように背中を押した。そして、2012年にカブレラはカール・ヤストレムスキーが達成して以来の三冠王になり、メジャー史上、屈指の好打者として歴史に名前を残した。

 今年の夏、デトロイトでのリーランドの野球殿堂入りの記者会見で監督として選手の個人記録達成とチームとしての勝利の両立について聞いた。

 リーランドはこう言った。「ミギーの気持ちは、我々が成し遂げようとしていたこととともにあった。それはチームとして成し遂げようとしていたことで、ペナントを獲得し、できればワールドシリーズも制覇することだった。我々はワールドシリーズでまったく良いプレーができなかった。あの2度のワールドシリーズともに優勝するチャンスがあった。十分に良いプレーができるチームだったが、勝てなかったのは私の責任であり、私はそれを受け入れている。しかし、(個人成績とチームの勝利という)2つのことを区別しなければならない。私は、選手には常に自分の成績を残し、記録を残してほしいと願っている。しかし、選手には自分の成績を残し、記録を残しながら、チームに貢献してほしいと願っている。そして、ミギーはキャリアを通じてそれを成し遂げてきた」

 リーランドは、カブレラの三冠王への挑戦を支えながら、それがチームとしての勝利、地区優勝、ワールドシリーズへとつながるようにうまく個人とチームを操縦したといえる。デトロイトニュースの記者として殿堂入りを果たしているトム・ケージさんは「リーランドの影響力はとても大きかった。ジムの長所は、選手たちに自信を与える方法を知っていたことだが、同時に選手たちが無意味な行動に走らないようにする方法も知っていた」とデトロイトニュース電子版での記事で分析しているが、カブレラの三冠王挑戦とワールドシリーズ進出の両立も、まさにその通りだったといえるのではないか。

 ちなみに、リーランドはパイレーツ時代には、もう一人の史上屈指の強打者の監督でもあった。後にMVPに7回選出される左の強打者バリー・ボンズである。記念の会見の翌日、リーランドに「ミゲル・カブレラ、バリー・ボンズを知るあなたにとって大谷翔平とはどのような打者か」と聞いてみた。「大谷はピッチャーもやっているから、2人とは比べられない」と言った。バリー・ボンズやミゲル・カブレラと「比べられない」の大谷翔平の凄さだろう。

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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