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来月で33歳、これからが全盛期。ブルージェイズ菊池雄星に好調の理由を聞く。

谷口輝世子スポーツライター
ドジャースの大谷と対戦するブルージェイズの菊池(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ブルージェイズの菊池は今季ここまで9試合に登板し、防御率は2.60でクオリティスタート(6回以上を投げ、自責点3点以内)も5度記録している。

 昨季、菊池はメジャーリーグに来て初めて2桁勝利をマークし、防御率もメジャー移籍後ベストの3.86だったが、今季はこれを上回る数字を残せる可能性もある。また、昨季の速球の平均は95.1だったが、今季ここまで95.6であり、初球ストライク率も上がり、与四球は減少傾向にある。

 6月で33歳になる菊池の球速の平均値が上がり、制球力も増している。開幕からここまでの好調の理由は何なのか。

 その理由のひとつは、2022年から23年を迎えるオフシーズンに大幅に投球フォームを見直したことにある。ブルージェイズ1年目だった22年は、不調に陥り、先発から中継ぎへ回った。その年のオフ、メジャー生き残りをかけて、ありとあらゆる修正を図ったのだ。

 メジャーで優れた成績を残している投手、今季はILに入っているがレイズの左腕マクラナハンら、多くの左腕のメカニクスをじっくり分析した結果、投げ終わるときにサード側に流れるようにした。

 「こっち(サード側)に流れようとするってことは、体が正面になり(ボールを)一個分長く持つことができる」という。投げ終わるときにはサード側に流れるが、ボールを持つ左腕は正面に残る。これまでのように指先で入れ込む操作をせずにすむようになった。これが制球力と球速向上につながっている。

 メジャーリーグで初めて2桁勝利を挙げた昨季からはカーブを投げるようになったことも大きい。カーブと、カーブより球速のあるスライダーをストライクゾーンからボールになるようにすることで、緩急をつけた投球術へとつなげた。「カーブとスライダーは、僕の場合は、大きな差がない。幅を大きくしようとしたら、もっとできるが、なるべく同じ曲がり幅で球速を変える。バッターは差がわからないので」。

 昨年からのこういったフォームの修正と新しい球種が、本当に自分のものになったのが今シーズンだといえるだろう。

 「2022年のオフにいろいろ取り組んできて、去年、いい試合は本当に良かったし、でもまだばらつきがあった。Aゲーム(よい試合を意味する)はすごく今までにない手応えがあったので、じゃあAゲームをもっとクオリティを高くし、Aゲームの試合が去年5試合だったとすれば、10試合にすれば全然違った数字になる。そういう考え方でやっている。長年、同じフォームでやってきたので、去年は(体が)元に戻りたいんだろうなというのがあったが、今年は、それはもうない」

 今年はキャンプ中から右打者対策として外へのチェンジアップを習得し、これで三振を奪えるようにもなっている。制球よく、力のある速球、カーブ、スライダー、右打者への外へ逃げていくチェンジアップで打者に球種を絞らせにくくしている。

 これらを支えるバックボーンは、昨シーズンで得た自信と投手としての成熟だ。

 情報の取捨選択ができるようになった。どうやったら球速が上がるか、その情報は出尽くしているが、どのように取り入れるかは単純な話ではない。「人それぞれ、筋肉も違う、骨も違う中で、全員が同じことやったら同じアウトプットが出るかといったら、またそれも違う。自分に合ったものを探しながら、やっていく必要がある。だから球速が出る要素を全部、追い求めても出ない。ある程度、諦めなきゃいけないところがある。ただ、これだけは絶対、僕にとって必要だよねというものがあるので、そこを守っている感じ」だという。

 もうひとつは、うまく力を抜くことができるようになったことだ。それが球速アップにつながっている。「脱力ってどういうことか体験したいと思って、日本に帰ったときに古武術(の稽古)とかも受けた。力を入れるのは誰でもできるが、力はあるんだけど、頼らないで抜くということがすごく難しい。それが試合にとなるとさらに難しい。リラックスしたほうが球速が出るなというのは感じている」という。

 4月27日にドジャースの大谷翔平と対戦したときには、今季ここまで最速だった98.2マイル(約158キロ)を投げた。これをライト前にはじき返されたが、このときも集中しているが、力み過ぎていない状態にあった。

 「脱力というのは、どのスポーツにおいても鍵なんじゃないかと思う。それはフォームの脱力だけじゃなくて、生き方とか、考え方とかをも柔軟な人。一番強いんだろうなと。強い人で柔らかいんだろうなと」

トレーニングによる強靭な体と、心身ともに力まないしなやかさを手に入れつつある。菊池雄星の全盛期は、今、始まったばかりなのかもしれない。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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